第15章 戦争
一千年前。
凶隕石オウトが空に太く長い光の軌跡を描いてこの星から遠ざかって行く。一方で重力に囚われたゲロウ隕石は太陽より強く輝きながら地面に向かって落ちて行く。
魔族の四体の大幹部と百体の幹部たちは魔力を集められる巨大な装置に向かって静かにその時を待っている。
魔王城の屋上に女勇者リベット、大魔法使いフィディックと魔王バカルが立っている。飛び去って行くオウトを眺めていた三人がお互いを見つめ合う。
「君たちが破壊したゲロウの破片は、幹部たちが僕に向かって誘導するのでそれを全て僕が受け止める。頑張って!」
リベットとフィディックが小さく頷く。
「最後に言いたかったんだけど、バカルくんて魔族と話す時は自分のこと我とか言って怖いのに、リベットちゃんと話すときは僕とか言って可愛いよ♡」
フィディックが無邪気に笑うとバカルが恥ずかしそうに下を向く。
「いつも熱々の二人を見せつけられてるんだから、最後にこのぐらい言わせてね」
リベットとバカルは苦笑した。
「彼氏もいない孤独な魔法使いだけど、これできっと私の銅像が建つから満足かな」 フィディックが笑うとリベットもクスッと笑顔になった。
三人はしばらく見つめ合い、しばらくの沈黙が続いた。
そして、
「さあ行くよ!」
フィディックが凶隕石ゲロウに向かって呪文を唱えると光の帯が作られた。リベットは聖剣をゲロウに向かって構える、フィディックはリベットを抱えるとゲロウに向かって光の帯の中を飛んでいった。
二人の速度はどんどん速くなり音速の何倍ものスピードになって行く。直径三十キロの巨大な隕石が不吉に輝きながら近づいて行く、リベットの聖剣が限界まで光輝く。
「アルコ……世界を救ってね」
リベットの握った光輝く聖剣がゲロウを突き刺す。
オリハルコンで作られた聖剣は粉々になり、巨大な隕石は大爆発を起こした。万を越えるゲロウの破片は魔族幹部たちによって魔王バカルに向かって行く。バカルは魔王城の真上で真っ黒のカミナリを伴ったシールドを作る。そのシールドに次々とゲロウの破片が衝突する。魔族幹部たちは、誘導と共に必死に魔法のビームで破片を破壊して行く。
バカルの作ったシールドは物凄い光と音を立ててゲロウを受け止めるが、ときおりシールドを貫いてバカルの身体を突き抜ける。
ゲロウ隕石の破片の九割を受け止めたバカルだったが、その時には、左腕と右脚が失われ、身体中が穴だらけだった。
「アルコ……世界を救え」
それでも耐えていたバカルだが、ついにゲロウの破片がバカルを貫いて次々と魔王城へ落ちていった。
そして魔王城が大爆発をおこした。
◇
世界が救われてから一千年後。
魔族再興の母バボンの前に魔将軍エヴァンと魔少佐ダニエルと杉風が立っていた。
「これだけ言ってもだめか……」
バボンが顔をしかめる。
「今更、人間と和平など無駄です。我々はゴーレムを手に入れて戦争を有利に進めております。じきに人間を滅ぼす事が出来るでしょう。大体、人間を信用してはならないとおっしゃったのはバボン様ですぞ」
エヴァンが怒りをあらわにする。隣に立つダニエルが続ける、
「アルコにたぶらかされましたな……バボン様、わかっていますよね、アルコは魔族ではなく人間の身体を持っていることを。私がアルコに会いに行って確かめてまいりましたが、アルコの寿命は百年持ちません。我々のように長生きは出来ないのです。凶隕石オウトが飛来するのは二百年後……破壊するまでに寿命が尽きてしまいます。だから我々がアルコを殺して能力を奪わなければ……」
「もういい……好きにするが良い」
エヴァンとダニエルと杉風はバボンに踵を返すと去って行った。
◇
今度はアランとアルコがバボンの前に立っている。
バボンの寿命は尽きようとしていた。
僕とアルコがお屋敷で休んでいると、ローゼが泣きながら現れた。バボンが危篤でアルコに会いたいと言う。僕とアルコは屋敷をコッソリ抜け出してローゼの氷の雲に乗ってバボンに会いに行った。
「アルコ……私は貴方に言わなければならないことがある、ローゼも聞いてね」
バボンの顔色は悪く息をするのも苦しそうだ。
バボンは隠された歴史について話し出した。人間は裏切ったけど、実は女勇者リベットと大魔法使いフィディックが命をかけて協力したこと、そして女勇者リベットがアルコの母であること。大僧侶マカラがアルコを連れて帰ったことなど。
「私は魔王様が好きだった、だから貴方のお母さんが憎かった。その憎しみを人間への憎しみに変えてしまった。私は間違っていた……貴方に会えて自分の間違えに気づけた。ダニエルもエヴァンも人間を憎んでいる、私のせいなの……」
バボンが咳をして顔を歪める、ローゼとアルコは心配そうに見つめている。僕もまさかご先祖様の大僧侶マカラがアルコのお母さんの仲間だったと聞いて驚いた。
「魔王様は人間と魔族は仲良く平和に暮らすことを望んでいた、私も今はそう思う。アルコ……貴方は物凄く強いけど身体は人間よ。人間と魔族……ローゼは貴方のことが好きなの……結婚してくれたら嬉しいけど……」
「いいよ。僕はローゼと結婚するよ」
僕とローゼが驚愕する。特にローゼが唖然としている、頬が赤くなる。
「ローゼは絶対に僕を裏切らないって約束したんだ、だから結婚するよ」
バボンが涙を流す。
「ほ、本当にそんなことが……」
「約束するよ」
アルコがバボンに歩み寄り、唇と唇を重ねる。バボンが驚きで一瞬飛び跳ねる、顔が赤くなった。
「ま、魔王様……好きです……お、お願い、手を握って……」
アルコが手を握るとバボンは涙を流しながら嬉しそうな笑顔の中で息を引き取った。ローゼが「お母様!」と叫び涙を流した。僕も泣いてしまったが、アルコだけはバボンの手をギュッと握りしめながら無言でバボンを見つめていた。
◇
僕たちは屋敷に帰った。まさかアルコがローゼと結婚することになるとは思わなかった。ところで、アルコは結婚の意味をちゃんと分かっているのだろうか?
「アラン、お揃いの寝間着を着て一緒に寝ようよ~」
「だ、だってローゼちゃんと結婚するんでしょ、これからは一人で寝なきゃ……」
「だってアランが一番好きだもん……」
(おいおい……ローゼちゃんが聞いたら怖いよ……)
結局、一緒に寝ることになってしまったのだが、僕はローゼちゃんが襲ってくる夢を見てうなされてしまった。ローゼちゃんは四十九日があるのでしばらく来れないと言っていた。僕たちは静かに暮らしていたが、戦争は激化していて、魔族軍が王都を破壊したとのニュースが流れてきた。




