第12章 救出
一千年前、凶隕石ゲロウ衝突が迫る。
魔王城のある部屋で女僧侶マカラの怒鳴り声が響き渡る。
「ど、どうして! ここまで来て帰れって!」
透明の石に包まれた赤ん坊を抱いた女勇者リベットと、女大魔法使いフィディックが困ったようすでマカラの怒りを受けている。
「バカルくんが多分完全に隕石を破壊するのは無理だって。この子を死なせないために人間側に避難させるって……だからこの子を連れて戻って欲しいの」
リベットが涙目に訴える。
「だいたい、破壊ってのは魔法使いとか戦士の仕事なの。僧侶の出番はないの」
フィディックが場を和ませようと軽口を言う。
「わ、私だって何かの役にたてるよ! 死ぬ時は一緒だよ!」
「お願い、この子を連れて戻って。あなたにはフィアンセもいるじゃない。この護符には私の思いが入っているの、アルコを復活させるのはあなたの一族にゆだねるわ。残念だけど、信用出来る人がいないの……」
リベットが中央に白い大きな宝石、その下に赤、青、黄色、緑、黒の小さな五つの宝石が埋め込まれている護符をマカラに見せる。
「その護符は、大魔法使いフィディック様と大魔王バカルの傑作だよ」
フィディックが微笑む。
マカラはリベットとフィディックをしばらく見つめてから、護符を受け取り呪文を唱え始めた。護符が虹色に輝き出す。
「大僧侶マカラの魔力をこの護符に移したよ。もしアルコに危険があったらこの護符をつけた私の一族が守ってくれるわ」
マカラがリベットから赤ん坊を受け取り、
「これで私は一切魔法が使えなくなっちゃった! もうただの人間、役立たずだから帰るね」
マカラが微笑む、目には涙が滲んでいた。
リベットとフィディックも微笑んだ。
マカラは馬車に乗って赤ん坊を抱いてリベットの生まれた村を目指した。魔族帝国と人間王国の国境付近に達した辺りでマカラは振り返った。
遠くに見える魔王城から光の帯が空に向かって伸び、その先には燃えさかる月のような巨大な隕石が空から落下してくる。そして天使のような二人の女性がその光の帯の中を飛んで行くのが見えた。
その姿を見てマカラは涙し、腕の中にいる赤ん坊をギュッと抱きしめた……。
マカラの魔法は護符に込められた。その能力はアルコを守るはずだった、だが五つの指輪を持つ者がアルコの能力を継承できるという呪いのせいで、マカラの能力を封印してしまったことに、当のマカラは気づいていなかった。指輪を持つ者がいなくなり、倒れることでようやくマカラの魔法は発動することが出来た。
◇
ダニエルが去った直後に場面を戻す。
僕の魔法でアルコはすっかり回復したが体力は奪われていた。
「ローゼちゃんが魔族だったとは……」僕とアルコが驚いた顔をする。
「最初はアルコ様を殺すつもりで来たの……もう、お家に帰れないな……」
「だったら、一緒に住もうよ」アルコが無邪気に提案する。
「そうだね、そうしよう!」僕も賛同する。
「今日は三人で一緒に寝よう!」アルコが笑う、
「それはマズイよ〜」僕は困った顔をした。
ローゼが笑顔を取り戻すと、僕らは笑った。
◇
戦いのあった屋敷を大勢の兵士が取り囲むと、騎士団長と大勢の騎士たちがアルコたちの部屋に飛び込んで来た。
「アルコ殿、アラン殿、その魔物から離れて!」
騎士団長は手錠のようなものをローゼの腕にかけた。ローゼが力を入れようとすると電流が流れて悲鳴を上げた。あっという間にローゼは連れて行かれてしまい僕とアルコは唖然としていた。
「騎士団長様、ローゼをどこに連れて行くのですか?」
「もちろん、刑務所の一番奥深くだ。拷問にかけて魔族の情報を聞き出す」
「ダメだよ。ローゼは僕と一緒に住むんだ」アルコが叫ぶと足がふらついてしまった。疲れがピークに達していた。
「アルコ殿はゆっくり休んでください」
アルコの解毒は済んだが顔色は悪かった。兵士に抱えられて強制的にベットに連れて行かれた。ベットに横たわるとアルコは気絶してしまった。僕はアルコが目覚めるまでずっと側にいた、アルコは三日間起きなかった。
◇
やっとアルコが目覚めた。
「あっ! やっと起きたね、良かった!」
僕はホッとした。
「夢を見てたよ、ママが何か言ってた。みんなを守るとか平和とか……でも顔がわからなかった、声だけなんだ」
「体調はどう? 凄い毒だったから心配だよ」
「もうすっかり良くなったよ。アランの新しい魔法だね」
僕は胸の護符を見つめる。
「多分、指輪をもった魔族の人を倒すとこの護符が指輪の色で光るんだ。そうすると魔法が使えるようになるんだと思う。あと赤、青、黒の三つの埋め込まれている宝石がまだ光っていないんだ」
「ところでローゼは?」
僕はバツが悪そうに答える。
「刑務所に連れて行かれた……拷問されるって……」
「ローゼが何か悪いことしたの?」
「何にもしてない……魔族だから……」
「じゃあ連れて帰ろうよ。ローゼは僕と住むんだ」
アルコはベッドから起き上がると服を着替えた。
「僕も行くよ。話せばわかってもらえるかもしれない」
ローゼが囚われている刑務所は、どちらかと言うと要塞のようなお城だった。刑務所の周りは堀がぐるっと巡らされていて、入口は橋を超えて行かないと中に入れない、橋の前にある門にたどり着いたが中に入れてもらえなかった。
「アランと申します。所長様とお話がしたいのですが、ローゼのことで」
しばらくすると、門番に連れられて刑務所長が現れた。
僕はローゼと会わせてくださいとお願いしたがまるで聞き入れてくれなかった。そればかりか警備兵の人たちが来て剣で僕たちを脅してきた。
「ローゼはどうしているのですか?」
「拷問にあっているよ。しぶとい女魔族だ」
アルコの目が赤く輝く、
「ローゼは僕と住むんだ。ローゼは僕を裏切らない、だから連れて帰るよ」
アルコは門番たちを押し除けて橋を渡ろうとすると、門番はアルコを警棒で殴りつけた。アルコが後ろに吹き飛ばされる。アルコが立ち上がると瞳がいつになく真っ赤に染まっていた。
「こいつら邪魔だな……」
小さな声でアルコが何か呟いた。僕にはなんと言ったか聞こえなかったが、アルコが手を刑務所に向かってかざすと物凄い黒い稲妻が刑務所の壁を吹き飛ばした。煙と轟音で刑務所が崩れ落ちてゆく。
「アルコ! ダメだよ!」 必死に止めようとする僕の静止を振り切り、今度は腕を回すと黒い竜巻が赤いカミナリを伴って橋の上にいる門番と刑務所長を吹き飛ばした。
「滅びろ……」
アルコの髪が逆立ち、手を振り上げると紫の光を纏った真っ黒な三叉の槍を手にしていた。僕はアルコに飛びついた。
「アルコ!!」
アルコが振り向いたおかげで三叉の槍は誰もいない場所へ飛んで行った、槍が落ちた場所は大爆発を起こし地面に巨大なクレーターが開いた、地面が揺れて地震のようだった。
僕が必死にアルコに抱きつくと、アルコは正気を取り戻した。
「あれ? みんないなくなっちゃった……」
目の色は元通りに戻っていた、どうやら元に戻ったみたい。
門番や所長は吹き飛ばされていなくなっていた、残った人たちも逃げて行ったので、僕たちは刑務所に入りローゼを探すことにした。どうやら、地下の奥にいるらしい。階段を降りて行くと嫌なジメジメとした廊下があり一番奥の広い牢屋にローゼを見つけた。
ローゼは鎖で繋がれたまま血だらけになり、ところどころ鞭で叩かれた跡があり酷い姿だった。アルコが光の魔法で鎖を断ち切り、優しく抱き寄せた。だがローゼは意識がなかった。僕がローゼを背負おうとすると、アルコが僕を制してローゼを抱っこした。そのまま僕たちは刑務所から出た。
ローゼをアルコが抱っこしたまま外に出ると、すっかり誰もいなくなっていた。そのまま屋敷に戻ろうと僕が言おうとしたとき、空から何かが落ちてきた。
「杉風参上!」
杉風が現れた。そして、その後ろに大魔姫バボンが立っていた。




