第10章 潜入
アルコとアランが住む屋敷の前。
夜明けの中、大魔姫ローゼと杉風が屋敷を見つめる。
「ローゼ様、この屋敷にアルコがいます」
「よし、私は家政婦に扮してアルコの弱点を探って来よう。お前は陰から見守っていろ、隙あらば殺す、お前は復讐心が強すぎるから動くな私がやる。だがまずは偵察が最優先だ」
ローゼはメイド服に着替えて、そっと屋敷に潜入した。
屋敷に入ると二人の大人の使用人がいた。
「おはようございます。初めまして、お手伝いに来ましたローゼです」
「あれ、お手伝いさんなんて頼んだっけ? まぁいいや、それではアルコ様のお部屋をお掃除して来ておくれ」
ローゼは掃除道具を受け取った。
(上手く行った……)
ローゼはアルコの部屋の前に来るとノックをして中に入った。天井の隙間から杉風の覗く目が光る。
「あれ? 初めて見る顔だね」
アルコの顔を見た瞬間、ローゼに物凄い衝撃が走った。
(す、素敵……可愛くて、カッコいい……)
「ロ、ローゼです! 初めまして、お掃除します!」
ローゼはドキドキしながら掃除を始めた。するとマンガのように机に掃除機をぶつけて置いてあった花瓶が落ちて割れた。
「きゃっ! す、すみません! ど、どうしよう……」
「ゴミ箱あるから、とりあえずここに捨てたら。手伝うよ」
「わ、私がやりますっ!」
ローゼが割れた破片を拾っていると、アルコの手が伸びて破片を拾った。ローゼが大きな破片を拾おうとして、アルコの手を掴んでしまった。
「きゃっ!」
「それは僕の手だよ」アルコが微笑むとローゼの心臓の鼓動が高鳴る。あらかた破片を拾い終わったので、細かい破片を掃除機で吸い取るために、掃除機を取りに行こうとして、スカートの裾を踏んで転んでしまった。ローゼは戦闘の訓練ばかりしていたので長いスカートを履いたことが無かった。
「きゃっ!」
「大丈夫?」アルコがローゼの手を取って起こしてあげた。
「あ、ありがとうございます……」ローゼの頬が赤くなる。なんとか掃除機をかけて、割れた破片が入ったゴミ箱を片付けようと両手にもって歩き出したら掃除機につまずいてまた転んでしまった。ゴミ箱の破片が再び撒き散らされた。
「きゃっ! ご、ごめんなさいっ!」
アルコが微笑むとまた破片を拾いゴミ箱に入れた。
「僕が破片を拾うから、ローゼは掃除機をかけなよ」
「ありがとうございます……」
ローゼはよく考えたら生まれてこのかた掃除をしたことがなかった。ようやく撒き散らしてしまった破片を掃除し終わった。新しい花瓶を取りに部屋を出ようとすると、アルコが呼び止めた。
「ローゼ、僕の前に来て」
ローゼがドキドキしながらアルコの眼の前に来る、何度見てもアルコはローゼの好みだった。ローゼの母バボンはアルコの父バカルに恋をしていたので、その血がそうさせたのかもしれない。
「目をつぶって……」
(えっ!?……)
ローゼが目をつぶるとアルコの手が頬をなでた。ローゼの緊張が頂点に達する。
「前髪と帽子がグチャグチャだったよ。きっと転んだときだ、ほら綺麗になったよ」
(わ、私のこと綺麗だなんて……いやん……恥ずかしい……)
「ア、アルコ様のほうが素敵です……」
「えっ!」
ローゼは真っ赤な顔を隠して走って部屋から出て行った。
(ローゼ様は何をやってるんだ……)
天井から覗いていた杉風が呆れていた。
廊下に出てハアハアと息を荒げながらローゼが新しい花瓶を取りに行く。
(だ、駄目よローゼ! 私はアルコ様を殺しに来たのに……でも アルコ様、格好良すぎる……!)
◇
ローゼが新しい花瓶を持ってアルコの部屋に入ろうとすると、アルコの部屋からアランが出ていった。部屋から出て行ったアランを横目に部屋に入るとアルコが寂しげな表情で立っていた。そんな表情のアルコも素敵と見とれていたら、またスカートの裾を踏んで転んでしまった。宙を舞った花瓶をアルコが片手でキャッチして机に置いた。
「きゃっ!」
「おっと、危ない、また割るところだったね」
アルコの笑顔が何故か寂しそうだ。
「あ、ありがとう……ございます……」
「いいんだ、でもローゼ、聞いて欲しいことがあるんだ」アルコが涙目になっている。
「な、なんですか……?」
「アランがね、僕がトランプに勝って今日は王様なのに、お仕事とか言って夜まで帰ってこないんだよ~! 酷いよね~! ズルいよね~。何でも言う事聞かなきゃダメなのに、行っちゃダメって言っても行っちゃったんだよ~」
「人間はそうやって裏切るのです……」
ローゼの目が光る。
「じゃあローゼも裏切るの?」
「私は絶対裏切りませんよ」
「本当に……」
「本当です」
「約束する?」
「約束します」
「じゃあ」と言ってアルコはローゼの両頬に手を添えると唇にキスをした。するとローゼが膝から崩れ落ち失神した、これが大魔姫ローゼのファーストキスだった。
「あれ? どうしたの……」アルコがローゼの頬をペシペシと軽く叩いた。
ローゼが目を覚ますとアルコのベッドの中だった。
「あっ! 起きたね」アルコがベッドに飛び乗りローゼの横に寝そべる。ローゼがビックリして硬直する。すぐ隣に来たアルコは素敵だった、体がピッタリとくっつく。
「アランがいないから暇なんだ、お話しようよ。あれどうしたの? 震えてるよ」
「ド、ドキドキしてしまって……」
アルコがローゼの手を握って抱きしめる。
「あっ!」
「安心したいときはこうやって手を握るんだ。安心するでしょ」
「は、はい……気持ちいいです……」
ローゼの心臓はかつてないほど、高鳴っていた。
「あ、あの……アルコ様は魔族は嫌いですか……?」
「ううん。この間ね、忍者みたいな魔族と戦ったんだけど僕泣いちゃった。みんなで仲間を守ってたんだ、いい人たちなんだろうなと思って」
「ア、アルコ様は魔族の女は嫌いですか……?」
「ローゼみたいだったら大好きだよ! 約束守ってくれるんだもんね」
(ローゼが好きって……そんな……アルコ様……いやん……そんないきなり……)
「わ、私も好きです……」
ローゼがアルコの胸に頭を乗せる。すると、ガチャリと扉が開いてアランが帰って来た。
「アルコ、騎士団長様がお仕事の日にち間違えてたって。今日はずっと遊べるよ!」
「本当! やっぱりアランは約束を守るんだ! 大好き!」
アルコはローゼを置いてベッドから飛び出すとアランに抱きついた。
「あれ? この人は」
「し、失礼しまーす」
ローゼは顔を赤くしながらベッドから起きあがると走って出ていった。ドアを開けて部屋から出る直前にふとアルコを見るとなんとアルコとアランがキスをしていた。ローゼは信じられないという表情をして部屋を出た。廊下には杉風が立っていた。
二人はそのまま魔族の拠点へ帰って行った。その帰り道、
「ローゼ様、どうしました?」
「あのアランとか言う人間を殺す。アルコ様を私のものにする……!」




