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普通の昼休み

 昼休みになった。

 お昼はいつも澪ちゃんと一緒に食べるのだけど、今日は委員会の集まりに行っていていないので、一人で弁当を広げる。すると、

「かのちゃん、お昼一緒に食べない?」

 と、すずちゃんが声をかけてきた。灰田(はいだ)すずちゃん。ニコニコとした優しい笑顔が印象的なクラスメイトだ。

「うん、いいよ。食べよ食べよ」

「よかったぁ。今日、遥乃(はるの)、委員会の集まりでいなくって」

「そっか、宇佐美(うさみ)さんも放送委員だもんね」

 すずちゃんと他愛のない会話をしながら昼食を食べる。ふと、

「すずちゃん。その鞄に付けてるのって、何かのグッズ?」

「ああ、これ? うん、ゲームのやつだよ」

「すずちゃん、ゲーム好きなんだ?」

「わたし自身はあまりやらないけど、推してるVtuberさんがこのゲームにいまハマってて。だから同じの付けてるんだ」

「推し」

 今朝、澪ちゃんとしたやりとりを思い出した。

「Vtuberかぁ。いいね、普通っぽくて」

「普通っぽい?」

「あ、ううん。なんでもない、気にしないで」

「かのちゃんは? 誰か推し、いないの?」

「うーん……特にいないなぁ」

 憧れ、というか、そういうのがいたほうが普通の女子高校生っぽくていいよなぁとは思うけれど。

「そのVtuberさんって、どんな人なの?」

「ウフフ。えーとねぇ、声と顔がかっこよくて、おもしろくて優しくて、とぉっても素敵な人なんだぁ」

 そう言ってすずちゃんは糸目をさらに細くさせる。少し頬も赤らめて。本当に好きなんだなぁ。なんか可愛い。

「普段、配信ではどんなことするの?」

「雑談とか歌とか、あとは同じ映画を一緒に観るとかかな」

「あ、知ってる。同時視聴ってやつだ。……ん? あれ、ゲームは?」

「ゲーム?」

「うん。だって……」

 と、わたしは鞄に付けられているキーホルダーに目を向ける。

「ああ。これは彼がプライベートでやってるゲームのやつなの。配信では、ゲーム実況はほとんどやらないんだ」

「そっか、なるほどね。たしかに、好きな人のやってることって興味湧くし、まねしたくなっちゃうもんね」

「なんか恥ずかしい」

「そんなことないよ。熱心な推し活って感じで、すごいと思う。ちょっと羨ましい」

「ウフフ。ありがとう。あとは、彼が身に着けてるものと同じものを自分も着けてみたり、彼が行ったのと同じお店でごはんを食べたりもしてるんだ」

「へえ、すごいね。やっぱりそういうのって、配信を何度も観なおしたりしてチェックしてるの?」

「ううん。彼、配信ではあまりプライベートのことを話さないから」

「? ふぅん……?」

 じゃあ、SNSとかから情報を得てるのかな。

「他には? どんな推し活してるの?」

「うーんと、聖地巡礼とかかな」

「聖地? ……その人が所属してる事務所とか?」

「ううん。彼のご実家」

「——え、実家? そんなことまでSNSで公開してるの?」

「まさか。そんなことしたら個人の特定に繋がっちゃうじゃない」

「そうだよね……」

 うん、とすずちゃんは微笑んで頷く。

「……ちなみにすずちゃんは、その人のご実家に行って何してるの?」

「近所を歩いてみたり、写真を撮ったりとかかな。聖地巡礼だから」

「あぁ、うん、そっか……」

「あとは、彼にメッセージを送ったりもよくしてるよ」

「ああ……配信のコメントとかで?」

「ううん。お手紙」

「あ、ファンレターってことだね。そういうのって、事務所に送るの?」

「ううん。彼、個人でやってるから、事務所とかには所属してないの」

「へぇ……」

 なんだか喉の渇きを覚えて、水筒のお茶を流し込む。

「あとね、たまにだけど、彼に直接会いに行ったりもしてるの――あら?」

 大丈夫? とすずちゃんがわたしの顔を覗き込む。ケホケホと咳をしながら、大丈夫、と笑って答える。

「そ、それはあれだよね? イベントとかの話だよね?」

「ううん。彼、イベントはまったくやらない人だから」

「……」

 まだ少しガラつく喉を咳払いして、わたしは訊ねる。

「すずちゃん、さっき、同じ映画を彼と一緒に観るって言ってたよね……?」

「うん、言ったよ」

「あと、彼と同じものを身に着けたり、同じお店でごはんを食べるとかも……」

「うん、言った」

「……」

「……」

「……そっか」

「うん。ウフフ」

「ア、アハハ――」

 笑おうとして、ケホケホとまた咳が出てしまう。

「かのちゃん、大丈夫? 風邪? 最近、彼もなんだか体調が悪いみたいだから、かのちゃんも気を付けてね」

「そ、そうなんだ……心配だね」

「うん、とっても」

「アハハ……」

「ウフフ」

「……つ、付き合ってるとかじゃないんだよね、その彼と?」

「もう、なに言ってるの、かのちゃん。そんな夢みたいなこと。わたしはただのファン。彼のことをいつも見てるだけだよ」

「いつも、見てる……」

「うん」

「……それは、画面を通して、ってこと、だよね?」

「……」

「……」

「ウフフ」

「ア、アハハ」

「ウフフフ」

「アハ、アハハハ」


 ウフフフフ――。

 アハハハハ――。

 ウフフフフフ――――。

 アハハハハハ――――。

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