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惚れた弱みにご用心  作者: あおあん


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8/11

2度目の勉強会は、柴崎さんの提案でコーヒーショップで開催された。


「すみません。先に、正直にお話しします」


手を太ももに乗せ、かしこまった柴崎さんに、私も背筋を伸ばした。


「今日は弊社の商品紹介をさせてください」


一息で言って、深々と頭を下げられた。


「え……と……」


周りの人に見られて恥ずかしいから、柴崎さんの肩を持ち上げる。


「顔を……上げてください」


「勉強会では営業はしないって言ったのに、いきなりの手の平返しで本当に申し訳ありません!」


下を向いたまま大きな声を出すから、ますます皆に見られてる。


「あの……恥ずかしいのでやめてください……」


はっとしたように柴崎さんが顔を上げて、立ち上がった。


「そうですね。すみません。他の店に行きましょう」


飲みかけのコーヒーを置いて、私たちは席を立った。


「なんか、本当すみません。自分、時々、周りが見えなくなっちゃう時があるみたいで」


「いえ……」


別に柴崎さんを責めているわけじゃないし、謝られても困ってしまう。


「どこか行きたい店ありませんか?夕飯には少し早い気もしますけど、もうコーヒーはいらなくないですか?」


確かに。


「なら、ひとつ提案が……」


行ってみたいところがあった。






若い学生でレジ前が混み合っている。


前から気になってよく見ていたけど、近付けなかった空間にいることが信じられなくてドキドキが止まらない。


「ファストフードお好きなんですか?」


「あ……いえ……あまり来たことが無くて」


「なるほど」


くすっと柴崎さんに笑われた。


ずっと食べてみたかったけど、学生の頃に機会がなかった憧れの店だった。


どこに並ぶのかすら分からない……戸惑っていると、柴崎さんに肩を叩かれた。


「先に席を確保するんです」


柴崎さんはプレートみたいなのを、テーブルに置いて戻って来た。


それから、レジではなく、大きな機械の前に立ち「どれにしますか?」と言った。


「はい?」


「これでタッチして注文するんですよ」


絶句。


じゃ、あのレジにいる方達は何をされているのでしょうか……


柴崎さんはモニタを見ながらポチポチと注文を進めた。


「さ、友香里さん」


そう言われて、目玉焼きが乗った『月見バーガーセット』というのを頼んだ。


何もかもが新鮮で、キョロキョロしてしまった。


今度は私が柴崎さんに恥ずかしい思いをさせてしまったかも知れない。


「世間知らずですみません」


頭を下げる。


「そうやって頭を下げるのはお互い無しにしましょう」


柴崎さんは苦笑いをしていた。


「そうですね」


照れながらハンバーガーにかぶりつく。


「ん!美味しい!」


「はは。この前の寿司屋よりいい顔してるじゃないですか!」


「だって……あそこはよく行く知った味なので……」


「お嬢様なんですね」


「そうなんですかね。私にはよく分かりません」


ちょっとしなしなのポテトも薄まったような炭酸も、私には刺激的で美味しかった。


「食べながらでいいです。聞いてもらえませんか?」


「はい」


遠慮なくもぐもぐしながら、柴崎さんが指さす資料に目を落とす。


「弊社の売れ筋商品で『オイル・リザーブ・ファンド 10』というのがあります。カタールにある非上場のオイル関連業者に出資して、毎月配当を得られるという投資商品です」


「毎月いくらもらえるんですか?」


「一口10万円を投資していただくと、毎月500円の配当が振り込まれます。年利6%です」


多いのか少ないのか分からない。


「銀行預金の金利は0.点何%とかなので、比べると破格の配当です」


「確かにそうですね」


「ただし、投資なのでリスクがあります」


「リスク?」


「はい。元本は保証されません。カタールの事業が上手くいかなくなれば、配当が止まることがありますし、最悪の場合、預けた10万円は返ってきません」


「は……い」


「友香里さんに商品を買って欲しくてこの話をしているわけではありませんので、あまり怖がらないでください」


「じゃあ、どうして?」


「上司に……東さんっていう副社長に、宣伝して来いって言われたって言うか……自社商品を紹介出来ないなんてどうしてなんだ、みたいなこと言われて……流れで……」


上司に見えないところで、ちゃんと指示に従っている。


そんな真面目な柴崎さんには好感が持てる。


「冷めちゃいましたね。柴崎さんも食べてください」


「あ。はい」


私の3倍はありそうなハンバーガーにかぶりつく。


「私も勉強中なので、少し質問してもいいですか?」


「どうぞ」


「預けた10万円は何に使われているんですか?どうして増えて返って来るのかが謎です」


「カタールに石油を掘っている会社があります。そこの運営費に回されます。例えば設備投資とか、労働環境の整備などに使われることで、より生産量が増え、売上が上がるので、それが分配されてきます」


「だから事業が上手くいかなくなれば、配当は止まるし、投資したお金は返ってこないというわけですね。配当の見直しはどのタイミングで行われるんですか?」


「年に一度、1月です。12月に前年の決算発表を参照して決定されます」


「柴崎さんご自身は投資されてるんですか?」


「はい。もちろんです。何口か持っています」


「知り合いに自信を持ってお勧め出来る商品なんですよね?」


「間違いなくお勧め出来ます。過去4年間、創業当初からこの商品の配当が下がったことは一度もありませんので。お父様にご確認いただいても大丈夫ですよ」


柴崎さんはくったくのない笑顔だった。


「はい。一度、父にも相談して検討してみようと思います」




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