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惚れた弱みにご用心  作者: あおあん


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第26話 友香里・14

「誠に申し訳ございません!」


柴崎さんが膝におでこが付きそうな程、身体を折り曲げている。


今朝、出社したら、会社の門の前に柴崎さんが立っていた。


「友香里さん、お話があります」


思い詰めた顔と、目の下のクマを見て、よくない話だとは察しがついた。


「どうぞ中へ」


会議室にお通しし、お茶を出した。


「この前いただいた契約を全部白紙に戻していただきたいんです」


私が着席するのと同時に柴崎さんが立ち上がり謝罪を始めた。


唐突なことなので、状況が飲み込めない……


「どういうことですか?全部、白紙?」


私の理解が正しければ、『皆で申し込んだ投資は無かった事にする』だけど、それで合っているのかな?


「はい。現状、弊社が出している投資商品は募集人数の上限に達してるとの事で、新規の契約を受け付けられなかったんです。僕はその事を知らなくて、昨日、帰国した東さんにそう指摘されてしまいました」


会社の内部事情を共有されていなかったなんて……


あんなに一生懸命新規の契約を取っていたのに……


柴崎さんの心痛を思うと、私まで辛くなってくる。


「黒瀬さんは?どうおっしゃってるんですか?」


もしかしたら、何とかしてくれるんじゃないかと一縷の望に期待をしてしまう。


「すみません。昨日、たまたま東さんに会っただけで、黒瀬さんとは話してないんです。今日は自宅から直接こちらに来ましたので」


日曜日にたまたま東さんに会ったりするかしら……


柴崎さんは東さんに好意を持っておられるけど……


久しぶりに会って、契約を白紙に戻せと言われるなんて。


やっぱり同情せずにはいられない。


「しょうがないですよね。もうすぐ皆も出社してくると思うので、一緒に頭を下げましょう?」






狭い会議室に事務職の皆を集めて、柴崎さんの話が始まった。


「え?今さら?」「一方的に勝手じゃない?」などと、小声で反論が聞こえてきた。


私は、まさか、一緒に働く皆からこんな声が聞こえてくるとは思っていなくて……


柴崎さんの隣で立ち尽くしたまま動けなかった。


「ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」


深く頭を下げる柴崎さんに合わせて、私もお辞儀をする。


「ちょっと、友香里ちゃん、私たちにぬか喜びさせて、結局自分だけ美味しい思いするの?そんな子だなんて思ってなかったから、がっかりしちゃった」


「す、鈴木さん、友香里ちゃんは社長の姪っ子だよ……」


ここに集まった女性事務員4名が私の方をちらちらと見ながら、互いに言葉を掛け合っている。


普段、社長の身内であることを実感するような事は無かっただけに、こうした光景を目の当たりにするとショックを隠しきれない。


「私は……ただ……」


一斉に視線が集まり、喉に言葉がつっかえる。


「友香里さんに非はないんです。全て、弊社の都合で、僕が至らなかったばかりに起きてしまったことでして、本当に申し訳ございません」


硬直した場に顔を出したのは社長である、伯父だった。


「こんなところで何をしてるんだ?」


人気のない事務所に不思議に思い、探していたらしい。


「社長……友香里ちゃんが紹介してくれた投資の契約を白紙にして欲しいって、営業さんが謝りに来てたんです」


鈴木さんが訴えるような目で伯父に言った。


「投資?」


瞬時に鋭い目つきで伯父が私を睨みつける。


「すみません……これは、安全なやつなので……私もやっていますし……」


めらめらと燃え上がるような怒りを感じる。


伯父は投資が嫌いなことを私は知っている。


「『白紙に戻す』とは?」


今度は柴崎さんに、圧のある口調で聞いた。


「募集枠の上限に達したことを知らずに、契約を結んでしまいました」


柴崎さんは怯えることなく、堂々と答えた。


「そういうことか」


ゆっくりと、その場にいる人の顔を見回し、


「契約は無効だ。これは君達にとって不幸中の幸いだと思って諦めなさい」


と威厳たっぷりに一人一人の顔を見て言った。


「伯父さん……」


皆を説得してくれたのが嬉しい反面、まるで投資詐欺にでもあうところだったと言わんばかりの言い方に、少し腹立たしさを覚える。


柴崎さんは下唇を噛み俯いていた。






「あんないい方しなくても……伯父がすみません」


門までお見送りをしながら、柴崎さんに謝る。


「いえ。とんでもないです。トラブルの種を撒いたのは僕ですから、あのように収集をつけていただき助かりました。お礼を伝えていただけますか?」


「はい……」


柴崎さんのせいじゃないのにと思いながら、オフィスに戻る。


皆、仕事に集中しているのだ……と思いたい。


誰も、こちらを見向きもしないのは、怒っているからじゃないと信じたい。


私は鈴木さんのお子さんの将来に向けた資金作りの方法の一つとして提案をしたに過ぎないのに……別に、誰かが損をしたわけじゃないのに。


あんな風に、私だけ『美味しい思い』をしているなんて言われるとは思ってもみなかった。


ちゃんと勉強もしないで、勧められるがままに契約して……そこまで考えて、はっとし、寒気がした。


(私と何が違うの?)


ここのところずっと私に付き纏う『呪い』が、また襲い掛かってくる。


どうしてこんなに胸がざわつくのだろう。


柴崎さんも黒崎さんもあんなに良い人たちなのに……


『信用できる』と言い切る自信が持てないのはなぜだろう。


パソコンに向かいながら、頭の中には黒瀬さんに見せていただいた会社案内のパンフレットが浮かんでくる。


(根拠がなくない?)


写真が貼られていて、数字が記載されていたけど、それは『自称』できてしまう。


相手に言われた数字を鵜呑みにしているに過ぎない。


鼓動が早まり、手の平が汗ばんでくる。


疑っているわけじゃないけど、このモヤモヤした気持ちを解消するには話してみるしかない。


理解できるまで何度でも聞いてみなくちゃ。


私は黒瀬さんに電話をしようと決めた。




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