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惚れた弱みにご用心  作者: あおあん


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第22話 友香里・13

「たくさんご紹介いただきありがとうございました。今日はさすがに、僕に奢らせてください」


「いいですよ。契約取れたからって柴崎さんのお給料が増えるわけじゃないんですよね?」


前にそんなような話をした時に、『無理な契約を取って来ないように、出来高制のボーナスは無い』っておっしゃっていたのを思い出す。


「はい。でも、友香里さんに感謝の気持ちの伝え方が分からないので、今日は僕に支払わせてください」


勉強会後の食事は、これまで必ず折半してきた。


でも、ここまで言われてしまうと……


「じゃ、今日だけ、ご馳走になります」


明日、黒瀬さんと東さんが帰国されるということで、私たちは自然と気持ちが華やいでしまう。


「東さん、ビックリされるでしょうね」


「はい。僕も報告するの楽しみにしてるんです。実は、弊社には日報っていうシステムがあって、それに受注額を毎日記録するんですけど、今日、御社でいただいた12口は、まだ入力していないんです。ひひひ」


「あ……柴崎さんってば、なんか悪い顔してますよ」


今日、事務所では総勢5名が、計12口の『オイル・リザーブ・ファンド 10』の契約を締結させた。


かく言う私も、その一人で、一口追加の契約をしたのだった。


「あ……それで、ひとつ、相談って言うか、話を聞いてもらってもいいですか?」


柴崎さんが急に真面目な顔になって、私は少し嫌な予感がした。


「こういうのは社外秘って言うか、本当は言っちゃいけないんでしょうけど、友香里さんはもはや身内のような存在なので、構わないかと……」


「どうしたんですか?」


なんだか怖くなって、ごくりと唾を飲み込んだ。


「東さんの不在中、僕は東さんのデスクの鍵を預かっていて、本人の指示があった時だけデスクを開ける事になっていたんですよ。例えば、押印が必要な書類とかがあれば、印鑑を取り出す、みたいな」


よくある話だと思う。私だって、伯父さんの引き出しから代理捺印をする事はしょっちゅうだ。


「最初、印鑑がどこか分からなくて、少し探す羽目になって……つい、会社名義の通帳が目に入ってしまったんですね」


「気になりますね」


「そうですよね。別に個人のお金じゃないし、会社の残高なんて、決算報告書とかに載っているんだから、社員が見たって……別に見るだけなら、構わないだろうって思ったんです」


「はい」


勿体ぶってるわけじゃないんだろうけど、続きを早く……気になって仕方がない。


「カタールへの出金記録はちょこちょこあるんですけど、入金の記録が見当たらなくて……どう思います?」


「どうって……」


「国内の入金記録はたくさんあるんです。たぶん、お客様からの引き落としがそこに紐づかれていると思うんですよ。でも、カタールからの入金記録が無いって、変じゃないですか?配当金はどこから来てるんだって」


「確かに、変ですね」


焼き過ぎてしまった椎茸を皿に移し、醤油を掛けた。


何と言っていいか分からず、とりあえず口に入れる。


香ばしい旨味が広がって、思わず目を瞑ってしまった。


「もしかして、入金用の別の口座があるんじゃないですか?」


思い付きで言ってみる。


「そんなことってありますかね?まあ、会社って個人とは違うレベルで案件が多いだろうし、システムとか使ってたりするから、そんな気もしてきますね」


「もし本当にカタールから入金の記録が無いのだとしたら、柴崎さんはどう思うんですか?黒瀬さんと東さんが着服してるとか?」


思い切って聞いてみる。


「それはないでしょ」


即答に胸を撫でおろす。


「同感です。だから、これは無用な心配なんだと思いますよ」


気を取り直した柴崎さんは、飲み物をお代わりし、私は締めの焼きおにぎりを注文した。






翌日、土曜日はどんよりとした曇り空だった。


今日は同じ空の下に黒瀬さんもいる。


もう着いたのかな……


お昼近くになって、釣りに行っていた父と伯父さんが帰ってきた。


「ボウズだ、ボウズ。今日はちっとも駄目だった」


苛々しながら父がリビングを通り抜け、冷蔵庫から瓶ビールを出した。


「まあ、そういう日もあるさ」


伯父さんが笑いながら、釣竿を肩から下ろした。


「兄さんはしょっちゅう行ってるから、こういう日があってもいいかも知れないけど、滅多に行かない俺なんかがせっかく出張ってこれじゃ、もう二度と行く気にならないね」


「子どもみたいだな」


鼻で笑った伯父さんの顔が可笑しくて、私もつられて笑った。


「釣りなんて博打みたいなもん、俺はそもそも向かないんだよ」


「投資ばっかりやってるお前に言われたくないね」


「投資は博打じゃないぞ。ちゃんと調べて、張る先を間違えなければ、皆が儲かるシステムなんだ。資本主義ってそう言うことだろ?」


「その『張る先を間違えない』のが難しいんだよ。釣りで言えば、『魚のいるところに釣竿を垂らせれば』魚はいくらでも釣れる。魚がいないところに餌を垂らしたって、無意味なのと同じだ」


もう何百回と聞いてきた二人の談義に、今日は聞き入ってしまう。


どういうわけか胸がドキドキして、息が苦しくなってくる。


「つまり、『見極められれば』いいわけだけど、実のところ『誰も見極められない』わけだ。釣りなら『ボウズ』と嘆けば済む話だが、投資はそんなんじゃ済まされないからな。光二も無理して金をかき集めてないで、パッと消えても泣きを見ないくらいの金額にしとけよ。投資なんて実態は誰かを儲けさせるための金持ちゲームなんだから」


居ても立ってもいられず、二階に上がって自室に籠る。


どうしよう……


なんだか、すごく嫌な予感がする……




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