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惚れた弱みにご用心  作者: あおあん


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第21話 友香里・12

しとしと雨が降り出して、今日は屋上でランチを食べることが出来なくなった。


昭和レトロな雰囲気の漂う事務所で、そのままデスクにお弁当を広げる。


向かいに座っている先輩に話し掛けてみる。


「私、投資始めてみたんです」


先日、子どもの教育費の運用方法で悩んでいた、鈴木さん。


「え?友香里ちゃん、NISA始めたの?」


「いえ。NISAじゃなくて……」


やっぱり初心者が手だしする商品じゃないんだろうな、と不安が過った。


「えっ、なになに、そんなに美味しい話なの?」


鈴木さんは意外にものりのりで、私の隣にお弁当を抱えてやって来た。


「ねえねえ、私にも教えてよ。どうやって始めるの?」


私のパソコンで『カタール・エナジー・アセット・マネジメント』のサイトを開く。


柴崎さんから送ってもらったIDとパスワードを入れて、ポートフォリオというボタンをクリックした。


「え?10万円?」


多くてなのか、少なくてなのか、鈴木さんの驚きの本意が掴めなかった。


「で?増えてるの?減ってるの?」


「これは毎月分配型の投資で、10万円のコースは毎月5百円、年間で6千円が貰えるんです。5年以内に解約すれば目減りが激しいんですけど、それ以降は満額に近い金額で返ってくる来るらしいんですよ」


パソコンを覗き込む鈴木さんに、要点を押さえたなかなかいい説明が出来たな、と自画自賛してみる。


「へえ。じゃ、20万預けたら毎月千円入ってくるの?」


「はい」


「で、子どもが入学時には10年くらい経ってるから、貯金みたいに下ろせばいいって事だよね?」


「はい」


「めっちゃいいじゃん!やっぱ保険よりも投資だね。保険じゃ増えないんだよなぁって思ってたところなの。景気が悪くて暴落すとか困るなって思ってたから、これならその心配も要らなそうだよね」


「はい」


「どうやったら入れるの?ネットで?」


「いいえ。営業さんがいるので、今度、ご紹介しますね」


柴崎さんに契約書を持って来てもらおう。


黒瀬さんのお役に立てたのが嬉しくて、心の中で万歳をした。






「……というわけでね、今度、うちの会社に来てくれない?」


「もちろんですよ!ご紹介いただき、ありがとうございます。ってか、友香里さん、めちゃくちゃ優秀な営業になれるんじゃないですか?自分なんて、最初の一件受注するのに2ヵ月はかかったんですけど」


がっくりと肩を落として、柴崎さんはチャーハンを口に詰め込んだ。


今夜は街中華だ。このお店のオーナーさんが、この後、契約をされるらしく、柴崎さんの提案で夕食のメニューが決まった。


「悪いねえ。待たせちゃって」


タオルを頭に巻いた恰幅の良いお兄さんに声を掛けていただく。


「いいえ!旨いもんいただきながら待たせてもらうなんて最高です!」


嘘ではない。こじんまりとしたお店だけど、清掃が行き届いていて綺麗だし、味もとてもいいと思う。


「僕も黒瀬さん達が帰って来たときに、受注の山を叩きつけて『どうだ!』って言ってやりますよ」


鼻息荒く、お芝居がかった様子が面白い。


「ふふふ。『黒瀬さんたち』って……素直に『東さん』って言えばいいのに。褒めてもらえるといいですね」


柴崎さんは真っ赤になって、ウーロン茶を飲み干した。






それから3日後、12時に柴崎さんに来社していただいた。


秋晴れの美しい日差しの中、屋上でお弁当を食べている鈴木さんに商品説明をしてもらっている。


シングルマザーの鈴木さんは、終業後はお迎え・家事・子育てで怒涛の如く忙しいらしく、会社の昼休みくらいしか時間が取れなかった。


柴崎さんに来社していただけないか聞いたところ、二つ返事で了承をいただけた。


投資に反対の、ここの社長でもある紘一伯父さんに見つからないように、出張が入っている今日を狙い、私がスケジューリングしたのだった。


「えー!めっちゃ分かり易いじゃないですか!私もやる、やるー!」


鈴木さんから歓喜の声が上がる。


「それでは次回、契約時にお持ちいただきたいのは、預金の入った通帳とご印鑑になります」


柴崎さんはにっこり笑って、資料を閉じた。


「分かりました!ちょっと、実家の両親にお金借りられないか聞いてみますので、でも、一応、5口でお願いしようと思っています」


「承知いたしました」


こんなところだけど、一緒にお昼でもとお誘いしたが、柴崎さんは次のご予定があるらしく行ってしまった。


「友香里ちゃん、いい話紹介してくれてありがとね」


「いいえ」


黒瀬さんにも柴崎さんにも、同僚の鈴木さんにも喜ばれて、みんながハッピーになるのが嬉しくてたまらない。


「ねえ、柳田さんたちにも教えてあげない?」


さっきもらったパンフレットを掲げて、鈴木さんがにかっと笑った。


「そうですね!入るか入らないかはご自身で決められますもんね。お話だけでも聞いてもらいましょう」


私は食べかけのお弁当を片付けて、立ち上がった。


こんなに良いことをしてるんだもん。


もしかしたら伯父さんだって認めてくれるかも知れない。


『投資は危険でも怪しいものでもないよ』って伯父さんに教えてあげたいな。


抜けるように青い空を見上げる。


カタールって今、何時なんだろう……


遠い異国の地に思いを馳せる。


(黒瀬さん、私、頑張ってますよ)




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