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「単刀直入に申し上げます。『オイル・リザーブ・ファンド 10』の契約を考えてもらえませんか?」
注文を済ませ、まだ商品がテーブルに並ぶ前なのに、柴崎さんが切り出した。
「え……と……」
「東さんに、自社商品を自信を持ってお勧めできないのかって叱られちゃって。でも、うちの商品ラインナップは初心者向けじゃないのは分かっているので、友香里さんにはどうかと思ったんですけど。僕もいるし、友香里さんならお父様からも助言をもらえるだろうなって」
話を遮る形で飲み物が届き、柴崎さんは生ビール、私はカシスオレンジで乾杯をした。
「実は私もその投資に興味を持っていて、もう少しお話を伺ったら一口お願いしようと思っていたところなんです」
ポカンとしている柴崎さんが可愛らしい。
「カタールにあるというオイル会社について詳しく教えてください。集めた資金はどこにどのように使われて、利益となって還元されるのか、納得したいんです」
「それなら資料が揃っています」
柴崎さんはそう言って鞄からタブレットを取り出した。
「カタールという国は海にせりだした半島なんですね。我々の投資先はこのカタールから海洋ルートで輸出する船会社です。船は維持費がかかりますし、新しい船の調達には莫大な資金が必要になります」
タブレットの資料を指さしながら、分かりやすく丁寧に教えていただく。
「原油の価格は上下しますが、この輸送費は原油の価格と連動しているわけではなく、基本的に必要経費として一定の売上が見込めます。原油を運び続けることが出来る限り、ビジネスは安定していると言えます」
過去の売上実績のグラフなどを見ても、おかしな点はなさそうに思う。
「船が止まらない限り、安定した収益が見込めるという点は理解できました。では、解約が出来ないとして設定されている年数が5年なのはなぜですか?どうせ元本保証はされないのだから5年にしなくてもいいように思います。5年間の資金拘束に意味があるのですか?」
「船会社目線ではそうだと思います。友香里さんのおっしゃるように資金を貸してくれれば配当を支払い、解約すれば資金を返すシンプルな仕組みです。ですが、実際、船会社は自分たちで資金を集めることは出来ません。個人投資家もまた、個人で船会社にお金を貸すことは出来ません。そこで我々のような間を取り持つ会社の登場です。じゃじゃーん」
柴崎さんは茶目っ気たっぷりに、会社案内のパンフレットを出した。
「僕たちは日本全国へ営業に回り、顧客の資金を集め、通貨を両替し、毎月配当金が行き渡るよう手続きをしています。つまり、契約後、すぐに解約されてはこちらの人件費や会社の維持費が赤字になってしまうんですね。なので5年間保持していただければ、我々も利益化ができるので、そのタイミングまで保有していただければ、返金に応じることができますよと言うわけです」
満足げに微笑んで、柴崎さんはタブレットを一旦鞄に戻した。
「とりあえず食べません?焼けちゃいましたよ」
ジュウジュウと鉄板の上で音を立てているお好み焼きに、柴崎さんがソースをかけた。
ぶわーっと湯気が立ち込め、目の前が白くなった。
「やばい!焦げる!」
切り分けたお好み焼きを皿に乗せていただいたので、マヨネーズと青のりを振りかけた。
たぶん緊張していたせいで、空腹を忘れていたんだな……
投資先の内容に納得が出来たことで、安心し、素直にお腹が空いてきた。
「熱いので気を付けて」
はふはふとお好み焼きをぱくつきながら、柴崎さんはもう新しいのを焼き始めている。
「僕の説明でご納得いただけましたか?」
「はい」
「もし不足でしたら、黒瀬さんも呼んで……」
「いえ。大丈夫です」
声を遮ってしまい、怪訝な顔で見られる。
「あの……先日、失礼なことを言って、怒らせてしまったかもしれないので……」
「黒瀬さんがですか?怒る?」
「はい……だから、あの、柴崎さんからお話を聞けてよかったです」
「何を言ったんですか?いえ、黒瀬さんが怒るとこなんて想像つかなくて、逆に見てみたいかも、なんて」
黒瀬さんが見せた悲しそうな瞳を思い出して、目をぎゅっと瞑った。
「あ、言いたくなければいいんです。冗談ですから、気を悪くしないでください」
柴崎さんがわたわたと両手を広げて慰めてくれる。
「私、『騙されているんじゃないか』って言っちゃったんです」
柴崎さんが真顔になって、箸を置いた。
「それは……」
「ごめんなさい。でも、投資初心者には全てが怪しく見えてしまって、仕組みが分からなかったし、こんな都合のいい話あるはずないって防衛本能みたいなものが……でも、言い過ぎたなと、反省しています」
「うちの会社は7年前、黒瀬さんが一人で立ち上げたって聞いてます。当時、東さんも副社長で既にいらしたけど、まだ学生で、実質、黒瀬さんが何もかも……仕事柄と言うんですかね、そういう事は言われ慣れてると思います。でも、ショックだったとは思うので……次回、契約の時には黒瀬さんも呼んで、3人で食事しませんか?友香里さんが信用してくれたと知ったら、きっと喜びますよ」
「そうですね。機会を作っていただけると有難いです」
どうしてあんなに疑っていたのか、今となっては謎だった。
父が信用している、投資会社の社長さんでもあるのに。
警戒していた……かも。
初めて見た時からドキドキしてたから。
感じたことのない気持ちの揺れに、怖かったのかも知れない。
きっと、そう。
男の人に慣れていないだけ。
目の前の柴崎さんには感じない『男の人』への感情に戸惑う。
変なの。
気になって仕方がない。
ドキドキする。
次に会えるのが嬉しくて……
こんな気持ちは初めてで……




