その53~カノンくんの誕生日~
その日、スタジオの休憩スペースは、少しだけ特別な空気だった。
那音くんと辰煌が、カノンくんの誕生日を音楽で祝っていた。
ケーキはない。
でも、音があった。
即興のハミングと、手拍子。
それだけなのに、カノンくんは目を閉じたまま、
確かに笑っていた。
「……いい。ケーキを貰うより、音楽で祝ってくれたほうが、心に残る」
その一言が、すごく“カノンくんらしい”と思った。
皆が先にスタジオを出ていって、気づけば、休憩スペースには
ぼくとカノンくんだけが残っていた。
「誕生日、おめでとう」
改めてそう言うと、カノンくんは短くうなずく。
「ありがとう。今日で、また一つ区切りがついた」
「区切り?」
「そう。俺の中で“音楽をどう突き詰めるか”を、考え直すタイミングだと思ってる」
相変わらず、言葉の選び方が独特だ。
「カノンくんはさ……いつも“音楽そのもの”を見てるよね」
ぼくが言うと、カノンくんは少しだけ首を傾けた。
「そうかもしれない。俺は“究極の音楽”を作りたい。完成された音楽を」
そう言って、カノンくんは続ける。
「いつも、“この音楽が正しいか”を考えてしまう」
なるほど、と素直に思った。
「ぼくは、ちょっと逆かも」
「逆?」
「うん。ぼくは……
聴いてくれる人の気持ちが、少しでも動く歌を届けたい」
完璧じゃなくてもいい。
震えていてもいい。
「“あ、この歌、今の自分に必要だ”って思ってもらえたら、それでいい」
それが、ぼくの歌だ。
少しだけ、沈黙が落ちる。
でも、重くはなかった。
「……なるほど」
カノンくんが静かに言う。
「アプローチは違うけど、歌にかけてる覚悟は、同じだな」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
ぼくは、カノンくんの方を見る。
「カノンくんも、ヴォーカルを狙ってるよね?」
一瞬だけ、間。
でも、カノンくんは否定しなかった。
「音楽を極めるなら、自分の声が中心にありたいと思ってる」
迷いのない答えだった。
「ぼくも、ヴォーカルを目指してる」
そう言うと、不思議と緊張はなかった。
「カノンくんの歌、すごいと思う。でも……負けるつもりはない」
カノンくんの口角が、わずかに上がる。
「それでいい」
短く、はっきり。
「競い合ったほうが、たどり着ける音は高くなる」
「じゃあさ」
ぼくは、少しだけ笑う。
「お互い、それぞれが目指す“歌”を追求していこう」
「誰がヴォーカルに立っても、
“ああ、La♪Ra・RISE!の歌っていい”って言われるくらい」
カノンくんは、少し考えてから答えた。
「いいだろう。勝負だ」
「うん」
その一言で、
ライバルとして、仲間として、ちゃんと向き合えた気がした。
誕生日は、
祝われる日でもあるけど、カノンくんにとっては、
“次の音楽に進む日”なんだと思う。
そして、
それはきっと、ぼくにとっても同じだ。
多分、正解はない。
でも——
どちらも、本気で自分の歌を正解にたぐり寄せようとしている。
それをお互い確認できたことが、
ぼくからのカノンくんへの誕生日プレゼントだったのかもしれない。
*La♪Ra・RISE!キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




