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第7話「酒場【ウルグス・ウィーヌム】」

更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。本日もよろしくお願いいたします。

 第7話「酒場【ウルグス・ウィーヌム】」


 夜が明けて早めに宿のチェックアウトを済ませると、セルウァーたちはこの町から出ている馬車の定期便に乗り込んだ。


 後二、三回ほど馬車を乗り換えれば、目的の街である【バルジャン】に辿りつくだろう。この旅路も残り二日の辛抱である。


 隣ではアモルが外の景色を楽しそうに眺めていた。以前にもセルウァーが感じたことだが、アモルは自然と触れ合うことが好きなのかもしれない。そのぐらいに馬車の上から見れる草花を楽しそうにアモルは眺めているのだ。


「花とか好きなのか?」


 本当に何となく聞いた話だった。


「はい、好きです。前はずっと地下室に閉じ込められて、花とか自然のものを見る機会がなかったので、今こうして自然を間近で見られることがとっても嬉しいんです」


 アモルはそう言って嬉しそうに微笑んだ。


「そっそっか……」


 セルウァーはそれだけを返すのが精いっぱいだった。


 そうだ。アモルは奴隷だった。今のアモルの姿を見てると、時々セルウァーはその事実を忘れかけることがある。そのぐらいに、アモルは普通の少女と大差はなかった。いや、アモルだって普通の女の子なのだ。奴隷とかそんなことは関係ない。一人の女の子だとセルウァーは思っていた。だから、何気なくそんなことを言ってしまった。そして、アモルの口から奴隷時代にどんな生活をしていたのかをうかがわせる言葉が飛び出たのだ。


 セルウァーとアモルはお互いで、自分たちの過去を話したことはなかった。アモルの奴隷時代の話を聞くのは憚れたし、かと言って自分の話をするのにも何を話せばいいのかが分からなかった。


 そう言えば、アモルのご両親はどうしたんだろう? 勢いでアモルを【バルジャン】に行こうと誘ったが、もしかしたらご両親の所に連れて帰ってあげた方が良かったのではと、セルウァーは今更ながらのことを思ってしまう。


 アモルからは十歳の頃から奴隷として生活していたと聞かされていた。それはつまり、十歳まではご両親と普通の女の子として生活していたと言うことを意味していた。


「アモルは、ご両親の所に帰りたいとかないのか?」


 セルウァーの言葉に、アモルは首をふるふると振った。


「もともと、わたしに両親はいませんでした。十歳までは孤児院で育っていました。そして、ある日、男が一人やって来てわたしを奴隷にすると言って、わたしを連れ去って行きました。なので、わたしに本当の意味での身内と呼べる人はいません。ですけど、孤児院のみんなはとっても良い人でしたよ」


「そう……だったのか。ごめんな、辛いことを思い出させて」


「気にしないでください。確かに昔のことを思い出すと辛いですし、奴隷だった頃を思い出すことも嫌ですけど、今はその分幸せだって思えるので大丈夫です」


 アモルはえへへと言って笑っていた。その笑顔を見て、セルウァーは後悔してしまう。今思ったばかりなのに、彼女に辛い昔の記憶を思い出させてしまったことに。


 本当に俺はアモルのことをほとんど何も知らないんだな。


 それに無理して笑っているわけじゃないようなので、その笑顔に安心させられた。


 これじゃあ、どっちが安心してるのかが分からないよな。


 セルウァーはそう内心で溢しながら、隣に座っているアモルの頭を撫でた。それは何気ない仕草だった。


 だから、その仕草でアモルがまるでトマトの様に顔を真っ赤に染めあげる何て思ってもみなかったのだ。


「あっアモル⁉ 大丈夫か⁉」


 体全体を真っ赤に染めあげているアモルのことが、本気で心配になってしまう。


「大丈夫、大丈夫です! ですから、少しそっとしておいてください!」


 アモルの心臓は破裂しそうなぐらいに、バクバクと動いていた。これ以上セルウァーにスキンシップをされたら、本当に破裂してしまうと思えるぐらいだった。だから、アモルは切実にそう言葉を吐き出したのだが、セルウァーにはそうとは伝わらず、セルウァーはセルウァーで、アモルに拒絶されたと思えてしまって、セルウァーはただただ固まることしか出来なかった。


 のちに、アモルがセルウァーが白くなっていることに気が付き、慌てて誤解を解くことになるのだった。


***********************


 それから二日が経つ頃には、目の前に目的の街であった【バルジャン】の街並みが見えてきた。


「アモル、あそこが今日から暮らす街【バルジャン】だよ」


「うわぁ~、とってもきれいです!」


 西の街【バルジャン】は港街だった。その為貿易が盛んでそれで賑わあっている街とも言えた。


 それに港街な為、色々な人が入り混じって生活している。他の街や国から来た人がお互いに助け合って生活している。【バルジャン】とはそんな街だった。


 この街では人は人以下でもそれ以上でもないの精神があり、奴隷制度反対を歌っているのもそう言った理由からだった。


 そもそもそう思わなければ、多種多様の人が同じ街で生活するなんて土台無理な話だ。


 セルウァーはアモルの手を引いて、街の中に入って行く。


「わたしは一人で歩けますよ!」


「この街は結構入り組んでて迷いやすいんだよ。だから、アモルが慣れるまではこうして歩いたほうが良いと思うんだよ」


 セルウァーの言葉に、アモルは顔を朱色に染めて俯いてしまう。


 セルウァーはそんなアモルの姿を不思議に思いながら、目的の場所まで歩いて行く。


 そして、セルウァーがアモルを連れて来たのは一件の酒場だった。


 酒場【ウルグス・ウィーヌム】


 この酒場はセルウァーの知り合いが開いている酒場で、そして、セルウァーがこの街で宿を取っている場所でもあった。


 扉にはcloseと書かれた看板が下げられていたが、セルウァーは関係なしに扉を開けて、その中に入った。


 中には客の姿はなく、酒場なのに酒場らしい喧騒がまったくなかった。その代りに、店内には一人の大柄な男が立っていた。そして、その男はセルウァーの姿を見ると、驚きで両目を見開いたかと思いきや、笑顔でセルウァーたちを出迎えた。


「セルウァーじゃないか! 帰って来たのか!」


「ああ、今帰って来たばかりだよ」


 セルウァーは差し出されていた大きな手を握り返した。そんなセルウァーの様子を見て、その大柄な男は豪快に笑った。


 テッラ・ウィンクルム。


 セルウァーが数年前からずっと世話になっている兄貴分みたいな人物だった。テッラとは、セルウァーがこの街に来た時からの付き合いだった。


 このテッラが営む酒場【ウルグス・ウィーヌム】は、大衆の酒場と言うだけあって、この酒場には様々な人々が集まってくる。


 メニューの値段はどれもリーズナブルな価格で、どれも手が出しやすく比較的安価で酒も飲めるため、大変賑わっていた。


 セルウァーも安価で飯を食えると言う理由で、この酒場の常連になった一人だった。そして、テッラとそこで話している内に段々と仲良くなっていき、今はセルウァーにとっては頼れる兄貴分と呼べる存在となっていた。


 そして、それはテッラにも言えることだった。テッラにとってもセルウァーはいつしか危なっかしい弟分だった。だから、ついついお節介を焼いてしまうそんな存在だった。


「まあ、無事に帰って来てくれて安心したよ。一ヶ月ぐらいこの街から出ていたか」


「もう、そんなに経つのか。何だかそんな気はしないけどな」


「はは、それはそうと。セルウァー、さっきから気になってたんだが、お前さんの後ろに隠れてる子は一体?」


「ああ、拾った」


「はぁ⁉」


 それはまるでそこら辺で犬や猫を拾ってきたような感じだった。


「だから、森で拾った」


 セルウァーの言葉に、テッラは益々訳が分からなくなってしまう。


「まあ、今のは冗談なんだけどな」


「お前なぁ~」


「すまん、すまん」


 セルウァーはテッラに謝ると、アモルの方に向き直った。


「アモル、目の前にいる大男は見た目は厳ついが、そこまで悪い奴じゃないから大丈夫だよ」


 セルウァーが優しく促すと、セルウァーの背中に隠れていたアモルはおずおずと前に出ると、テッラに頭を下げた。


「アモル・フェーリークスです。よろしくお願いします」


「テッラ・ウィンクルムだ。こちらこそよろしく」


 二人はそう言って手を握り合った。そんな時に第三者がこの中に加わって来た。


「何だか、騒がしいけどどうしたの?」


 テッラと比べると随分と小柄に見える女性が、こちらに近付いてきているところだった。


 ドミナ・ウィンクルム。


 何を隠そうテッラの妻である女性だ。この酒場は夫婦で切り盛りしているのだ。


「あら! セルウァーじゃない! 帰って来てたのね。それにそこの可愛い子はどうしたのよ?」


 相変わらずのマシンガントークである。ドミナは気になることがあると質問攻めにする癖があるのだ。


「セルウァーが、森で拾って来たんだそうだ」


 テッラがそう答えていた。


「はぁ⁉」


 夫婦揃って同じようなリアクションだった。


「どうしてそんな犬か猫を拾ってきたみたいな感じなのよ」


 さっきセルウァー自身も思ったことだった。口に出して言われてしまった。


「まあ、冗談だそうだけど」


「でしょうね。もし仮にそれが事実だとしたら、それは誘拐……よね。なら、近衛団にこいつを差し出した方が良いんじゃないの」


「ドミナの俺への扱いは本当にブレねぇな! まあ、ともかく説明するけどちょっと待ってくれ」


 セルウァーは目の前の夫婦にそう断りを入れると、アモルに向き直った。


「アモル、この二人はこの街で俺が一番信頼している二人だ。だから、どうしてアモルとこうしているのか、アモルが何者なのか。この二人にだけには説明しても良いか? 確かにアモルにとっては、気持ちの良い話ではないと思う。だけど、正直に話すことで、アモルもきっとこの二人と仲良く出来ると思うから」


 勝手な話だとセルウァー自身も思っていた。だけど、この街で生活する以上、少しでもアモルの理解者を増やしておいた方が良いと思ったから。


 セルウァーの言葉に、アモルは考える仕草を見せた。やがて、アモルはゆっくりと頷いてくれた。


「ありがとう、アモル」


 セルウァーはアモルにお礼を告げると、この酒場の夫婦にどうしてアモルとこうしてここに帰還したかを説明するのだった。

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