第6話「芽生え始めた感情」
第6話「芽生え始めた感情」
セルウァーはアモルを連れたって、夜道を歩いていた。アモルはアモルで宿で言っていた通り、セルウァーの腕に抱き着きぴったりとくっついていた。
セルウァー自身、歩きずらいのと、女の子特有の柔らかさや甘い匂いで脳がくらくらとしそうなのだが、これでアモルの気が治まるなら良いと思い黙ってアモルのしたいようにさせていた。
夜道を当てもなく歩いてく。散歩にはリラックス効果があり気持ちをハッピーにする効果があると言われている。
だから、少しでもアモルがリラックスしてくれれば良いとセルウァーは考えていた
やがて、ちょっと丘になっている所にセルウァーたちは辿りついた。そこでは、この【ガンタール】の町を一望出来るようになっていた。そこから見る【ガンタール】の町は、町灯りに照らされてとても綺麗だった。
「アモル、見てみろよ。ものすごく綺麗だぞ」
セルウァーの言葉にアモルは俯けていた顔を上げた。アモルの小さな桜色の唇からは感嘆の言葉が零れていた。
「……きれい」
アモルの横顔を見ると、先ほどの憂いさはなくなり、目の前の光景に素直に感動している表情を浮かべていた。
少しは気持ちが紛れたってことで良いと思ってもいいのだろうか?
セルウァーがそう考えながら、目の前に広がる景色を見ていると、繋いでいる手に力がこもる感触がする。アモルが力を込めたのだとすぐに分かった。
「ごめんなさい」
アモルはポツリと呟いた。
「別にアモルが謝ることじゃないだろ」
盗賊の一件は、決してアモルが悪いわけではない。奴隷盗賊は最近になって有名になり始めた盗賊だった。その盗賊は主に逃げ出した奴隷や、買われた奴隷を盗み出して、それを他所に売り飛ばすことをしている盗賊だった。そして、時には依頼を受けて盗みに来ることもあるのだ。今回のアモルの時の様に。
そして、今回あの盗賊たちに依頼を出したのは間違いなく、アモルのを奴隷としていた人物であろう。
やはり、アモルを買った人物の執着はすごい思わざるを得ないな。
セルウァーの言葉にアモルは首を大きく横に振った。
「謝ることなんです。本当はセルウァーさんに迷惑をかけちゃダメだって分かっていたのに、結局、わたしは何も出来ないで助けられることしか出来なかった。それじゃあいけないって分かってたのに! 奴隷の分際で助けられる筋合いなんてないのに! セルウァーさんは何度も何度もわたしを助けてくれた! 得なんて何一つないのに!」
泣き止んだはずの涙が、アモルの蒼色の眸から再び零れ始めてきてしまっている。
アモルに染み付いてしまった奴隷体質は、セルウァーが考えた以上に根深く残ってしまっていることを、セルウァーは改めて自覚させられた。
「アモル」
だから、セルウァーは優しくアモルの涙を指の腹で拭うと、そのままアモルことを抱きしめた。そして、アモルが少しでも落ち着くように頭をぽんぽんと撫でてあげている。
どうにかして、この少女を絶望の淵から救ってあげたいと心の底からセルウァーは感じた。しかし、今はただこうして抱きしめることしか出来なかった。どう声をかけていいのかが、セルウァーには分からなかったのだ。
嫌がられるかなっとセルウァーは思っていたのだが、意外にもアモルは嫌がらずセルウァーのされるがままに身を委ねていた。
セルウァーはアモルが泣き止むまで彼女の頭を撫で続けていた。
俺が彼女にしてあげられることって何があるんだろう?
セルウァーは必死にその答えを探していた。
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しばらくすると、アモルは落ち着きを取り戻した。
「ごめんなさい」
こんな時までもアモルは謝罪の言葉を口にした。そんなアモルの様子にセルウァーは苦笑を浮かべることしか出来ない。
「何度も言ってるけど、別にアモルが気にすることなんかないよ。それに俺は自分の意思で――俺がアモルのそばにいたいと思ってるから、俺はアモルと一緒にいるんだ。だから、気にしないでくれよ」
セルウァーの言葉に、アモルは赤面していた。
「あっアモル⁉」
アモルのその反応に、セルウァーは大いに驚いてしまう。
「熱でもあるのか?」
場違いなことを言ってしまうぐらいには、アモルの頭は混乱していた。
それに対してアモルはふるふると首を横に振るが、真っ赤になった顔を下に俯けたまま、セルウァーの顔を見れずにいた。
その反応にセルウァーはますます訳が分からなくなってしまう。
本当にこれは一体全体どうなってるんだ⁉
セルウァーの頭の上にはクエッションマークが数多く浮かんでいた。
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アモルはアモルでそれどころではなかった。
先ほどまでアモルの心は恐怖で支配されていて、セルウァーに失望されて捨てられてしまうんじゃないかと言う感情で埋め尽くされていた。しかし、今はセルウァーの言葉を聞いた時、恐怖で萎縮していた胸が、どきりと高鳴る感じに襲われたのだ。それからずっとどきどきと胸が高鳴っていて、その音がセルウァーにまで届いてしまうんではないんじゃないかって、気が気じゃなかった。
この胸のときめきは何なのだろうかとアモルは思ってしまう。アモルからすればこの感情は初めてのモノだった。だから、アモルはこの感情をどう表現していいのかが分からなかった。それに、先ほどから前はセルウァーの顔を見れていたのに、今ではまったくもって見れなくなってしまっている。セルウァーの顔を見ると胸の高鳴りがさらに加速してしまって、どうしようもない状況になってしまうのだ。
わたし、どうしちゃったんだろう?
アモルは赤くなった頬に両手当てながら、そう呻ってしまう。
この感情がどういった感情なのかまったく分からなかった。
アモルは十歳の時に奴隷として買い取られ、今も奴隷生活を強いられている。運よく逃げ出せはしたが、見つかって連れ戻されるようなことがあれば、以前よりもきつくひどい奴隷生活が待っていると言えるだろう。
アモルの今の様子を見る人が見れば、一瞬でアモルはセルウァーに『恋』に落ちていると分かるだろう。しかし、そう言った環境でアモルは育ってきたので、そもそも『恋』というものを知らなかった。それ故に、アモルは今抱いている感情に大いに戸惑ってしまっているのだ。
わたしは……セルウァーのことが……好き?
アモルは『恋』を知らない。だから、当然アモルが思ったその疑問は大きなしこりとなってアモルの胸に残ってしまう。
結局、アモル自身にも自分がどうしてこうなってしまったかは、分からず終いだったのだ。
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セルウァーは急に黙り込んだアモルに、どんな反応を取っていいのか本気の本気で分からなくなってしまう。
どうしたら良いのか、何と声をかければ良いのかがまったく頭に浮かんでこないのだ。
お互いが黙ったまま時間が過ぎていく。そんな時にピュウーと夜風が二人のことを包んだ。
春が過ぎて夏の足音が聞こえ始めたこの季節でも、夜はまだ肌寒さが残っている。このままここにいたら二人して風邪を引くなっとセルウァーは苦笑してしまう。
「アモル、取りあえず宿に帰ろうか」
アモルはセルウァーの言葉に素直に頷いた。
宿に戻ると、セルウァーは宿の女将にさっきのあらましを簡単に話すと、部屋を変えてもらい――先ほどの部屋は鍵を壊されて使いものにならないのだ――セルウァーはアモルを連れて、新しく用意してもらった部屋へと赴いた。
「アモル、明日からもしばらくは旅路が続くから、今日はもう休もう。アクシデントはあったけど、今から寝ても少しは休めると思うから」
セルウァーは荷物を部屋の隅に片づけると、そのままベッドの方に歩いて行く。アモルもベッドの方に向かった。
セルウァーがベッドに入ると、アモルも遠慮がちにベッドに入ってくる。
「アモル?」
ベッドに入ったアモルは何だかもじもじとしていた。
トイレにでも行きたいのだろうか? とセルウァーは思ったが赤くなった顔に、眸に涙を溜めた表情を見る限り、本当にトイレ何だろうかと思えてしまうのだ。
アモルは何回も口を開きかけては、止めると言う行動を繰り返していた。
何か言いたいことがあるのだろうと、セルウァーは当たりを付けると、アモルが話すまで静かにセルウァーは待っていた。
「あの~……その~……えっと……」
「アモル、ゆっくりでも構わないよ。だから、言いたいことがあったら言ってほしい」
セルウァーがゆっくりと促すと、アモルは躊躇いながらも口を開いた。
「セルウァーさん、一つだけ……お願いが……あるんです」
「ああ、良いよ」
セルウァーが即答すると、アモルは驚いたように両目を見開いた。
「そんなに、即答で良いんですか?」
「ああ、大丈夫。だって、アモルのことだしきっと些細な願いを叶えてほしいとかそういう事だろうし。それにアモルの些細な願いだったら可能な限り叶えたいって思ってる。だからさ、素直に答えてくれよ」
アモルは「はい」と答えると、顔を真っ赤に染めたままそのお願いことを口にした。
「セルウァーさん、背中をわたしの方に向けてもらえませんか?」
「背中を? 別に良いけど」
セルウァーはすんなりと寝返りを打ってアモルに背中を向けた。その背中はあまりにも無防備な姿勢だった。
「わたしがあなたに危害を加えるとか思わないんですか?」
アモルは素直に思った疑問を呟いた。アモルとセルウァーは出会ってまだ一週間も経っていない。それなのに、どうして目の前の男性は自分のことを信じられるのかが、アモルには分からなかった。
「アモルはそんなことしないだろう。俺は知ってるよ。アモルがそんなことをする子じゃないってこと。だって、アモルはとっても優しい子じゃないか」
セルウァーの言葉に、アモルは再び涙が溢れそうになってしまう。
河原で倒れていたアモルを無条件で助けてくれて、今でもこうしてアモルのことを慰めて励まして、色んな害悪から守ってくれる。
アモルの胸には先ほど感じた胸の高鳴りを再び感じていた。
アモルはそんな胸の高鳴りを誤魔化すかのように、セルウァーの背中に顔を埋めて抱き着いた。
「今日はこのまま……眠っても良いですか?」
「……あっ、ああ」
野営をしている時、アモルはセルウァーの存在があったからぐっすりと眠ることが出来た。地面で寝ることは奴隷として過ごしていたため慣れてはいた。それなので、地面で寝ると奴隷として堅い地面で寝かされていたことを思い出してしまったが、近くにセルウァーがいると考えるだけで、その気持ちは和らいだ。
だから、今回もセルウァーの存在をより明確に感じて眠ることが出来れば、この胸の高鳴りは治まると思っていた。しかし、アモルのその予想は大きく外れることになった。
胸の高鳴りは治まるところか、さらに早くなってしまったのだ。
どっどうして⁉
アモルはただただ驚愕するしかなかった。
対して、セルウァーも早まる心臓を必死に落ち着かせているところだった。まさか、いきなり背中に引っ付かれると思わなかったのだ。突然に訪れた二つのしっかりした柔らかな感触に、女の子の優しく甘い匂い。己の理性や平常心をフルに働かせている所だった。
アモルって意外と着やせするタイプだったんだな。
こんな時でもそんなことを考えてしまうのは、悲しい男の性というものなのだろう。意外とあった背中に当たる感触に大いに驚いているのだ。
セルウァーは叫び出したい衝動を何とか、抑え込むと素数を数え夜が明けるのを待つのだった。
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