第5話「奴隷盗賊」
第5話「奴隷盗賊」
あれから何とか立ち直ったアモルに、風呂に入ってくると告げ手早く風呂に入ったセルウァーではあったが、そこで新たな問題が浮上した。
それはどっちがベッドで寝ると言う問題だった。この部屋にはベッドは一つしかない。なので、どちらか一人しかベッドで眠ることは出来なかった。
「えっと、ベッドはアモルが使ってくれ。俺は床でもなんでも適当な所で寝るからさ」
当然、セルウァーのその言葉にすかさずアモルは反論した。
「いけません! わたしこそ床で寝ますからセルウァーさんがベッドを使ってください!」
まあ、当然こうなるよなとセルウァーは思ってしまう。
う~ん、どうしたものか。どうせならアモルにはベッドを使ってもらいたいし。だけど、このままじゃ彼女は絶対にベッドを使わないだろうし。やっぱ、こうするしかないよな。
セルウァーはある一つの答えを出すと、アモルに向き直った。
「それじゃあさ、これは一つの提案なんだけど、一緒にベッドを使うって言うのはどうかな。もちろん、寝ているアモルに変なこともしないし、お互いのスペースは十分に開ける。だから、どうかな?」
セルウァーは自分で言っていて、何言ってんだこいつと思ってしまう。どうかなじゃねぇよとセルフツッコミを入れてしまうレベルだった。
ああ、確実に嫌われたな。
セルウァーがそう思いながら顔を上げると、そこには頬を軽く膨らませて不機嫌そうにしているアモルの姿があった。
その姿を見て、セルウァーはやっぱりかと思ってしまう。むしろ、アモルのリアクションは当然と呼べた。出会って数日しか経っていない男と一緒のベッドで寝ようと言われているのだ。アモルの反応は正しいと言えるだろう。
「ごめん、アモル今のは忘れてくれ。流石に今のは無神経な発言だったと思う。だから、ベッドはやっぱりアモルが使ってくれ。女の子を床で寝かせるとかそんなこと出来ないよ。俺は適当な所で眠るからさ」
セルウァーはここにいてはアモルがゆっくり休めないなと思い、その場を後にしようとしたがそれは叶わなかった。なぜなら、アモルがセルウァーの服の裾を掴んだからだった。
振り返ると、アモルが裾を掴みながら下に俯いていた。
「アモル?」
セルウァーが戸惑ったように声を上げると、ゆっくりとアモルが顔を上げた。そのアモルの顔は真っ赤に染めて、眸はあちらこちらにさまよっていた。
「アモルどうしたの?」
セルウァーはアモルのその姿を見て、何か言いたいことがあるのだと思い優しく問いかけた。
アモルはセルウァーの言葉に口を開きかけたが、すぐまさ口を閉じてしまい視線をさまよわせている。
これは確実に何かがあるなと感じたセルウァーは、急かさずに黙ってアモルの言葉を待っていた。
しばらくすると、意を決したようにアモルが口を開いた。
「セルウァーさん、一つ我がままを言っても良いですか?」
「ああ、良いよ。俺が出来ることなら」
「えっと、それじゃあ……あの……」
「ゆっくりで良いから言っていいよ」
「はい……それじゃあ……今日はわたしと一緒に……いてくれませんか?」
セルウァーはアモルの言葉に驚いてしまう。
「……ダメ……ですか……?」
セルウァーは驚きで何も返せないでいると、アモルが不安そうに眸を揺らし上目遣いでこちらを見てきた。
セルウァーは慌てて言葉を返した。
「駄目じゃない! ただ、さっき不機嫌そうだったから嫌なのかと思ってたから意外だったんだよ」
セルウァーの言葉に今度はアモルの方が慌てる番だった。
アモルとしては、自分が一緒のベッドで寝るなんて失礼過ぎて出来ないと思っていたし、自分のことを女として見られていないんじゃないかっていう事実に多少なりともショックを受けていた。
なのでアモルは首を大きく横に振った。
「そんなことありません。むしろ、わたしの方こそ申し訳ないと言いますか……」
「ん? どうしてアモルが謝るんだ? とにかくそろそろ寝ようか。明日も明日で長い旅路になるだろうし。だから、休める時は休んでおこう」
セルウァーはそう言いながら、ベッドに倒れ込んだ。今日は色々あって疲れたし早々と眠ることにしよう。
セルウァーがベッドに寝っ転がると、アモルもちょこんとベッドに入り込んだ。二人で寝るには少し手狭な感じはあるが、何とか間を開けて眠れる大きさはあった。
二人はお互いで、お互いの存在や近くにある人の体温を意識してしまい何だか落ち着かない感じを味わっていた。
こんな状態で眠れるわけがねぇ!
セルウァーは心の中でそう叫ばずにはいられなかった。
セルウァーが「ああ」と心の中で唸っていると、隣から静かな寝息が聞こえてくる。そっとセルウァーが隣を見ると、アモルが安心しきった顔で眠っている。そんなアモルの寝顔を見て、セルウァー自身も一安心してしまう。
「アモルもずっと気を張っていて疲れたんだろうな。だから、ゆっくりとおやすみ」
セルウァーは微笑み、アモルの頭を優しく撫でると自身も眠るために両目を閉じた。
***********************
アモルは物音で目を覚ました。ごごそと誰かが話している声が聞こえたのだ。
隣を見ると、自分をあの森から助けてくれたセルウァーの姿が見える。
「ふふ、セルウァーさんの寝顔かわいいです」
アモルはセルウァーの寝顔を見て、幸せそうに微笑んでいる。
その間にも話し声はアモルの方に近付いてきている。
「本当にこの部屋にいる少女で良いのか?」
「ああ、あの女は間違いなく奴隷だった少女だ。あの女は高く売れるぞ」
その声を聞いてアモルは肩をピクンとしてしまう。
男二人の声が今はっきりとしたのだ。しかも、話し声の内容からするとその男二人組は自分を狙っているようだった。
わたしが奴隷であったことがバレた? どうして?
アモルはちゃんと変装をして色々と誤魔化していたはずだ。なのにどうして?
アモルは固まって動けなくなってしまうが、ガチャガチャと鍵を外してこの部屋に入ろうとしてくる音が聞こえてくる。
アモルはまずいと思ったが、まずいと思った時には鍵が外されて男二人が中に入って来てしまう。
セルウァーを助けないと!
男二人の目的はわたしだ。ここにいたら間違いなくセルウァーに被害が及んでしまう。それは絶対に避けなければいけないことだった。
アモルは動こうと立ち上がるが、すでに目の前には男たちが立っていた。
「この女がさっき言ってた女か。なかなか良い女じゃねぇか。売り飛ばす前に一発遊んでから売り飛ばすのもありだな」
片方の男が舌なめずりをしている。その姿にアモルは激しい嫌悪感を抱いてしまう。
ベットから降りたはいいが、その嫌悪感の所為で固まって動けなくなってしまう。
「バカを言ってるなよ。この女を依頼主に渡せば多額の金をもらえるんだ。アホなことを言ってないで仕事にかかるぞ」
「へいへい」
男たちは頷き合うと、アモルに向き直った。
アモルはじりじりと後ろに下がるが、男たちもゆっくりとにじり寄ってくる。
「せる……」
思わずセルウァーの名を呼んでしまいそうになったが、慌ててそれをアモルは飲み込んだ。しかし、アモルには一つ気になることがあった。ベッドで寝ていたはずのセルウァーの姿がなくなっていたのだ。さっきまではベッドの上にセルウァーの姿はあったはずだ。そのはずなのに、今ベッドの上を見ると、セルウァーの姿は跡形もなく消えていた。
どうしてセルウァーの姿がないの? まさか、今まで一緒にいたのは幻?
アモルがそう考えている間にも、男たちはアモルとの距離を詰めてきている。アモルもアモルで距離を開けるために後ろに下がっているのだが、もともとベッドを降りたところだったので、すぐにアモルの背中は壁になってしまい、逃げ場はなくなってしまう。
「あははは、観念しなよお嬢ちゃん。ちゃんと可愛がってあげるから大人なしく掴まってね」
男は下衆な笑いを隠しもしないで嗤うと、一気にアモルとの距離を詰めた。
アモルは動けずその場にしゃがみ込んでしまう。
男はそれを良いことにアモルを拘束して、そのついでにとアモルの胸に手を伸ばそうとした――が、それは叶うことはなかった。
胸に向かっていた手が掴まれ後ろに回されてそのまま捻られたからだった。その拍子に拘束されていたアモルは解放された。
アモルは一瞬何が起きたのかが分からなかった。しかし、「アモル」と名を呼ばれて全てを理解した。
「セルウァー!」
「ごめんな、アモル。怖い思いをさせて、もう少しだけ待っててくれ」
アモルはセルウァーの言葉に大きく頷いた。
***********************
セルウァーは、腕を捻り上げた状態から、目の前の男の鳩尾に向けて膝蹴りを放ち、首筋に手刀を下ろして一人目を無力化する。
セルウァーはその男を投げ飛ばすと、もう一人の男に視線を向けた。
「アモルを泣かせた落とし前は付けさせてもらうぞ」
「調子に乗るなよ! くそがぁ!」
もう一人の男は懐からコンパットナイフを取り出すと、そのままセルウァーに向けて襲いかかってくる。
対してセルウァーは冷静に相手の動きを見ていた。襲いかかって来た相手の腕を掴み、そのまま相手の力を利用して背負い投げの要領で相手を投げて地面に叩き付けた。
そのまま追い打ちでその男のことを踏みつける。
「アモルには指一本も触れさせねえぞ」
どこまでも冷淡な声でそう発したセルウァーは、相手の持っていたコンパットナイフを奪い取ると、その男の顔の真横の床に突き刺した。
その男は震え切って失神していた。
セルウァーはふう~と息を吐き出すと、アモルの方に向き直った。
「アモル、大丈夫か」
「せっセルウァー……」
セルウァーが声をかけると、アモルは眸いっぱいに涙を溜めると、そのままセルウァーに抱き着いた。
「セルウァー! セルウァー! セルウァー!」
「ごめん、アモル。怖い思いをさせて。もっと早く助けられれば良かったよ」
セルウァーは、泣いているアモルを落ち着かせるために背中をぽんぽんと叩いてやる。
「アモル、もう少し待っててくれるか。こいつらを近衛団の詰め所に届けてくるよ」
セルウァーの言葉にアモルを嫌々をするように、首を大きく振った。
「離れたく……ありません」
そう言ったアモルの声は震えていた。セルウァーはそれを聞いてそれも当たり前かと思ってしまう。アモルは今まさに襲われかけたのだ。こうなってしまうのも仕方がないことだろう。それに、セルウァーはあの時咄嗟ベッドの下に隠れていた。あいつらの隙をついて一気に倒す為とは言え、彼女に恐怖心を与えてしまったのだ。そのことに大いにセルウァーは後悔していた。
「分かった。それじゃあ一緒に行こうか」
アモルは泣きながらだったが、しっかりと首を縦に振った。
セルウァーは「分かった」と呟くと、男二人を縄で結んだ。その後にアモルにはしっかりと変装させてから宿を後にした。
近衛団の詰め所は、セルウァーたちが泊まっている宿から、少し離れている所にあった。
セルウァーが詰め所で待機していた近衛団の団員に、状況を話して男二人の身柄を引き取ってもらう。これでこの一件は解決と言えるだろう。
セルウァーは詰め所から出ると、ずっと下を向いたままだったアモルに声をかける。
「帰ろう、アモル」
「……はい」
アモル元気がないな。やっぱり、さっきのことを気にしてるのか。俺としては全然気にしなくても良いことなんだけど、今のアモルにそのことを言ってもきっと通じないだろうな。
セルウァーはう~んと考え込んでしまう。
アモルに分からせるにはどうしたら良いだろ?
セルウァーは考えてはみるが、妙案と呼べるものは何一つとして浮かんでこなかった。なので、セルウァーはこう提案するほかなかった。
「アモル、帰る前に少し散歩でもしようか」
そんなセルウァーの言葉に、アモルは首を傾げることしか出来なかった。
面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどよろしくお願いいたします。




