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第4話「ガンタール」

   第4話「ガンタール」


 結論から言うと、魔獣の討伐は難なく行えた。だが、セルウァーはアモルに怒られていた。いや、怒られていると言うか、泣きつかれてしまってセルウァーは戸惑っていた。


 狼の姿をした魔獣を討伐出来たことは出来たものの、セルウァーは腕に怪我を負ってしまったのだ。噛みつかれて皮膚を持っていかれたため、そこからは血が流れ出ている。セルウァーは、急いでタオルをそこに当てると止血を始めたのだが、アモルはその傷を見て、おろおろとしたかと思うとセルウァーの背中に抱き着くと泣き始めてしまったのだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 アモルは泣きながら、謝罪の言葉を繰り返す。


「別にアモルが気にすることじゃないよ。これは俺が不甲斐無い所為で怪我しちゃったわけだし。だから、気にしないでくれ」


 セルウァーはアモルに気を使わなくて良いと伝えるが、アモルはいやいやをするように首を横に振った。


「わたしが悪いんです」


 う~ん、どうしたものかとセルウァーは思ってしまう。確かにこの怪我はアモルの所に魔獣が襲いかかろうとした時に、それを庇って出来てしまった怪我ではあった。だからこそ、アモルは罪悪感を感じてしまい、こうなってしまったのだ。


 セルウァーは急いでそこの怪我の箇所の応急処置を施し、包帯を巻くとそのままアモルのことを抱きしめた。


「アモル、気にしないでくれって言っても難しいのかもしれないけど、だけどこれだけは分かってほしい。俺はアモルを守れて嬉しいんだよ。君に怪我がなくて本当に良かったよ」


 セルウァーはそう言って、アモルに笑いかけた。アモルはアモルで、最初は不安そうに表情を歪めていたが、やがてセルウァーの笑顔に釣られるように微笑を浮かべた。


「わたしなんかを助けて頂きありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げるアモルの姿を見て、まったくこの子はとセルウァーは思ってしまう。


 だけど、それはアモルが立ち直ってくれたとも言えるだろう。


 それを見たセルウァーは、アモルにバレないように安堵の息を吐き出した。


 何とか立ち直ってくれたみたいで良かった。


 セルウァーはそう感じながら、アモルに声をかける。


「後もう少しでこの森から抜ける。その先には【ガンタール】って言う小さな町があるんだ。今日はそこで宿を取って休むことにしよう」


「はい!」


 セルウァーとアモルははぐれないようにと、再び手を繋ぐと森の中を歩いて行った。


***********************


 空が茜色に染まり始めた頃、二人は森から出ることが出来た。


 そして、完全に夜の帳が降りる前には、【ガンタール】の町に入ることが出来た。


【ガンタール】


 この町はセルウァーが滞在していた街【ターソン】と二人が目指している街【バルジャン】のちょうど中間点近くに位置する町でもあった。その為、西の街【バルジャン】に向かう際には、ここで一休憩をして【バルジャン】に向かうことが当たり前になっていた。


 セルウァーは比較的安全そうな宿にチェックインを済ませると、その宿の一階で食事を摂ることにした。


 この宿は一階は食堂になっており、二階が宿になっているようなのだ。


「俺はこのチキンの料理にしようかな。アモルはどうする?」


「えっと、わたしはこの魚料理にしようかと思ってます」


「そっか。分かった」


 セルウァーは頷くと、店員にそれらを注文した。


 それにしてもとセルウァーは思い、辺りを見渡した。何だか周りから視線を感じたのだ。しかも、それがアモルの方に向いているのだ。


 確かにアモルは変装していても美少女と言ってもいいほど、容姿は整っていた。前のアモルの姿を見なければ、アモルが奴隷だったと誰も思うことはないだろう。


アモルは可愛いもんな。そこら辺の男たちがつい見入ってしまっても仕方がないと言えば仕方ないことか。だけど、ものすごく何だかモヤモヤするぞ。


 けど、セルウァー自身もどうしてそんなことを思ってしまったのかが不思議でしょうがなかった。


 俺は目の前の少女のことをどう思っているのだろうか?


 セルウァーは必死に答えを出そうとしたが、答えが出ることはなかった。目の前に座っているアモルは、そんなセルウァーの姿を見て、不思議なモノを見るかのように首を傾げていた。


***********************


 一階で食事を終えた二人は、宿スペースになっている二階へと移動する。


 セルウァーたちが宛がわれた部屋は奥から二つ目の部屋だった。中に入ると、そこは広くもなく、狭くもなくと言った部屋だった。


「ああ、そうだアモル。俺と相部屋にしちまったけど大丈夫だったか?」


 最初は二部屋取って別々の部屋で寝起きしようと思ってはいたのだが、防犯の関係上や、その他の観点から見ても相部屋の方が良いかと言う判断になったのだ。


「わたしはそれで大丈夫です。それにセルウァーさんといる方が良く寝れますし」


「そっそっか」


 アモルの思わぬ言葉に、セルウァーは思わずたじろいでしまう。


 まさか、アモルからそんな言葉が出てくるとは、セルウァー自身考えていなかったので、かなり驚いていた。


「まっまあ、今日一日よろしくな」


「はっはい! こっちこそよろしくお願いします!」


 何だか微妙な空気になってしまった。


 セルウァーは何とかその空気を換えるために、咳ばらいを一つすると、アモルに一つ提案を出した。


「まあ、取りあえずアモルは風呂に入って来いよ。ここ個室の風呂場があるみたいだしさ」


「いけません。セルウァーさんが先に入ってください! わたしが先に入るなんてそんなおこがましいことなんで出来ませんよ」


「いやいや、そんなこと考えなくても良いからね。それに、アモルは慣れない旅路で疲れただろう。仕方がないととは言え、野営だってさせてしまったわけだしね。それにこれからも一回か二回は野営する破目になると思う。だから、休める時には休んでほしいんだ。俺は慣れてるから良いけど君は違うだろ」


 それでもなおも食い下がろうとするアモルに、セルウァーは苦笑しつつもお風呂で使う物を渡すと、風呂場に行かせてしまう。


 アモルが風呂場に入ったのを確認すると、セルウァーは溜めていた息を吐き出した。


 やっぱ、身に付いた習慣って言うのは簡単抜けるもんでもないか。だけど、それでも彼女にはちゃんと生きる権利があるってことを教えたいな。奴隷としてではなく、ちゃんと一人の少女として生きる道があるってことを。


 セルウァーはそう考えながら、自身の武器のメンテを行っていく。こう言ったことは野営をしている時は簡単にしか出来ないので、こうして宿を取った時などにしっかりとメンテナンスをしておく必要があるのだ。そうしておかないと、いざという時に命を守れなくなってしまうので、しっかりと行っておく必要があるのだ。


 なのでセルウァーは念入りに自身の剣をメンテしていく。


 そうこうしているうちに、時間がそれなりに過ぎていたのか、室内にペタペタと足音が聞こえてくる。


 視線を上げると目と鼻の先にアモルの整った顔があって、セルウァーは大いに驚いてしまう。


 アモルはセルウァーの反応に首を傾げて不思議がっている。


「……出たんだな」


「はい、お先にお風呂ありがとうございます。ちゃんとしたお風呂に入るなんて久しぶりでしたから、とても嬉しかったです」


「なら良かったよ」


 幸せそうに微笑むアモルの姿を見て、セルウァーも幸せな気持ちになった。


「そう言えば、ウィック取ったんだな」


 セルウァーは言ってから、風呂に入ったから当然かと思えてしまう。しかし……


「やっぱり、何度見てもアモルの髪って綺麗だよな」


 最初にアモルの姿を見た時は傷だらけで、汚れにまみれて綺麗な銀髪もくすんでしまっていたが、今は元の輝きを取り戻したかのように、アモルの元々の銀髪が室内に設置されていた灯りを反射して、綺麗に輝いている。その輝きは何度見ても飽きることはないだろうとセルウァーは思ってしまう。それにパジャマとしているゆったりとした白色のワンピースもとても似合っているし。


「それに変装しているアモルも可愛いと思うけど、やっぱりいつものアモルの方が可愛いな」


 多分、こんな歯の浮くようなセリフが飛び出せたのは、アモルの幸せそうな気持に当てられたからだろうなとセルウァーは感じていた。そして、セルウァーは少し照れくさそうにアモルの方に向き直った――のだが、そこでアモルの様子の変化にセルウァーは気が付いた。


 アモルの顔や体全体が真っ赤に染め上がっていたからだった。


 セルウァーは、アモルのその反応に大いに戸惑ってしまう。


「あっアモル?」


 セルウァーが心配そうに声をかけると、アモルは顔を真っ赤に染め、綺麗な蒼色に眸を涙で潤ませている。そして、セルウァーが声をかけると、アモルはピクンと肩を上げてその場に蹲ってしまう。


「アモル⁉ 本当に大丈夫?」


 アモルは激しく首を縦に振った。そんな様子にセルウァーはますますアモルの反応に訳が分からくなってしまう。


 そして、アモルはアモルで自分のキャパを大いに超えていたため、これ以上何か言われたら自分の心臓が持ちそうになかったのだ。


 アモルはセルウァーのことが好きだ。奴隷だった自分がこんな感情を持ってはいけないことは、アモル自身分かってはいた。そして、セルウァーにそんな自分が釣り合わないってことも十分わかっていた。だから、こんな感情は捨てないといけないって、この旅路の途中で何回も何回も思っていた。しかし、セルウァーに褒められる度に、自分の感情はそんな意思には関係なく舞い上がってしまっていた。


 もっとセルウァーに可愛いって言ってほしい、もっと可愛いって思ってほしい。今ではそんなことを考えるようになっていた。


 わたしはこんなことを思ってもいいのかな?


 それはアモルが何度も何度も思ったことだった。しかし、その答えは一向に出ないままだった。


 セルウァーはセルウァーで、アモルがどうして蹲ったのかが分からず、ただただ戸惑うことしか出来なかった。


 



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こちらの作品もよろしくお願いいたします。 錬金術師と幼な妻~俺に嫁が出来ました~
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