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第3話「西の街へと」

  第3話「西の街へと」


 セルウァーたちが滞在していた街【ターソン】から出発して、三日ほどが経とうとしていた。


 旅路は順調に進み、このペースで進んでいければ予定していた日程で西の街【バルジャン】に到着出来そうだった。


 隣を見ると、アモルが楽しそうに馬車の上から見れる景色を見ている。


「楽しいのか?」


「すっすみません! 久しぶりの外の景色だったのでついはしゃいじゃいました」


 アモルは本当に申し訳なさそうに、そう言いながら頭を下げてくる。


 そんな姿にセルウァーはハッとなってしまう。


 そうか、彼女はずっと奴隷として過ごしてきたんだ。きっと、地下室に閉じ込められて労働を強いられていたに違いない。


 だからこその、このはしゃぎようなのだろうと、セルウァーは当たりを付ける。


「別に謝る必要なないよ。それに俺も余計なことを聞いてごめんな」


 さすがにさっきのは無神経な質問だったと反省して、セルウァーはアモルに向かって謝罪した。


 アモルはアモルで、そんなセルウァーの態度に大いに驚いてしまい、おろおろとしている。


「あっ謝らないでください! せっ()()()()()()()!」


 セルウァーはその言葉に、驚いてしまう。だって……


「初めて俺の名前を呼んでくれたな」


 セルウァーの言葉に、アモルはあっと言う表情を浮かべている。


「申し訳ありません! 気安くご主人様の名前を呼んじゃいけないはずなのに、呼んでしまいました! 本当に申し訳ありません!」


 アモルのその姿を見て、セルウァーはどうしたらこの少女に分かってもらえるだろうと頭を悩ませてしまう。


「取りあえず、アモルは頭を上げてくれ」


 セルウァーはアモルにそう声をかけると、アモルは恐る恐ると言った感じで頭を上げた。そして、そのアモルの表情にセルウァーは愕然としてしまう。何故ならば、アモルの綺麗な蒼色の眸には涙が溜まっていた。それはまるでこれから『お仕置き』をされるんじゃないかと言う、不安に揺れた眸だとセルウァーは感じた。


 セルウァーはアモルを落ち着かせるために、アモルの頭を撫でながら優しい声音で言葉を紡いでいく。


「俺は別に怒ったりしないよ。むしろ、その逆で嬉しかったんだ。やっと少しは信頼してくれたのかって思って。それにアモルはもう奴隷なんかじゃない。一人の女の子なんだよ。だからさ、そんなことを思わないでくれよ。少なくとも俺はアモルのことを奴隷だとは思ってないよ。だからさ、アモル。俺の前では奴隷なんかじゃなくて、一人の女の子として接してくれると嬉しいな。もちろん、すぐにとは言わないさ。アモルのペースで良いからさ」


 セルウァーはそう話しながらも、内心は怒りの渦が渦巻いていた。


 彼女にここまでの心の傷(トラウマ)を植え付けた、知りもしない主人に対して向けた怒りだった。


「……はい」


 アモルは、やがてゆっくりと頷いた。


 彼女の心の傷を癒すには、かなりの時間がかかるだろう。それでも、俺は彼女の心の傷を癒してあげたいと思ってしまう。普通の少女として生活してほしいと思ってしまう。


 セルウァーが笑いかけると、アモルも微かに笑ってくれる。そんな姿に、セルウァーはほっこりとしてしまう。


「おい、そこのバカップル。イチャついてる暇はそこまでだぜ」


 セルウァーとアモルが笑い合っていると、馬車の手綱を引いていた男性が、二人にそう声をかけた。


 セルウァーとアモルは、慌てて離れて距離を作った。お互い、恥ずかしくなってしまい顔を見合わせられなくなってしまう。


 セルウァーは咳払いで、この空気を何とか誤魔化すと馬車を引いてくれている男性に問い返す。


 周り座っている人たちのの視線が痛い気がするが、そこは気にしたら負けなような気がしたのでセルウァーは思いっきり無視を決め込むことにする。


「それで、何かあったのか?」


「馬車が出せるのはここまでだぜ。ここから先は徒歩で行ってもらうことになる」


「何かあるのか?」


「ここから先にある森は最近、魔獣の出没が相次いでいて、通行禁止になっている場所なんだよ。すまないな」


「いや、ここまで来てくれただけでも感謝するよ、ありがとう」


 セルウァーは男性にお礼を言うと、二人分の乗客料を支払うと馬車から降りた。


 さりげなく、セルウァーはアモルが馬車から降りる際に手を貸していた。


「それで、アモル。ここからは徒歩になるんだけど大丈夫か?」


 セルウァーは目の前に広がる森を見ながら、アモルにそう問いかけた。


 馬車の男性の話によると、あの森はそこまで深くなくすぐに抜けられるとのことだった。それに、森を抜ければ【ガンタール】と呼ばれている小さな町があるらしいのだ。


「大丈夫ですよ」


「それに、あの森には魔獣が出るらしいから気を付けて行くぞ。それと何があっても俺のそばからは離れないでくれよ」


「はい」


 アモルはそう言いながら、セルウァーの服の裾をちょこんと掴んだ。きっと不安なんだろうと、セルウァーはそのアモルの行動を見てそう感じていた。


 そんなアモルのいじらしい姿を見て、セルウァーは居ても立っても居られず、自身よりも小さな手をぎゅっと握りしめた。


 セルウァーの急な行動に驚いたのか、両目を見開いて固まっている。そして、次第には頬が赤く染まり始めていた。


 そんなアモルの反応を見て、セルウァーは可愛いなっと思ってしまう。酒場でも感じたことだが、この少女は本当に色々な表情をするなっとセルウァーは感じていた。奴隷になると次第に感情は薄れてきてしまい、表情も乏しくなることがあるとセルウァーは聞いたことがあった。だが、この少女はそう言ったところが見られないため、そこは一安心できるところだった。


 それにさっき、カップルと間違えられたんだよな。


 意識したことはなかったが、アモルの年齢って十五、六歳辺りだろうとセルウァーは思っていた。


 セルウァーが十八歳になる為、二人の年齢はそこまで離れていないと言える。そして、そのぐらいの年頃の男女が二人でいれば、そう言った関係で見られることもセルウァーは十分に理解していた。


 何だろう、今まで考えたことがなかったけど嫌な気分じゃないな。アモルはどうなんだろう?


 セルウァーはそこまで考えて驚いてしまう。そんなことを考えている自分自身に心底驚いてしまう。


 どうしてそんなことを思ったのだろうと、セルウァーは自分自身に対して不思議に思ってしまう。だが、その気持ちは不快な気持ちではないとセルウァーは思えてしまうので、本当に不思議だとセルウァーは思った。


 隣を見ると、アモルがこちらに笑いかけてくれる。その笑顔にセルウァーはドキリとしてしまう。


 あれ? アモルってこんなに可愛かったっけ?


セルウァーはそう思ってしまった自分に、本当に驚いてしまう。


「どうかしたんですか? セルウァーさん」


 アモルはそう言って、首を傾げている。


 その何気ないアモルの仕草にも、セルウァーはドキリとしてしまう。


 かっ可愛いっ!


 アモルはアモルでそんなセルウァーのことを不思議そうに眺めているのだった。


***********************


 それから何とか気を取り直したセルウァーは、アモルを共に森の中に入って行く。


 アモルとはぐれないように、セルウァーの左手はアモルの右手と繋がれていた。


 森の中は思った以上に暗く視野が狭まってしまう。上を見上げれば、枝から伸びた葉っぱが、太陽の光を遮ってしまっている為、森全体を暗くしている為だった。


「気を付けろよ、アモル。どこから魔獣が出てくるか分からないからな」


「はい」


 アモルはそう答えると、ぎゅっと繋いでいる手に力を込めてくる。セルウァーもそれに応えるかのように握り直した。


 セルウァーは、そんなアモルのことを絶対に守ると心に誓うのだった。


 しばらく歩いたところで、セルウァーは足を止めた。


「セルウァーさん?」


「しっ!」


 アモルの声に、セルウァーはアモルの口に指を当て黙らせる。そして、そのまま耳を澄ませると、遠くの方から魔獣の唸り声が聞こえてくる。そして、その唸り声はゆっくりとだがこちらに近付いてきていた。


「魔獣がこっちに近付いて来てる」


 セルウァーの言葉に、アモルは怯えた表情を見せる。セルウァーはアモルの落ち着かせる為に、繋いだ手に力を込めた。その手は微かに震えていた。


「アモルは俺が絶対に守るよ」


「……はい」


 アモルをチラッと見てみれば、顔を真っ赤に染めて下に俯いてしまっていた。


 あれ? 逆効果だったのか?


 セルウァーはそう感じながらも、慎重に歩みを進めていく。


 魔獣の反応はあるが、見つからないでやり過ごせることに越したことはなかった。なるべく、アモルのことを危険な目にさらしたくはなかった。しかし、セルウァーの願いは虚しく、二人は魔獣に見つかってしまう。


「アモルッ! まだ走れるか⁉」


「はっ……はい……」


 アモルはそろそろ限界に近いか。


 アモルの返事を聞いたセルウァーはそう結論付けると、急ブレーキをかけた。その拍子にアモルがセルウァーの胸に飛び込む形になってしまうが、セルウァーは優しくアモルのことを抱き留めた。


「セルウァーさん?」


「アモル、俺の背中に隠れてろよ。ここで魔獣を倒す」


 セルウァーは言うや否や腰から剣を抜き放ち構えた。


 セルウァーが使う剣は、鍛冶屋で打ってもらっている業物ではあるが、業物の中でも安い部類の剣ではあった。しかし、魔獣なら十分な威力は発揮する。


 そうして待ち構えたセルウァーたちの前に現れたのは狼の姿をした魔獣だった。


 この魔獣は単体ではそこまでの脅威はないが、ピンチになった時に仲間を呼ぶ習性があるのだ。仲間を呼ばれてしまうと非常に大きな脅威となってしまう。


 その前に倒す!


 セルウァーは魔獣の姿を捉えるや否や地を蹴った。


 そんなセルウァーの姿を見て、アモルはセルウァーの無事を祈るように手を組んで見守っていた。




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こちらの作品もよろしくお願いいたします。 錬金術師と幼な妻~俺に嫁が出来ました~
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