第22話「ただいま」
第22話「ただいま」
「アモル、結婚しよ」
もっと他にも言わなきゃいけないことがあったと思う。だけど、アモルの姿を見たらそんなことは忘れてしまい、ただただその一言しか思い浮かばなかった。
もうアモルのことを手放したくない、アモルのそばを離れたくない。ずっとそばにいたいと心の底から思ってしまったのだ。
アモルのことをギュッと抱きしめて、アモルの存在を確かめているとアモルがとんとんとセルウァーの胸を叩いた。
それに気が付くと、セルウァーは胸に閉じ込めていたアモルの姿を見た。アモルはアモルで綺麗な蒼色の眸を潤ませていた。
「セルウァーのバカ」
アモルは小さくそう呟いた。
「ん?」
やっぱり、いきなり過ぎたかなとセルウァーが思っていると、アモルはきっとセルウァーのことを睨んだ。
「セルウァーのバカ!」
今度ははっきりとアモルはセルウァーに告げた。
「あっアモル?」
いきなりのアモルの言葉に、セルウァーは驚いてしまう。
「セルウァーはバカです! 身勝手です! 勝手すぎます!」
「えっええ?」
「何の相談もなく危ないことをして! いっつも、いっつもわたしのことを最優先で自分のことを考えてくれません! 嬉しいですけど、残された方がどんな気持ちでいるか少しは考えてください!」
「すっすみません」
アモルのあまりの迫力に、セルウァーは思わずそう呟いてしまう。
「それに、こんなボロボロな体で帰って来て、それにいきなり結婚しようだなんて、身勝手にもほどがありますよ」
「はっはい……」
考えてみれば、アモルにこんなに怒られたのは初めてかもしれない。それにこんなにも表に感情を出してくれたアモルの姿を見たのは初めてだったのだから。
だから、こうして怒られているのに、セルウァーは思わず顔がにやけてしまうのを抑えきれなかった。
「セルウァー、わたしは怒ってるんですよ」
「いやさ、アモルがこうして感情を表に出してくれるのが嬉しくて、つい」
「ついじゃありませんよ!」
「ごっごめん。本当にごめんなさい」
セルウァーは謝ることしか出来なかった。
「それに、帰って来たら言うことがあると思うんです」
確かにアモルの言う通りだった。
「ただいま、アモル」
「おかえりなさい、セルウァー」
ここで初めてアモルは笑顔を見せてくれた。やっぱり、アモルの笑顔を見てくると元気が出てくるなっとセルウァーは感じていた。
アモルはセルウァーの背中に手を回すと、優しく抱きしめた。
「もう勝手にどこかに行かないでください。わたしのそばにずっといてください。もう二度と離れないでください。だから、わたしをあなたのお嫁さんにしてください」
それがアモルの答えだった。
「ああ、絶対に君を幸せにするよ」
そう言って二人は笑い合った。すると、今まで黙って一部始終を見ていた酒場の客たちが一斉に騒ぎ出した。口笛を吹いたり、手を叩いたり、大声を上げたりと大騒ぎだ。
そこで二人は、ここが今どこかなのかを思い出して二人して顔を真っ赤に染めていた。
この後は、もう飲めや食えや騒げやで大変な賑わいを見せていた。それはそうだろう。『バルジャンの天使』が、目の前で公開プロポーズをされてさらにはそれを受けたのだから、もう酒場の客たちの騒ぎようは半端なかった。
落ち込む者、祝杯を挙げる者、逆にやけ酒を飲む者。実に様々な反応を酒場の客は見せていた。
それにセルウァーとアモルは未だに抱き合ったままで、アモルは感極まりセルウァーの腕の中で泣いてしまっている為、セルウァーはセルウァーで動けずにいる。
そんな二人の様子を見ていたテッラは、セルウァーにねぎらいの言葉をかけると「もうアモルは上がらせるから、今日は二人でゆっくりと休め」とセルウァーに伝えた。
「ありがとう、テッラ」
「別に構わないさ。セルウァー、よく無事に帰って来た」
「無事とは言えないけどな」
「はは、確かにな」
セルウァーはテッラにもう一度礼を告げると、アモルを連れて二階の部屋へと上がった。
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二階の部屋へと行くと、セルウァーは何だか懐かしい気持ちになってしまう。それと同時にああ、帰って来たと言う実感が湧いてくる。
不思議だな。今まで長い間ここを空けてもそんなこと思ったことがなかったのに。本当に不思議だな。彼女がいるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるのか。
アモルには敵わないな。
セルウァーがベッドに腰を下ろすと、アモルも隣に腰を下ろした。アモルはそのままセルウァーに抱き着いている。まるで、もう二度と離さないとでも言うように。
セルウァーはどうしたらいいのか分からず、ただただアモルの頭を撫でていた。
しばらく、そうしているとやがてアモルが口を開いた。
「もう勝手にどこかに行かないでください。わたしのそばにずっといてください。もう二度と離れないでください。だから、わたしをあなたのお嫁さんにしてください」
アモルは先ほどの言葉を繰り返した。だが、先ほどと違い、今度のは弱々しかった。
「ああ、約束するよ。もう二度と勝手なことはしない。絶対に何がやる時はアモルに必ず相談するし、行き先もちゃんと伝える。ずっと君のそばにいるよ」
「約束……ですよ」
アモルは顔を上げると、潤んだ眸でセルウァーを見上げていた。
「ああ、約束するよ」
セルウァーはアモルことを引き寄せると、そのままアモルの小ぶりな唇に自身の唇を重ねた。その気持ちは本当だと証明する為に。
どのくらい重ねていたんだろうか? 五秒か、十秒か。はたまた三十秒か。永遠とも思える時間だった。
セルウァーが顔を離すと、アモルは恥ずかしそうにはにかんだ。
「君を絶対に幸せにしてみせるよ」
セルウァーは誓うように言葉を紡いだ。
「わたしもセルウァーを幸せにしたいです」
「はは、ありがとうアモル。ああ、そうだアモル。あれは届いているか?」
セルウァーのその一言で、アモルは何を言っているのか察し、机の上に大切に保管しておいた箱を取りに行って、そのままセルウァーの元に戻ってくる。
「届いていますよ」
アモルから小さな箱を受け取るとその箱を開けた。
「おお、初めて実物を見るけどなかなかいい感じに出来てたからよかったよ」
セルウァーは指輪を見て笑うと、そのままアモルに視線を移した。箱からアモル用の指輪を取り出した。
「きっとこの指輪はアモルに似合うと思う。アモル、これを付けてくれるか?」
セルウァーは言っていて恥ずかしくなってしまうが、目をそらしてはいけないと思いまっすぐアモルの眸を見ていた。
「むしろ、わたしでいいんですか?」
「アモルがいいんだ」
セルウァーはそう言いながら、アモルの左手薬指にその指輪をはめた。
「うん、良く似合ってるよアモル。とても綺麗だ」
アモルはセルウァーの言葉に赤面してしまう。
「あっありがとうございます……」
アモルはそれだけ伝えると黙ってしまうが、やがて意を決して口を開いた。
「わたしもセルウァーに指輪を付けたいです」
「あっああ、お願いしてもいいか」
「はっはい!」
アモルは勢いよく答えると、おずおずとした様子で小箱から指輪を取り出した。そして、そのままその指輪をセルウァーの左手薬指にはめた。
「セルウァーもとっても似合っていてかっこいいですよ」
「ありがとう、アモル」
何だか二人は恥ずかしくなってしまい、お互いで顔を合わせなれなくなってしまう。微妙な空気が二人の間に落ちるが、それは決して居心地が悪い空気ではなかった。
しばらくの間、二人はそうしていたがやがてアモルがセルウァーに再び抱き着いた。
「セルウァー、ありがとうございます。わたしを何度も何度も助けてくれて。わたしだけじゃありません。他の奴隷になってしまっていた人も救ってくれたんです。本当に本当にありがとうございます。本当は最初に伝えなきゃいけなかったのに、怒ってしまってごめんなさい」
セルウァーはアモルの言葉に苦笑してしまう。そして、セルウァーはアモルのことを抱きしめた。
「別にアモルが謝ることじゃないさ。俺が勝手に行ったのが悪いんだし。それに君がこうして無事に自由の身になれてよかったよ。それに、結果的にアモルの仲間も救えた。本当に良かったよ」
「セルウァーはわたしにとっての英雄です」
アモルが感極まったように言葉を漏らしたが、すぐさまセルウァーはそれを否定した。
「それは違うさ。俺はアモルの英雄なんかじゃない。だって、俺とアモルは夫婦だろ? だから、俺は君の夫だよ。だから、英雄じゃないさ。そうだろ?」
セルウァーは悪戯そうに笑った。それを聞いたアモルは今度こそ泣き出してしまう。
セルウァーは泣きつかれて眠ってしまうまで、アモルの頭を撫で続けていた。
「アモル愛してるよ」
セルウァーは眠っているアモルのおでこにキスを落とすと、眠っているアモルをベッドの中に寝かせると、セルウァーも隣に横になった。
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ゆさゆさと優しく揺すられる感覚で、セルウァーの意識は軽く浮上する。「ん~」と唸っていると、「セルウァー」と優しく心地よい声が聞こえてくる。
セルウァーが睡魔を振り払い目を開けると、そこには優しく微笑んでいるアモルの姿があった。
「セルウァー、朝ごはんが出来ましたよ。冷めないうちに食べましょう」
「ああ、そうだな」
そう言えば、アモルと朝ごはんを食べたのはあれ一度切りだったんだなっと、今更ながら思い出す。
アモルには本当に寂しい思いをさせてしまったなっと改めて感じる。これからは、ちゃんとアモルのことを考えてあげないといけないないとセルウァーは感じていた。
「おはよう、アモル」
「おはようございます、セルウァー」
笑ってくれるアモルを抱き寄せると、そのままアモルの唇にセルウァーはキスをした。
「せっセルウァー」
アモルは恥ずかしそうにもじもじとしている。
「ごめん、アモルが可愛いからつい」
「もうバカ」
アモルは小さく呟くと、セルウァーのことをぽかぽかと叩いているが、当然のように全然痛くはなかった。
そんなアモルの姿が可愛くて、セルウァーは再びアモルにキスを落としたのだった。
下に降りると、アモルが用意したであろう朝食が並べられていた。
オムレツにパン。それにスープにサラダにヨーグルト。どれも綺麗に作られていて、初めてオムレツを作った時のアモルのオムレツとは見違えていた。
「セルウァーがいない間、ずっと料理の練習をしてたんです。セルウァーに美味しい料理を食べてもらいたくて」
アモルがポツリと教えてくれる。
「そっか。俺の為にか」
アモルは頷いた。
「ありがとう、アモル。すごく嬉しいよ」
セルウァーはそう伝えると、そそくさと席に着いた。アモルもそれに見習って席に腰を下ろす。
「「いただきます」」
セルウァーは早速料理を食べ始めた。アモルは黙ってそんなセルウァーを見ていた。
セルウァーはオムレツを口に運んだ。初めて食べた時とは比べものにならないぐらいに、そのオムレツは美味しかった。
「とっても美味しいよ、アモル」
セルウァーの言葉を聞いて、アモルはほっと胸を下ろした。
「よかったです。ずっと夢だったんです。こうして大好きな人と、わたしが作った料理を食べながら、笑いながら食事をするのことが。これって、とっても『幸せな家庭』って気がするので。確かに他のこともあるとは思いますけど」
アモルは話しながら眸に涙を浮かべている。
ああ、アモルは昨日から泣き虫だなっとセルウァーは思ってしまう。
だけど、アモルの言っていることはよく分かるとセルウァーも感じていた。
「ああ、俺もそう思うよ。けど、アモル。ここがスタートラインだ」
「スタートライン?」
「ああ、そうだ。アモルの夢だった『幸せな家庭』への第一歩だ。だから、ここから二人で作って行こうぜ。『幸せな家庭』をさ」
「はっはい! はい! それってとっても素敵なことですね」
アモルは眸から涙を零しながら、何度も頷きやがて泣きながら微笑んだ。そのアモルの笑顔は、決して忘れることが出来ないぐらいに綺麗で可愛いとセルウァーは感じていた。
こうして、奴隷だった少女は夢だった『幸せな家庭』を手に入れたのだった。彼女の本当の物語はここから始まるのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございました! これにて『奴隷の少女が求めたのは、幸せな家庭でした。』の本編は完結となります。年内には難しいですが、年が明けたらこのお話の後日談的なお話を話数は未定ですが、上げていきたいと思っていますのでどうかよろしくお願いいたします。
最後に本当にここまでお付き合い頂きありがとうございました!




