第21話「解放された少女」
第21話「解放された少女」
あれから、【階層の洞窟】から脱出したセルウァーたちは、その場で『白銀の傭兵団』とは別れ、セルウァーはそのままティアに診療所へと連れて行かれた。
セルウァーの傷は深く、回復薬で応急処置をしたとは言え油断を許さない状況だった。そして、セルウァーは診療所で全治一カ月で、そのうちの一週間は絶対安静と診断されていた。
しかし、それなのにもかかわらず、セルウァーは診療所を二日で飛び出し、今は【バルジャン】へ帰るための馬車に乗り込んでいた。体中を包帯だらけにして乗客してきたセルウァーを見て、馬車の運転手は度肝を抜かれたものだった。それにそのセルウァーの行動に、ティアは呆れを通り越してしまい、しばらくは言葉が出なかったものだ。
少しコルセア商会のことを話そう。
あの後、コルセア商会はすぐさま解体されることとなったのだ。コルセア商会の長であったアルザが行った悪行が表に出たためだった。
最初はアルザは言い逃れをしようと色々な供述をしたが、魔道人形を倒した時に出てきた指輪が動かぬ証拠となり、アルザは殺人未遂で投獄されることとなったのである。
こう言った経緯でコルセア商会は信頼を失い回復不可能な所まで落ち込んだ。そこからは別の商会が【ターソン】を切り盛りしていくそうだ。
そして、コルセア商会が所有していた奴隷たちは、無事に全員解放されることとなったのだ。
こうして、アモルも無事に解放されて完全に自由の身になったのだった。
セルウァーが【バルジャン】を離れて、すでに半月以上が経っている。
彼女に出会ってから、ずっとそばにいたので、今ではアモルが隣にいないことはすごく寂しことだと、セルウァーは改めて感じていた。
「隣に座ってるのが、お姉さんで悪かったな」
ティアの言葉に、セルウァーは思わずぎくりとしてしまう。
「べっ別にそんなことないぞ」
「いやいや、思いっきりアモル・フェーリークスのことを考えていますって、顔に書いてあるぞ。私というものがありながら、他の女のことを考えるなんて最低!」
「誤解を生むようなこと言うな! そもそも、そんな関係じゃないだろが!」
「ニッシッシ。冗談だよ冗談。でも、それだけ騒げるなら大丈夫そうだな」
「当たり前だ」
セルウァーとティアは二人して笑い合った。
このペースで進めば、【バルジャン】へはあと二日ほどで到着出来そうだった。
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酒場【ウルグス・ウィーヌム】ではとある二つの話題で持ちきりだった。
まず一つ目は――
――コルセア商会が一人の傭兵を殺すために、大量のMKを仕掛け、さらには魔道人形まで使って殺害しようとするが、そこに駆け付けた『白銀の傭兵団』によって、それは阻止されてしまう。そして、魔道人形に含まれていた指輪でコルセア商会と分かり、瞬く間にコルセア商会は解散。会長であったアルザ・コルセアは投獄された。そして、奴隷たちも一斉解放される。そして、解放された奴隷たちは、色々な紹介で引き取り次々へと雇用し始めている――
「まさか、あのでかい商会がこんな形で崩壊するとはな。ちょっと驚きだ」
今日の朝一で配られていた新聞を読みながら、いつもの様にカウンターで安酒を呷っていたガイアスはコメントしていた。
「ねぇ、あたしもそれを見て驚いたわよ。まさか、あんな大きな商会がそんなことになるなんて、思ってもみなかったわ」
ガイアスとドミナはそのまま話に花を咲かせていく。それを厨房で聞いていたテッラは、もちろんそのことを知っていた。今朝の新聞を見た時は心の底から嬉しさが湧き上がって来たものだ。
セルウァーの奴、本当にやり上がったんだな。
なので、テッラはその記事を見た後すぐにアモルのことを呼んだのだ。今日の店はきっとその話題で持ちきりだろうから、いずれはアモルにもこの話が入るだろう。だから、テッラは先に話しておきたいと思ったのだ。
「アモル、少し話があるんだが大丈夫か?」
身支度を終えて、作業に入ろうとしているアモルをテッラは呼び止めた。
「はい、大丈夫です」
「少し長くなるかもしれないから、そこに座ってくれるか」
アモルは不思議そうに首を傾げながら、イスに腰を下ろした。
「実はな、セルウァーのことで話があるんだ」
「セルウァーさんの⁉」
「ああ、そうなんだ。あのな、セルウァーは【ターソン】に行っていて、アモルを買った人に会いに行ってたんだ」
「えっ……」
テッラの言葉があまりにも驚きだったのか、アモルは目を大きく見開いていた。
「アモルを奴隷から解放するために、話をして決着をつけるためにな」
「でっでも! それじゃあセルウァーさんは!」
アモルの言いたいことは、テッラにはよく分かった。
「ああ、アモルの言いたいことはよく分かる。その前にこの新聞を読んでくれるか」
「はっはい」
アモルはそれを受け取ると、そのままその新聞を読み始める。そして、すぐにテッラが新聞を見せた意味を理解した。
「コルセア商会が解散⁉ これってつまり……」
「ああ、セルウァーが決着をつけたってことだ。そして、アモル。君はもう奴隷じゃない。完全に自由に身だよ」
テッラのその言葉に、アモルはハッとしてしまう。
あの時、セルウァーが言っていた言葉をようやくここでアモルは理解することが出来た。
セルウァーはあの時、『アモルがもし奴隷から解放されたら、その時は……結婚しよ』と、言っていた。その時、アモルはいつかそんな未来がくればいいなっと思いながら、その話を聞いていた。今思えば、その時からセルウァーはこうするつもりだったのだろう。
セルウァーはわたしの夢を叶えるために、こんな危険なことを冒したんですか? あなたは本当にバカです。河原でわたしを助けてくれた時も今回のことも。ずっと、ずっと。
それに指輪のこともそうだ。あの時はプロポーズが本当だったことに驚いてしまい、浮かれてしまい、どうして指輪を送られたのかが分からなかった。けど、全てセルウァーがこうなるようにと……
アモルはそこまで考えると、ボロボロと眸から涙を流して声を上げて泣いた。そのアモルの鳴き声に駆け付けたドミナは、アモルの様子を見て優しく微笑むと、記事を抱きしめたまま泣いているアモルのことを優しく抱きしめた。
「まったく、あなたも人が悪いわ。知っていたのなら教えてくれればよかったのに」
「悪かったな。余計な心配をかけたくなかったんだよ」
妻の言葉にテッラは白旗を上げるしかなかった。
しばらくの間、アモルは泣き続けていた。そんなアモルの背中をドミナが優しく撫で続けていた。
アモルが泣き止むと、ドミナが優しく声をかけている。
「あらあら。目が真っ赤じゃない。これだとあとで腫れちゃうかもしれないから、今濡れタオルを持ってくるから、優しく目に当てるのよ」
ドミナの言葉にアモルは「うん」と頷いている。
「それで、アモル。これからのことで一つ話があるんだが、大丈夫か?」
それにもアモルは頷いて答えた。
「アモルはこれでもう奴隷じゃなくなった。それはつまり、今後一切変装だってしなくていいし、店でももうニーナって名乗らなくてもいいってことだ。アモルがもし、ニーナのままでいたいって言うならそれで構わないし、もうアモルはアモルのままでいいって言うなら、素の自分でいても大丈夫だ。どうする?」
本当は最初からそうさせてあげたかったのが、セルウァーとテッラの想いだった。しかし、あの状況じゃそうも言ってはいられなかった。
アモルは少し考える素振りは見せたが即答した。
「わたしは素のままの自分でいたいです。だって、そんなわたしをセルウァーは好きだって言ってくれましたから。だから、このままの自分でいたいです」
泣きはらした目でそうはっきり告げるアモルの姿を見て、テッラは「そうか」と呟くと優しく微笑むのだった。
「それじゃあ、アモル。今日も一日よろしく頼むな!」
「はい!」
そして、これが二つ目の話題だった。
今までアモルはホール仕事をニーナの姿でやっていたが、今日からはアモルはアモルでやることにしたのだ。
ニーナは茶髪のハーフアップをアレンジた髪型で行っていたが、今は肩甲骨辺りまで伸びた綺麗な銀髪を下の方で二つに括り、いつもの制服に身を通して接客をこなしていた。
客たちは最初は新しい給仕か何かだと思っていたが、アモルの接客する姿を見て、それが次第にニーナだと分かっていったのだ。そして、アモルのその姿はニーナの姿以上に客たちの心を鷲掴みにしてしまったのだった。
いつしか、客たちの間で『バルジャンの天使』と呼ばれるようになっていた。
常連客にはドミナやテッラから事情を説明していた。そこからすぐに他の客にアモルのことが伝わり、アモルの本来の姿も簡単にこうして馴染んでしまったのだった。
アモルはアモルでこれからは何の気負いもなくこの街で生活できることになったので、今まで以上に仕事に精を出していた。気負いがなくなったアモルの笑顔は、今まで以上に人を惹きつける魅力を持っていたのだった。
それから五日後、アモルは普段通りに接客を行っていた。
テッラの話によると、セルウァーは後二日ほどで帰ってくるだろうとアモルは聞かされていた。
後二日でセルウァーが帰ってくる。早くセルウァーに会いたいな。それでおかえりなさいって言って、今度はちゃんとしたオムレツを食べてもらうんだ。
アモルは決意を新たに日々の仕事をこなしていた。
「アモル、そろそろ夜の部の営業を始めるぞ」
「はい!」
いつも通り夜の営業を、テッラにドミナ、アモルの三人でこなしていく。アモルがアモルとして働き始めてから客の入りがさらに増え、売り上げも右肩上がりだった。
今日も今日とてドミナとアモルがホールを忙しなく動き回っていた。
そして、それは後もう少しでピーク時間を過ぎようかとしている時間帯だった。
一組の男女が入店したのだ。女の方は外套付きのコートを身に纏い包帯だらけの男を支えながら歩いていた。男の方は頭に体にと包帯だらけで、誰かの支えがないと歩けないほどにボロボロだった。しかし、アモルはその男の姿を見て固まってしまう。だって、その男こそがアモルがずっと会いたくて仕方なかった人なのだから。
「せっセルウァー……」
無意識のうちに、アモル口からはそう言葉が漏れていた。
男――セルウァーが支えている女に何事かと呟くと、女は驚いた表情を見せた後、渋々と言った感じでセルウァーから体を離した。
セルウァーはその女にお礼を告げると、ふらふらとした足取りでアモルに近付いていく。
そのセルウァーの姿を見てアモルは、慌ててセルウァーの元へ駆け寄り、セルウァーのことを抱きしめた。
ああ、大好きな温もりだ。とっても安心できる温もりだ。やっぱり、わたしはこの人のことが大好きなんだ。
「アモル」
セルウァーに名前を呼ばれて顔を上げた。すると、思った以上にセルウァーの顔が近くどきどきしてしまう。
「アモル、結婚しよ」
アモルはその言葉に大きく両目を見開いたのだった。
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また、次話が本編最終話になります。本当はこの話ですべてを入れたかったのですが、文字数の関係で分割させて頂きました。
最後までよろしくお願いいたします。




