第4話 元に戻れた二人
1ヶ月後。アラン様の誕生日パーティーが開かれる前日。
タイミングが良くというか、ご都合良くというか、私たちは元に戻った。なぜこのようなことが起きて、さらに元に戻ることが出来たのかは分からない。
「突然元に戻るとはな」
「ええ。今朝起きて驚きましたわ」
私たちは、アラン様の避難部屋でもある特別室で、ランチを食べていた。
戻ったのは嬉しいが、1ヶ月以上、お互いを演じた生活をしていたので、なんだかまだ自分の身体にしっくりこない気分だ。
「パーティー前で、本当に良かったです。パーティーに対応出来るように仕込みましたが、それでも不安でしたよ」
ジーン様が、ホッとため息をつく。
「あぁ。俺も内心ドキドキしていた。リサがバレてしまうんじゃないかってな」
「私だって1ヶ月以上もやってきたので、結構自信ありましたよ」
「殿下と入れ替わることで、リサ様には自信だけは芽生えたようで……」
ジーン様が、困ったように頭を掻く。
「……色々と後処理が大変そうだな」
「えぇ……色々と」
アラン様とジーン様が顔を見合わせながら、ため息をついている。
「アラン様は、ちゃんと私を演じられていたのですか?」
「あぁ……結構うまくやれていたと思うぞ。同じクラスの令嬢たちと一緒にパフェも食べに行った」
「……え?! 本当ですか?」
「あぁ。何度か声をかけていたら、あっちから誘ってくるようになったぞ」
「勝手に友人関係を作らないでください! ……ちなみに、それって、エレナ嬢とマリー嬢ですか?」
「あぁ、そうだ。ずっと、君と話したかったそうだ」
「……今朝、親しげに挨拶されたから、不思議だったんです。でも……私も、二人とは前から仲良くしたいなと思っていたんです」
「そうか……それは良かったな」
アラン様は口元を少し歪める。そしてから、少し真面目な顔に変わった。
「ただ……その二人以外の令嬢たちの多くは……その……」
「なんですか?」
「……リサは大変だったんだな。いや、他人事にすべきではないな。私の婚約者だというだけで、あんなに辛い目に遭っていたとは……申し訳ない」
アラン様が悲しそうな目をして、頭を下げる。
「いえいえ、私は慣れていますから」
婚約者という立場だけで浴びせられる悪意。身の程知らずと囁かれる空気。比較される日々。それらをアラン様も経験してしまったのだろう。
「むしろ、アラン様は嫌な目に合われましたよね。申し訳ございません」
「いや……でも、君が婚約破棄してくれと言ってきた理由が分かった」
「いえいえ! それは原因ではありません」
「違うのか? みんなに非難されるのが辛いからではないのか?」
「はい。違います。ただ、原因は、私の誤解だったと思っています」
私に笑顔を向けずにぶっきらぼうに見えていたが、むしろ笑顔を向ける方が壁を作っていたことが分かった。それに、カイラ王女との関係も……。
「そうなのか? じゃあ、婚約破棄してほしいという気持ちは、今は……」
「保留で」
「……なくなったわけではないのか」
アラン様が肩を落とす。私はそんなアラン様の仕草を見て、クスリと笑う。
「なんだか、アラン様。前と少し変わりましたね。感情が少し分かるようになりました」
「そうか……私もリサのことが、また少し分かってきた」
アラン様の感情以外にも、今まで分からなかったアラン様の苦労や振る舞いの意味などが分かった。
分かってあげようとせず、婚約破棄をしてくれと迫った自分を悔やんだ。しかし、もしかしたら入れ替わったのも、私にアラン様のことを理解するようにと神様がチャンスを与えてくれたからかもしれない。
「二人がわかり合えたということで、結果的に入れ替わって良かった、ということですかね」
ジーン様が話をいいようにまとめようとする。
「あぁ。私は良かった」
「私は良かった半分、大変半分でした。あっそうだ。アラン様……いや言わない方がいいかしら」
「途中で言いかけて、それはないだろ。なんだ?」
「……ジーン様から言ってくださいな」
私は上目遣いでジーン様を見る。端から見れば、怒られる前の子どものような顔だろう。 ジーン様は、仕方ないとでも言いたげにため息をつく。
「おい、何があった?」
「リサ様、あの件ですよね? それともあの件をもですかね。あっ、教師に怒られて明後日までに追加課題を言われた件? それとも……」
「もうやめろ。それ以上聞きたくない……」
◇
「お嬢様。アラン殿下がお迎えに来ました」
「はい。今行きます」
私が玄関に行くと、アラン様がエスコートのために来てくれていた。アラン様の洋服は私の瞳と同じ色。そして、私のドレスはアラン様の髪の毛と同じ色。
「リサ。じゃあ、行こうか」
「はい」
そして、私はアラン様にエスコートされながら、パーティー会場に向かった。
パーティー会場では、私とアラン様の様子を見て、ヒソヒソと話す集団が何組かあった。私はそんな様子も気にせずに、パーティー会場を見渡した。
そこに、カイラ王女がやってきた。
「アラン殿。お誕生日おめでとうございます」
「カイラ王女。ありがとうございます」
二人が並ぶと美男美女に見える。私は一歩下がろうとするが、アラン様が私の腕をつかんで下がらせない。
「こちらは私の婚約者のリサです」
「……カイラ王女殿下。このような形ではお初にお目にかかります。リサと申します」
カイラ様に挨拶をする。私は少し挙動不審になってしまう。
「カイラ殿下、喉乾いておりませんか? 私、飲み物を取って参りますわ」
アラン様の腕をするりと抜けて、私は飲み物が置かれているテーブルへ向かった。そして、グラスを二つとり、カイラ様らのところに戻ろうとしたとき、私の目の前に数名の令嬢が立ちはだかった。
「リサ様、ちょっとよろしいかしら?」
「……よろしくないです」
そう言うと、私は令嬢たちの横をすり抜けようとした。
「ちょ、待ちなさい!」
令嬢の一人が声を荒げた。会場の一部の人たちは、何事かとこちらに視線を集めている。
「なんでしょうか?」
「なんでしょうか、じゃないわよ! 私が、あなたに話があると言っているのよ」
(はぁ……毎度毎度、突っかかってきて。飽きないのかしら)
私に対して、淑女らしからぬ大声を浴びせかけているのは、ロザリア公爵令嬢だ。以前は王太子のことを狙っていたため、私を目の敵にしていた。しかし、最近は違う意味で私を敵対視している。
「あなた、自分の立場を分かっているの?」
「どういうことでしょうか」
「アラン殿下の婚約者となっているけど、あなたは邪魔者だっていうこと分かっているの?」
「邪魔者とは?」
「だから、アラン殿下はカイラ王女と恋仲なの。あなたがアラン殿下につきまとって……二人の恋路を邪魔しているんだから、身を引きなさい! 伝統しかない、たかが侯爵風情が!」
そういうと、ロザリア様は、左手を腰に当て、右手で私の顔を指さしてきた。周りの令嬢たちも、そうだそうだとうなずいている。
(さて、どのように反撃しましょうかね……)
本日の22時頃に最終話を更新予定です!




