最終話 二人の未来は
私が、ロザリア様に、どのように反撃をしようかと悩んでいると、カイラ様とアラン様がやってきた。
「何を騒いでいるのだ」
「アラン殿下! 私たちは、アラン殿下とカイラ王女殿下の恋を応援しているのです!」
「……は?」
アラン様は唖然としている。
隣でカイラ様は扇子を口元に当てて、穏やかな目元を見せている。と思いきや、カイラ様は肩を震わせながら、アラン様に話しかける。
「アラン殿下。あの令嬢たちが、私と殿下の恋を応援しているそうですよ」
「……やめてください」
ロザリア様が、礼儀を知らずに、二人の話に割って入る。
「アラン殿下。遠慮しなくてもよいのです! 私たちはみんな知っています。アラン殿下の本当のお相手は、カイラ王女だっていうことを。それを身の程知らずのあの者がしゃしゃり出てきているということも!」
ロザリア様は鼻息荒く、一気に話す。周囲の令嬢たちも、うんうんと頷いている。
そんな令嬢たちの様子を見たカイラ様は、手に持っていた扇子を閉じた。そして、その閉じられた扇子を手の平にポンポンと叩きつけながら、ロザリア様らに冷たい目線を投げかける。
「身の程知らず? それはあなたのことじゃないの?」
カイラ様が一言放つ。
場の空気が凍り付く。
ロザリア様は、まさか自分が言われたとは思いもしないような顔でポカンとしている。
「リサ様が、殿下と私の仲を裂いた? ……フフフ……アハハハ!」
カイラ様の笑いが、会場に響く。笑いすぎて目に涙を浮かべている。
「はぁ……笑いすぎて苦しい。どうしてそんな噂になったのかしら? 私との仲を裂かれて辛かった? アラン殿下」
アラン様が隣で、ため息をついている。
「そういう言い方やめてください。冗談と思わない人もいますよ。いい加減にしてください」
「まぁ、そう怒るなって」
カイラ様の口調と声色が変化した。
それに気づいた会場の一部の人間達が、静かにざわめく。
「俺とアランが仲良いことは間違いないだろ?」
アラン様がため息をついている。
「正式に紹介する時間をあとで設けていたのに。その恰好のままでいいのか?」
「見た目はどうだろうが関係ないさ」
呆れた表情のアラン様に対して、カイラ様はウィンクをする。
そしてカイラ様が、会場を見渡しながら、会場中に通る声で話し出した。
「みなさま申し遅れました」
その声色は、今までとは違い、低くて凜とした声だ。
「私は……隣国の第一王太子のカインと申します」
会場の時間が止まったかのように静寂が一瞬訪れた後に、波のようにざわめきが広がった。
「王太子?」
「私の聞き間違えかしら?」
「よく考えれば、隣国には、昔は王太子が3人いて、今は2人なんだよな。1人は亡くなったかと思っていたが……」
「静粛に!」
ジーン様が会場のざわめきを抑える。
アラン様が口を開く。
「いま自己紹介があったように、彼女、いや彼は、隣国の第一王太子である。今まで内紛に巻き込まれないようにするため女性のふりをしていたが、このたび内紛が解決し、彼が正式に第一後継者となったのだ」
「そういうこと。だから、私と彼が恋仲というのはあり得ないことなの」
カイラ王女、いや、カイン王太子が、薄く笑いながら話す。
「……もう口調は直していいんだぞ」
「ドレスを着ていれば、心も女の子にならなければいけないのよ。オホホ」
「……勝手にしろ……」
私を責め立ててきた令嬢たちは、顔を青くしている。
私はロザリア様の顔を真正面から見つめながら話しかける。
「私は、邪魔者ではなかったみたいですわ」
「えぇ……そ、そうみたいですわね」
「でも、邪魔者って言われて、私、すっごく傷ついちゃいました」
「そ、それは……ごめんなさい!!」
ロザリア様が頭を下げる。その様子を見て回りの令嬢も慌てて頭を下げる。
「私への侮辱はそれで許してもいいですが、我が侯爵家も、伝統しか無いとバカにしていましたよね。それは正式に、公爵家に抗議を入れさせていただきますので」
「……」
王太子の婚約者の実家を侮辱したとなれば、公爵家は単なる謝罪ではすまないだろう。
(あとは、お父様にお任せしますわ)
◇
「それにしても、あの令嬢。金魚のように口をパクパクさせていたな」
カイン様がドレスから男性用の服に着替えて、王宮の貴賓室にてくつろいでいる。その場には、アラン様とジーン様、カイン様の側近と、私がいる。
「でも、すぐにアランじゃないって分かったよ」
「あの時は、すみませんでした」
私はカイン様との初対面のことを思い出す。
私がお久しぶりですと笑顔で話しかけたとたんに「その笑顔の種類は今まで見たことないわねぇ……で、君は誰?」とバレてしまったのだ。
そして、私が実は……と話したところ、カイン様も、王女ではなく王太子であるという秘密をあっけらかんと教えてくれたのだ。
(隣国王女が想い人だなんて、とんでもない勘違いだったわ)
私は当時を思い出して、恥ずかしさで顔を下に向ける。
「まさか、見た目アランの中が、こんな可愛い子だったとは思わなかったけどさ」
そう言いながら、カイン様はウィンクをしてくる。
(か、軽い……同じ王太子でも、こうも違うものなの?!)
「カイン殿下。私の婚約者に気軽に話しかけないでもらいたい」
「嫉妬して束縛する奴は嫌われるぞ」
「うるさい」
「ジーン様。二人はいつもこんな感じなのですか」
「そうですね。平常運転です」
「ところで、リサ。君はアランを避けていたと聞いている。それはどうしてだい?」
「えーと、それは……」
アラン様がじーっと私を見てくる。
「私も、あの令嬢たちと一緒で……アラン様はカイン王女が好きなんだと思っていました」
「なんでそんな誤解を……」
アラン様が頭を抱える。
「アラン。お前、ちゃんと好きっていう気持ち伝えていたのか? 自分の気持ちは言葉で伝えなければ意味ないぞ。言葉にしてもいないのに伝わるなんて、能力者じゃない限り、あり得ない」
カイン様がきっぱりと言う。
「言わなくても伝わるはずだ。なんていうのは妄想だ。思いはちゃんと口に出すことで実現するものだ」
「……そうだな。ありがとう、カイン」
そう言うと、アラン様が私の方を向き、ちゃんと目を見ながら話しかけてきた。
「リサ……今までちゃんと言葉にはしていなかった。逃げていたんだ。だから、誤解を生んでしまった」
「アラン様……」
「今度こそ、ちゃんと言う」
アラン様はもう視線を外すことはない。私の目をまっすぐ見てくる。
「初めて会ったとき。リサから、なんで無理して笑っているの?っていわれたんだ。リサは覚えていないようだけど」
「……そういえば、言ったかもしれません」
「そのとき、衝撃が走ったよ。確かに無理して笑っていた。そして、リサは『楽しくないときは、笑わなくていいんだよー』と言って、僕に満面の笑みを見せてくれたんだ」
「王太子に向かって、失礼な子どもでしたよね」
「いいや、そんなことはない。僕はあの時のリサの笑顔がずっと忘れられなかったんだ」
そう言うと、アラン様は一瞬目線を外すが、すぐに戻す。
「僕は……リサが好きだ。だから、婚約破棄はしたくないんだ」
「アラン様……ありがとうございます」
「婚約破棄してほしいという気持ちはなし、ということでいいかい?」
「はい。でも……」
「……リサ様? 何か歯切れが悪いですね?」
ジーン様が不思議そうな顔をしている。
「ちゃんと言葉で言わないと伝わらないんだぞ?」
カイン様が、私を後押しするように言葉を投げかける。
私は心配そうな顔をするみんなの顔を少し見渡す。そして、小さく息を吐くとアラン様の顔を見ながら話し始めた。
「アラン様のことは、今回で知らなかった面が見えました。私の誤解もありましたし、私の自信のなさという問題もありました。なので、婚約破棄をしてくれと言ったのは撤回したいと思っています」
「……リサ、ありがとう」
「でも……」
「でも?」
私は深く息を吸って吐く。そして、覚悟を決めて口を開く。
「……カイン様の先ほどのセリフ、感動しました!」
私はカイン様の方を向いて、目を輝かせた。
「軽いノリのギャップも相まって、素敵でした!」
私は手を胸の前で握りながら、カイン様をじっと見る。
「……はぁ?!」
アラン様とカイン様が同時に声を上げる。
「……アラン、悪い。さっき、格好つけて名ゼリフを言い過ぎたみたいだ」
カイン様がアラン様に謝る。アラン様は頭を抱える。
「前途多難ってとこですね」
ジーン様がアラン様をなぐさめる。
「リサ……僕のことを分かってくれたと思ったけど……また入れ替わってみるか?」
「お断りです」
私はアラン様に笑いかける。アラン様も、フフッと口元を歪めながら、目は楽しそうに笑っている。
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