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 子供たちが異世界からやってきたという話も、数日を過ごすうちになんとなく信じられるようになってきた。

 彼らが着ていた服は、この世界で流通している素材や技法では見たことがないようなものだし、ユアは民間人の9歳にしては驚くほどに賢すぎる。賢い、というのは何も頭の出来だけの話ではなく、物事の考え方やとらえ方、所作などが”教育”を受けたそれなのだ。コーデリアが生まれたこの世界では、学校に行ける子供はほんの一握りで、家の手伝いをしているため読み書きも満足に出来ない子が多い。成長するにつれてそれなりにできるようになる人がほとんどではあるが、それでも完璧にこなせるわけではない。

 もちろん、ユアはこの世界の文字が分かるわけではないのだが、本人曰く元の世界では学校に通っていたというだけあって、様々な事柄をよく理解している。時には、コーデリアが思いつかないようなことさえ、当然のように話し始めることもあった。

「あなたたちが別の世界から来たというのは、本当のようね」

「おれも、本当にここは元の世界とは違う場所なんだって、はっきりわかりました」

 たった数日ではあるものの、連れてきたころより肌つやもよくなり心なしかふっくらした気もする。あの時は二人ともかなり細くて、コーデリアは心配していたのだが、子供たちは毎食よく食べ、そしてよく眠り、すぐに健康的で元気になった。


 さて、そうなると考えなければならないのが、子供たちを今後どうするかだった。

 聖都の孤児院に送るべきだろうか。それともいったんこのまま預かって、元の世界に変える方法を探るか。どちらにしても本人たちの希望を確認しなければいけない。


「ねえ、あなたたちは、」

 コーデリアが二人に声をかけようとしたとき、ピュッと風を切るような鋭い鳴き声が聞こえた。

「コーデリアさん?」

「待って。……、二人はここにいなさい」

「これりあ、どっか行くの?」

「少し外の様子を見るだけ。ここから動かないで」

 この音は、古い知り合いが使役している精霊の声に違いない。緊急の用件だけなら良いが、久しぶりに聞くその声は――なんだか嫌な予感がする。

 薄く扉を開いて、外の様子を覗く。特に気配は感じない。隙間からさっと身を乗り出して戸を閉めると、家の中からココアが「これりあー」と呼ぶのが聞こえた。

 ピュイー。高いところから、もう一度精霊が鳴いた。見上げると、鳥のように翼を広げた白い何かが空を待っている。上に向かって手を伸ばすと、いつの間にかその指先に白い便せんが挟まっていた。真っ白な紙にふっと息を吹きかける、と、インクがにじむようにじんわり文字が浮かび上がった。

 差出人は思った通りの人物だ。コーデリアは、逸る気持ちを落ち着けて封筒を開く。



親愛なる大魔女 コーデリア


ご無沙汰しております。久方振りのご連絡となり申し訳ございません。

貴方にお話ししたいことは多くございますが、それはまたの機会として、急ぎお伝えしたいことがございます。


少し前に聖都で新しく魔女狩り部隊が編成され、先ほど服飾の魔女が討たれました。

これを契機にまた魔女狩りが勢いを増すことになるでしょう。


どうかお気を付けください。

御身に何事もございませんようお祈りしております。

必要があれば我々にいつでもお知らせください。



 ぐらりと目の前が揺れて、よろけた。一秒でも早くコーデリアに便りを出したかったのだろう、走り書きのその文字からは緊迫感が伝わってくる。

「アリアドネが……討たれた……」

 いつでもそばにいて寄り添ってくれた彼女のことを思い出す。感傷に浸り涙が溢れそうになった――のを、必死にこらえて、コーデリアはまた空に向かって腕を伸ばした。

「精霊よ。”口伝の賢者”に感謝と息災を伝えて。どうもありがとう」

 乾いた鳥の声が長く響いて、姿とともに消えた。


 さあ、大変なことになってしまった。


 急ぎ足で家に戻ると、扉の近くで待っていた子供たちがびくりと肩を揺らした。

「これりあ、おかえりなさーい」

「大丈夫ですか? あの、少し様子が……」

「大丈夫よ。……さっき話しかけていたことの続きを話しましょう。あなたたちは……これからどうしたい?」


 ユアは目を見張って、小さく息を飲んだ。

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