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Wizard Life  作者: いなかもん
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7話:半エルフとホブゴブリン

ウルグリムは唾を床に吐き捨て返事代わりにしていたけれど、ボクは慎重に"半(ハーフ)"を付け加えて訂正するとともに、彼のホブゴブリンに対し変わり者はそちらも同じようだと告げると、何か得心したような顔つきをして頷いていた。

最も、奇妙な組み合わせであることには変わりはないのだろうけども。


半をつけて訂正させるのはボクら半エルフの癖のようなものだ。

エルフ以外からすればエルフのように見え、エルフからすればエルフに見えない中途半端な存在は色々と面倒だ。

エルフが周囲にいなければそれほど問題にもならないが、彼らに聞こえる場所でそれが起こると大変だ。

いつまでもねちっこくぐちぐちと皮肉を言われることになってしまう。


エルフから言わせればボクらは出来損ないで、一緒にされることが我慢ならないらしいし。

もっとも、ハーフが面倒なのはボク達ハーフエルフだけにとどまらない。

ハーフオークも当然として、ヒューマンだって地域によって見た目は違ってくるし、血が混ざればどっちの地域がルーツなのかわからなくなるものだ。


さて、そもそもホブゴブリンは他種族に対してここまで"友好的"にふるまうことはまずない。

その上、唾棄すべき存在として扱っているドワーフと"エルフ"が混ざっていると認識している状況であれば余計にだ。

ドワーフ自身もホブゴブリンに対しては主に生息拠点が近いこともあり、古来から互いに敵視しあっている。

ちなみにハーフオークは頑丈で力も強い上、オークよりは理性的であるため"便利な生き物"であるという認識を彼らは持っていると書物で読んだことがある。


この状況はまさに極上のフルコースといってもよく、出会い頭に殺し合いが発生するくらいが丁度いいという状況だった。

そんな場面にもかかわらず、挨拶とばかりに話しかけた彼の態度はとてもとても奇妙に思えた。


グラルタナスという名のホブゴブリンは、ふむと顎に手を当て首をひねった。

そして、続けて語った内容に、ボクたちは驚愕することになる。

「バングロアは戦略を誤った。ヒトの領域を犯すにはまだ早すぎるのだ。誤りを犯した指揮官は滅びねばならない」


「なんじゃお前、身内を売るとでもいうのか」

ドワーフのウルグリムは、髭を震わせ激怒した。

もちろん、申し出があろうがなかろうがホブゴブリン退治をやめるつもりはないのだけれど、彼ら冒険者には仲間を裏切るという選択肢はないから故の怒りだろう。

ボクは不安げに二人を見たり、正面にいるグラルタナスを名乗るホブゴブリンを見たりしているが、巨漢のハーフオークの表情からも困惑が見て取れる。


「そういわれるのは仕方ないが、お前たちがバングロアを打倒できない事態が起こったとき、我々にとってより不利益が大きいのだ」

ウルグリムとゴルダがいる以上、討伐に失敗するとは思えないけれど、そうなった場合はどうなるのだろうと思案してみた。


ボクの故郷、カミーゾ村が所属する国家は封建制の帝国だ。

領地にはそれぞれ領主となる爵位持ちの貴族がいて、防衛の義務はそれぞれの貴族が負っている。

ただ出兵にはコストがかかるため動きは鈍く、よほどのことがない限りは動きの速い冒険者に村が金を出してトラブルを解決してもらうというのが慣例だ。


村に存在するなけなしの現金を放出して冒険者を雇い、トラブルが解決できなかった場合はもう、貴族に嘆願をして出兵させるしかないだろう。

そうなれば戦争でホブゴブリンの一族は間違いなく滅びるだろうし、行軍のことを考えると森を切り開くか焼くしかなくなるため、森の生態系も変わり村の生活に影響が出るかもしれない。

そのうえ出兵費用の補填のため税が上がり、村の生活は苦しくなるだろう。

そんなことをかいつまんでウルグリムとゴルダ達と話し合っていると、グラルタナスが口をはさんできた。


「そうだ、それが問題なのだ。森は焼かれ子供たちも殺される。失敗した結果で我らが死ぬのは受け入れられるが、部族の未来は残したいのだ」

結局、どれだけ相談してもこの提案を受け入れる方向になるだろう。

将来を考えれば子供であろうと掃討すべきなのは頭では理解できるけれど、心がそれを受け入れられるかは別問題だ。


さらに数が多すぎるという問題もある。

狩りきれるならともかく中途半端に残してしまえば余計に禍根を残すことになる。

そのうえ、生来のバトル・ジャンキー気質を持つ二人のファイターは、骨のある相手と戦うのは喜んでも、まともに戦えないものを殺して喜ぶような変態性は持っていなかった。

結局ボク達はしばらく相談したうえで、その提案を受け入れることにした。


「子がいる部屋に印をつけておこう。奴らには今後の計画を伝え、部屋から出ぬよう伝えておく・・・1時間ほど待て」

グラルタナスはボク達にそう告げると、通路のほうへ去っていった。

ウルグリムの歯ぎしりの音がずいぶんうるさくなっていたし、彼がさっさと撤収したのは正解だろう。

メイスのフルスイングが、うっかりグラルタナスの側頭部に向かわない保証なんて一切なかった。


「面倒なことになってしましましたが、これでやるべきことは絞れましたね」

騙されているのかもしれないし、交渉の余地はまだあったかもしれないけれど、このパーティーがそれをやるのは無理があった。

ファイターはその武威をもってお話することはできるが、同じく武威を誇るホブゴブリン相手ではある意味相性が良すぎる。

ボクはまあ、論外だろう。


さて、グラルタナスが去り際に「どうせ負けるのであれば、森や動物をむやみに傷つけぬお前たちに敗北したいのだ」と呟いていたのをボクは聞き逃していなかった。

その発言と装備品から、彼が自然を信仰とするドルイドであることが推測できたため、それを二人に告げた。


自然、つまり森や山や海などの権能を持つ神格はそれぞれ存在するが、彼らドルイドはそれら神を信仰するのではなく、雄大なる自然そのものを信仰としている。

そのため、彼らの呪文は魔術よりも神官達が扱う奇跡のほうに近い。

彼らが平野部で暮らすことはほとんどなく、例えば森を信仰としているドルイドなら、森に住んで木々や森で活動する動物たちと会話し、共に暮らす。

ドルイドのいる森できこりやハンターたちが活動するには、そんな彼らと交渉する必要がある。


ドルイドにとってはヒトも自然の一部であるため、自然が許容できる範囲内での活動は許可される。

しかし、その彼らの信頼をいったん裏切れば、ドルイドの呪文と彼らと生活を共にする動物たちの苛烈な脅威にさらされることになる。

正直言ってドルイドの生活はドルイド自身が語らない限りわかることが少ないため、彼らについてわかっているのはそのくらいだ。

今回は、ファイター二人が森でうるさくしていたことが功を奏したわけだが、彼らはそれを知らずにそうしていたわけではなく、ドルイドに絡まれたらやっかいだと知っていたようだ。



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