3話:パーティ・パーティ
さて、話を聞いていくとあのゴブリンたちは、最近になって突然この村を頻繁に襲撃するようになったらしい。
この近くの洞窟に拠点があるとのことだけど、村の防備も考えるとやはりボクが来たくらいでは討伐に向かうことなんてできやしない。
なんてことを想いふけりながらエールをちびちび飲んでいると、
「戦闘の痕跡があったのですがみなさん無事ですか!?」
という喧噪の中でもよく通る野太い声が聞こえてきた。
声の主のほうを見てみると、両手剣を持っているスキンヘッドのハーフオークと、盾にメイスを持っているポニーテールのドワーフが立っていた。
「おお、冒険者の方ですか!お待ちしておりましたよ、今のところなんとか村は守れています」
ウォードがそう言いながら駆け寄っていくのを見ると、彼らは街に依頼していた冒険者で間違いないようだ。
二人か・・・と、ボクは呟きながら少し変わった組み合わせのようにみえる二人をざっと検分する。
というのも、マッチョな二人がやってきたからだ。
ハーフオークは寿命が短いが成長も早い。
基本的にかなり若い頃に冒険者となるが、彼は精悍な顔つきをしていてベテランの風格を漂わせている。
重そうな両手剣に、これまた重そうな金属鎧も着ているしファイターだろう。
勇猛果敢で知られるハーフオークだ、高火力の前衛として頼りにしていいに違いない。
ドワーフのほうは、エルフほどではないが寿命は長く、彼らは幼少の頃からヒゲを生やし、体系も筋肉でガッチリとしているので年齢が読めない。
実のところ、生まれた時から髭を生やしているという話も聞いたことがある。
それを確かめたことはないのだけれども。
しかし、鎧に刻まれた傷跡、凹みを修復されたような跡を見るに、彼もベテランだろう。
ファイターを連れて来たことから、強情だが義理堅く、情に厚いドワーフがなることも多い神殿騎士か神官を期待したけれど、信仰を示す聖印が見当たらないことから、こちらもファイターかもしれない。
二人なのは、おそらく予算の関係でパーティー単位で雇えなかったのだと思う。
命を懸けた仕事になるわけだから、貧乏な集落が出せるはした金ではなかなか受けてもらえない。
彼らはパーティを持たないフリーの傭兵かなにかである可能性が高い。
それでも正直来てくれたこと自体が奇跡のようなもので、ボクとしても感謝の気持ちしかない。
「紹介する。ハーフオークのゴルダさんと、ドワ―フのウルグリムさんだ。んで、こいつはこの村出身のウィザードで・・・」
ウォードが近づいてきてボクに彼ら引き合わせボクを紹介するのを手で制しながら、ドーモと会釈した。
「おお、そうか・・・ウィザードか、そいつはいい!」
ハーフオークと、あげくドワーフまでもが同時に目を丸くして感嘆の声を上げ、ボクはそれに少し驚いた。
その声色からは皮肉を感じられないのも驚きに拍車をかける。
身内認定するまではただでさえ気難しいドワーフが、よりにもよってウィザードであるボクに対してそんなリアクションを取るとは思っていなかったからだ。
それを察知したのか、ドワーフはひげをなでながら照れくさそうにボクに打ち明けた。
「ああ、いや。いくら相手がゴブリンだからってファイター二人はねぇだろって、こいつと言い合いながらここまで来たんだ」
そういうことかとボクは納得した。
先にも言ったけれど、彼らはボクのような駆け出しのようにはとても見えない。
それでも冒険には常に危険が伴うもので、ファイター二人での敵拠点探索は危険すぎるということだ。
ハーフオークは、いかつい顔が台無しになるようなつぶらな瞳に期待を込めてボクを見つめてくる。
ウォードは心配げな顔で遠慮願いたい、と言いたげみたいだけど故郷を守るためならボクだってやぶさかではなかった。
ボクは答えの代わりに指をくるくると回して、エールがなみなみと注がれているジョッキを順番に三つ、ボクらの前まで引っ張り、ボクはそのうちの一つを彼らの眼前に掲げる。
ウォードは顔に手を当てため息をつき、ファイター達は互いに顔を見合わせ、それからニカッと笑ってボクに言った。
「よっしゃ即席パーティ!景気づけに一杯だな!」
宴会も終わり翌朝となった。
件の宿屋の一室でボクは日課となっている呪文の準備を終え、背負い袋(登山ザックを思い浮かべれば丁度いい)に寝具や保存食など冒険に必要な道具を詰め込んでいた。
ありがちな話だけど両親はすでにいない・・・そのため旧自宅は引き払い今は別の人が住んでいる。
ボクの親はこのあたりの土地を領地している騎士に徴発され、街道を荒らしているドラゴンの討伐に行って、死んだ。
まあ実際、こんな小さな村に戦える人材がいるのなら誰だって登用するものだ。
そんなわけで、親のおかげか魔法の才があったボクは、通常より早めに親の知り合いであったウィザードのところへ弟子として引き取られ今に至ることになる。
他に用意するものは・・・呪文書は当然として、師匠からもらった巻物3本を巻物入れに突っ込んで外套からぶら下がっている紐に引っ掛ける。
護身用の武器であるショートソードに、村の道具屋からもらったキュア・ポーション2本、そして宿屋の主にして村の顔役であるタリルからもらったライト・クロスボウを持つ。
クロスボウ・ボルトは筒に入れてこれも腰にぶら下げておくことにした。
ここまで準備をしたボクが何が言いたいかというと、荷物がとてもとても重いということだ。
「・・・少し持ちましょうか?」
丁寧にノックをして部屋に入ってきたハーフオークの男、ゴルダがこれまた丁寧な口調でボクに話しかけた。
もしかしたら彼が優しいのではなく、背負った背負い袋を持ち上げきれず、しゃがんだ状態でうめき声をあげている場面でご対面すれば誰だってそういうのかもしれないけど。
その予感を感じつつ彼を見上げたボクの瞳はきっと、昨日の彼のように期待に満ち溢れた瞳をしていたに違いない。
ウルグリムは地階にある食堂兼酒場で朝食とエールを飲んでご機嫌だった。
そのテーブルの対面に座るウォードは仏頂面だけど、頼んでいた地図をしっかり持ってきてくれてたようだ。
「おはよう・・・マジでやるのか?まあやってもらうつもりで冒険者雇ったんだけどお前は・・・」
ウォードの問いにボクは頷き、地図を受け取る。
森の地理は村の猟師が詳しく、ゴブリンの拠点となっている洞窟の位置もわかっていた。
というか調べておかないと危なくてまともに狩りなんてできたもんじゃない、とのことでもっともな理屈だ。
「大丈夫じゃ、契約料だけじゃポーション代で大赤字じゃが、ゴブリンの巣なら近隣からくすねたお宝も多少はあるじゃろ」
ポーションは山ほど持ってきたと豪快に笑いながらウルグリムが語る。
なるほど、ゴルダの背負い袋からもカチャカチャとポーション瓶の揺れる音が聞こえてきている。
「こうなったら任せるよ。で、地図によると森に入ってそのまま北へ6マイル・・・そこに奴らの洞窟があるらしい」
テーブルに広げた粗雑な地図には、村の位置と森の範囲・・・を表している小さな子供が書いた落書きのような名状しがたい何かに加え、おおよその距離を表す数字が書き込まれ、北側にある山の手前に洞窟を示す×印が付けられていた。
この村の近辺は、南西のほうにある巨大な火山の噴火の影響で台地構造となっており、台地を北東に抜けると平野部が続き、北や西はほとんどが山岳・森林地帯となっている。
直近の海までは南東へおおよそ90マイルってところで、ボクはまだ海を見たことがない。
「森を6マイルか・・・昼前後には着くかなあ」
ゴルダが顎に手を当ててうなりながらつぶやき、ボクとウルグリムはそれに同意し、それぞれ背負い袋を担ぎ上げる。
そしてボクは、ウルグリムの背負い袋から突き出ている、ロープがまかれた丸太のような物体に目を止めた。
「おう、これはな。扉の鍵を開けるのに使うんじゃ。ワシらのような武辺者の相棒よ」
なるほど・・・と頷いて、実のところよくわからなかったが深く追及することなく出発することにした。
冒険慣れしていないボクは、彼らのやることに口をはさんでも仕方ないからだ。
そんなボクの考えがわかったのか「必要な時が来たら見せてやるよ」と言い、豪快なドワーフらしい笑顔を見せてくれたのだった。




