第471部 鬼の城「処刑城」
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南近江、佐和山城表。
「五郎佐殿は仏だのぅ」
佐和山城に悠々と向かう近江衆の高宮左京介宗光。
高宮右京亮が討たれ、先行きに不安を感じていたが、招集に応じれば高宮一門は連座せずに所領を安堵されるという。
「大殿様、呼び出しに応じた北ノ高宮が参りました。彼の申し開きを聴き、面会されますか?」
万見重元が、逢坂石山表で本願寺方へ与力した高宮一門(南・北家)北家の左京介宗光の処遇を聴く。
高宮一門は南北の両家があり双方で街道を抑え多賀大社の門前町を支配し、勢力を蓄えながら常に自家の繁栄のために利益のある勢力に傾く一族だった。高宮右京亮が当主だった南高宮家は織田に付き上洛軍に従い、本願寺方に離反した前科がある。高宮北家も今後もどのように動くか分からぬ、侮れない勢力だ。
「いらぬ、五郎左の与力になった近江衆の忠誠心を試すには良い機会。彼らに高宮の接待をまかせよう」
「それでは、私が立ち会います」
大津伝十郎が、丹羽五郎左衛門長秀に信長の意思を伝えに行く。大津長昌は長秀の妹婿であり、長秀とは意思が通じていた。
長秀は主命を受けて、蒲生坂の隣の一ノ宮坂の門を利用するように、信長の馬廻衆に伝える。
城外に野営していた高宮軍が、佐和山城外郭の一ノ宮坂の門の馬場(広場)に呼び出される。ここは、竹中半兵衛が魔改造した岬状に突き出た中郭に挟まれた谷間だ。
富強を誇る高宮家は、先の戦で南の高宮右京亮率いる軍一千が討たれたとはいえ、北の高宮の兵士も一千兵が残る。もし不意打ちを受けても突破できると人数に安心して油断しきっていた。
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ドーン!と太鼓が打ち鳴らされた。
「囲め!!」
高宮軍が進んできた後方を、他の近江衆が一斉に槍:弓を構えて封鎖する。
堀秀村の与力:久徳左近兵衛(359部)、新介親子が前に進み出て、高宮一族に宣言する。
「積年にわたるお主の悪行、此処で償ってもらう」
久徳一門(多賀氏の分流)は、犬上郡内で高宮一門との領地紛争を抱えており、高宮に横領された土地を取り戻すために長年血を流してきた。過去には敗北して、和睦するために娘を人質に差し出し縁戚関係を結んだこともある。
「謀ったな、久徳~」
事態が容易ではないことを理解し、反撃の為に抜刀する高宮左京介宗光とその一門。
「近江衆よ、これでよいのか~。 我らと共に織田を討つ機会ぞ!」
宗近の誘いに応じる近江衆はいない。
「撃てぇ!」
大津伝十郎長昌の号令で城門櫓と、左右の城壁の狭間から、五百丁の銃口が突き出され一斉に火を噴いた。
((ズドドドドーン!!))
雷が落ちたかという轟音と共に、高宮軍の兵士が次々と倒れる。ここは竹中が用意した“殺人の間“であり、前後左右からの十字砲火によって、効率的に高宮軍一千兵を射殺する。
高宮兵たちは、もう戦うどころではなく、逃げ惑うかその場に頭を抱えて伏せる。
「それ、全員討ちとれぃ!!」
発砲が収まる頃合いを待っていた津田御菊丸(信澄*御坊丸は信長五男など複数いるので御菊とし区別しました)が、全員抹殺の指令を馬廻衆に出す。馬廻達は日頃の訓練通りに、高宮軍の生き残りに殺到した。
御菊丸も自ら加わって、馬に高宮の歩兵を蹴り飛ばさせ、気性の粗い戦場馬は兵に噛みつきもする。
本丸から高宮誅殺の様子を見ていた信長と長秀。それに居並ぶ重臣たちも、佐和山城の合理的な機能に感嘆し、重臣たちはそれを通り越して自身がその立場になった時を考えて身震いした。
奇妙丸達、傍衆が岩石運びに汗を流した空間が、今は大量殺戮の処刑場となっている。一千の兵が居ても何もできずに、あまりにも呆気なく瞬く間に人命が処理されていた。
(十字砲火、恐るべし)
「尻に冷や汗が伝わりますわい」
佐久間信盛が場を和ませようと一言入れるが、残虐な見世物に鳥肌が立ちぞっとする奉行衆たち。これから佐和山城は、織田家に逆らった豪族を、呼び出しては効率的に処理する裁判所兼“処刑城”の役割を果たしていくのかもしれない。
一度、佐和山城に呼び出されれば逃げ場のない恐怖の城といえる。
東山道を通る際には、嫌でも佐和山城を通過しなければならない。佐和山城の機能を充分に見せつけられ守備側の有利さも実感する。自分たちも出世して城持ち大将になったら、必ずこの“死の空間”を用意しようと思う。
「織田家に逆らったものはこうなる~! 肝に命じよ~!」
生き残りをざっと始末したところで、味方に向かっても雄叫びを上げる津田御菊丸。猛る心が爆発しているようだ。
中郭の楼閣から高宮軍の様子を見る信長は、鉄砲の効率の良い使い方が実証できたと考える。
合戦の場でも、このように敵を誘い込んで四方から鉄砲を浴びせかければ、敵兵が何万いようとも処理できそうである。
・敵を包囲できる地形
・呼び込むための誘い餌
・大量の鉄砲
その条件が揃えば無敵だ。
「それにしても、御菊丸は笑っていないか?」
信長が、御菊丸の仕事ぶりに魅入る。
「日頃から抑えてきたものがあるのでしょう」
五郎左が御菊丸の心情を思いやるが、流石にやり過ぎではないかとも思う。
「勝家の教育のたまものか」
「将来は父:信勝殿(謀反で誅殺された信長弟)を越えるような、“一段ノ逸物”になるかもしれませんね」
「若者の成長は楽しみである」
御菊丸の雄姿に幼き頃の弟の面影を重ねる。
父に叛意を抱いた斎藤義龍の例もある。叔父である自分や養父となった勝家、信勝を斬った川尻に、逆恨みを抱かねば良いがと心配もする。
身内の争いが再び起きぬよう、奇妙丸達にも良く言っておかねばならない。
この日、津田御菊丸と久徳親子の働きぶりの凄まじさと、処刑城と化した佐和山城は、織田軍の将士にも衝撃を与え「仏ノ五郎左に鬼ノ佐和山城」と織田軍五万の中でも語り草となった。
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佐和山城西門、松原表。
「出陣だ! 次は南近江の志村城と、小川城を攻略する」
大名・小名の尾張・美濃衆を中心に他国衆で編成された主力となる大軍は、三手に分けて丹羽長秀と柴田勝家、それに佐久間信盛が率いる。
丹羽は志村城を、柴田は小川城を、佐久間は信長本隊の前面(前備え)の軍を、本隊は信長率いる旗元軍(近衛常備軍)。後ろ備えに川尻秀隆が居て、信長本隊への後ろからの奇襲に備え行軍する。
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