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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十二話(大坂、野田・福島の合戦編)『奇妙丸道中記』第六部
394/404

394部:土地売買

URL:https://17453.mitemin.net/i519894/

挿絵(By みてみん)

同日、摂津野田城。


細川聡明丸が福島城から移動し、野田城の普請現場を視察監督に訪れていた。

「普請は進んでおるか?」

「はい湊の波止場の完成は間もなくでございまする」

「うむうむ、其方たちの働きに期待しておるぞ。四国へ向かう際の大事な拠点となるのだからな」

「ははっ」


聡明丸の計画としては、かつて勘合貿易で中国大陸の寧波湊まで進出していた細川交易船団を復活し、大陸貿易での利潤金を京兆家の資金源としたい。

かつて源氏の重要な資金源だった渡辺津は、淀川の運ぶ土砂で内陸地となり、湊としての機能の大半を失いつつある。

石山本願寺が信長の矢銭要求に応えるため野田・福島の新島の土地を分譲し、京兆家が金銭で購入したことで、新たな湊の開発展望が開けた。

福島城で陸地からの敵を防ぎ、野田城で海賊を防ぐ。二城双璧の構えだ。


「織田信長の本陣、京都に入りました!!」

野田城門に飛び込んだ早馬からの伝令を、傍衆が持ち込み聡明丸に伝える。

「奴の居る場所は解るのか?」

「本願寺の坊主殿の調べでは、本能寺に宿泊かと」

本願寺から門徒が仕入れた情報を、こちら側に横流ししてもらっている。本願寺は信長を嫌っているなと安心する聡明丸。

「本能寺か、敵は本能寺にありなのだな!!」

「はいっ!」

「ここから船団を率い淀川を遡って、戦をしかけて天誅を加えてやりたいな!

信長の傍若無人悪逆非道ぶりは許せるものではない。破天荒が許されて生きてよいのは名門細川京兆家に生まれた私の特権なのだからな!」

「ええ、そうですとも、義昭と信長は室町幕府を簒奪しているのです!」

京兆家の誇りを信じる聡明丸の傍衆達は、全てを肯定する。


「お呼びで御座いますか?」

聡明丸側近の篠原入道自遁が現れる。自遁は長房の弟だ。

「篠原、余は城普請を見ているのにも飽きた。

堺に茶道具を見に行きたい。すぐに茶会を催して天下の名物を見せよと宗及に連絡せよ」

「織田軍が迫っていると続報が来ていますが・・、堺に長居すると下手をすると城に戻れなくなりますよ」

「煩い!織田とはお主達が戦えばよいであろう。私には文化人と交流し、時流を読み、治世を円滑に導くという政治家としての大役があるのだ!!」

「はっ」

「鳳の志は、ツバメや雀には分からぬと言うしなっ。ま、燕雀のお主に罪はない」

(フン、えらそうに吠えること以外何もできぬ、ぼっちゃん育ちがっ! お主がどうなろうと、その代わりとなる血統は居る。我々には阿波守護の細川真之様もいるのだぞ)

篠原入道自遁は心の中で舌打ちする。

自遁は最近、真之の母である小少将御前と良い感じなのだ。

小少将御前は、絶世の美女として有名で、阿波守護:細川持賢の室で真之をもうけたのであったが、持賢に謀反した長慶の弟:三好実休と昵懇となり長治と在保を生んだ。そして今、篠原長房の弟:自遁と良い仲になっていた。


四国には阿波守護の細川真之が健在であり(異父弟の三好彦二郎長治の傀儡となっているが)、いざとなれば、その加護の下に平島荘にて過ごす14代将軍・足利義栄の家族がいる。


全軍を指揮する者が、戦いを配下に任せ、本丸を離れて遊びに出かける。それは破天荒を越えて・・・。

と普請現場の労働者たちも思う。

現在、三好家を牛耳っている日向守長逸や入道笑岩(康長)兄弟も、心の底では聡明丸の言葉を相手にしていない。

ある意味、信長に擁立された義昭と同じで、三好政権の神輿として担がれているのが聡明丸だ。


聡明丸は起死回生の時の旗頭候補として三好家で大事に育てられたため、義昭のように自分の立場に替わる競争相手は居ないものだと思い込んでいた。

阿波国の風土で自由に育てられた聡明丸は、自分は特別な存在であるから、我が儘を言い放ち、家臣達に何を注文しても、誰もが自分のために動いてくれるものと、心の底から信じていた。


それに現在の京兆・三好軍も一枚岩ではない。

京兆家の重臣:香西氏は、昔から細川水軍の中核を担っていたし、摂津芥川の三好家は畿内の政権運営に深く関わってきた、もともと三好三人衆よりも上位の家格であり、京兆細川家老臣を勤める名家だ。

今は自分達の共通の敵である足利将軍義昭と後見人の織田信長を屠った暁の新政権では、聡明丸の下で三好三人衆を抑え政治を司り、勘合貿易で莫大な利を得ることを宿願としていた。


***********

8月25日。


信長本軍は、石清水八幡宮の南西、河内国の枚方の寺院:招提寺寺内町(敬應寺)に着陣する。ここは本願寺の末寺だが、法主:顕如が信長に協力の姿勢を示す為、陣所として提供を許した。

「石山本願寺を退去させられるよりは良し」と妥協し、苦渋の決断をした結果だった。


信長は顕如の妥協姿勢を「まずは良し」とし、ここで、畠山高政が擁する紀伊・淡路・播磨の国衆の動きを観察した。

河内・紀州畠山家の潜在的な軍事力はいかようなものか、ここで実際のところを把握できる実例となる。

そして、花槍(一番槍)の武功に飢えた先駆け衆が、先制攻撃に入った古橋城の攻防を、自分の目で分析する。

国持衆が動員された戦場では、命令系統が徹底せず、合戦の戦端が開かれることはよくあることだ。

「ここでは遠いな。戦場を見渡すにはあそこが良いのだが。やはり、あの大坂の石山本願寺が邪魔よなあ。どうしたらあの地から追い出すことができるかの?」

平和的に顕如を追い出す方法を思案する。

提招寺を提供したのなら、あともう一押しすれば、石山も捨てさせることができるのではないだろうか。


「将軍が御座所にするので、顕如にその寺を出ろと伝えよ」

(え?!)

騒然となる陣幕。

「信玄入道とのお約束は、よろしいのですか?」

古くからの同盟者の知多太守:水野下野守信元が、思わず口走ってしまった。

信元としては、一族の者を武田家(松姫:新館御寮人)に出仕させたばかりだ。


「あの場所を本陣とするのが、この環境では最も効率的なのだ。戦場の一等地を本陣とせずに、坊主に特等席で織田と三好の戦いを観戦させるのか?!!

そのような贅沢を喜んで坊主にさせる総大将が、この世界の何処に居るというのだ?!!!」


怒りに任せて蹴り飛ばした床几が、陣幕にぶつかる。信長の言うことは確かに理に適っている。

のだが・・

水野信元が青ざめて平伏する。古くからの同盟者とはいえ、「大樹(将軍)の御父」となった信長に従わぬわけにはいかない。

傍衆の菅谷御長が急いで替わりの床几を配置し、長谷川竹が落ちた床几を拾いに走る。

「私が、話を付けて参りましょう」

陣中見舞いに来ていた今井宗久が、本願寺への使者となることを名乗り出た。


*********

大坂石山御坊、評定の間。


前面には、坊官の下間一門が居並ぶ。

「何をしに来た?」

法主:顕如に代わり、下間三位頼旦が厳しい声で問う。

「商売です!」

今井宗久は開き直る。

「信長の使いではないのか?」

下間頼盛が再確認する。

(信長の家臣が使者であったら、拷問にかけようと思ったのだが・・)


「法主様、今日はその件も含めて、商売人としてきました。ここの土地を金銭でお売りになるなら如何程の価格でしょうか?」


法主:顕如が口を開いた。

「そうだな、荒れ地をここまで開発した先祖の労を思えば、五万貫程であろうか」

門徒達は有り難く感じ拝み始める。

「五万貫!!」

「信長は堺の町衆に矢銭二万貫を所望したというではないか。信長からその二万貫を取り戻してやるというのだ」

下間正秀が代弁する。

「堺衆は二万揃えて支払いましたから織田の手に二万貫があったことはあったでしょうけれども・・もう使っているんじゃないでしょうか・・」

「それに、移転するにあたって建物を解体する費用で一万参千貫、運ぶ費用に二千貫は別に上乗せされねばな」

下間頼龍が付け加える。

「そんな、莫大な!」

「我らが移築するのに、どうして解体費まで我らが自前で考えねばならぬのだ? それに、お主等は生野銀山で儲けているのは分かっているぞ、宗久」

下間頼照が詰め寄る。


「分かりました。そのお見積りで、織田にかけあってみましょう」

「我らの御坊はそれほどの価値があるということ、信長にしっかりと伝えよ!」

「はい・・・」

宗久がうなだれて退出する。

真実のまま伝えようと思うが、これは破談するだろう。


*********


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