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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十二話(大坂、野田・福島の合戦編)『奇妙丸道中記』第六部
393/404

393分:陰陽師

8月23日、下京都。


信長本軍は、宿営地の本能寺に到着する。

本軍に後続して、売り出し中の若手の武将たちが自部隊を率い続々と都大路を通る。


「鶴の家紋、来た、きたっ! あれが野村姉川合戦で越前軍を混乱におとしいれた森勝蔵長可殿じゃ」

「まだ若いのに。鬼のような働きだったというの、親父どのの鬼の血かのう」

「親父様はあの鬼三左衛門殿なのだな」

馬上にて噂話を聞き流しながら進む勝蔵。

兄(森可隆)が、続けて義兄(坂井尚恒)が戦死し、しかも自分の単独行動が尚恒を巻き込んでしまったものとの思いが、勝蔵から笑顔を奪い、自分を責めてイライラしている様子が表情に垣間見られる。

(奇妙丸様、冬姫様、兄上、尚恒、俺は何をなすべきなのか・・)

観衆に指をさされ、イラっとして睨みつける長可。

「「お~、怖い」」

長可の殺気に、後づさる民衆。

(姉上(森お高姫)は、またも未亡人となってしまった。俺は家族の幸せを守りたかったのだ。

俺から家族を奪うこの世の中が許せない。皆が天皇・将軍様に従っていれば良いのに、力なくば誰も従わない。圧倒的な力が欲しい。信長様しか、この世を静謐に出来る方はいないのだ。織田軍の一員として天下を静謐に導かねば、俺が。この俺が・・、朝倉・浅井を滅ぼす)

勝蔵長可の中ではこの考えがずっと回っている。


「旗印のあの二羽の鶴の紋。次に来たのは信長様の娘婿の蒲生忠三郎殿だ」

「良い武者ぶりだのぅ」

蒲生忠三郎は「賦秀ますひで」の名を冠した兜の前立てを立てて、堂々の行進をしている。

「忠三郎様ぁ~」

町娘の黄色い声援に手を振ってこたえる賦秀。冬姫と言う正室がいるが、信長に見込まれた男として、若手の中では知名度・人気は一番だ。

(冬姫の為に、俺たちの世代が必ず天下を平穏にする。俺がすべてを薙ぎ払う、冬姫の為に)

忠三郎の頭の中は冬姫で一杯だ。今回の遠征は柴田軍と離れ、父・賢秀の陣代として日野軍を率いている。


「次は揚羽蝶の紋と、信長様の乳母子の池田紀伊守と息子の勝九郎之助殿」

「之助殿も嫡男の奇妙丸様とは兄弟以上の間柄らしいぞ」

「二代続けてか、織田弾正忠家の重鎮だな」

「摂津の池田様とも遠い縁戚らしいな。信長様に似ている様な、なかなかの男前だな」

「ほう」

早くも町娘の黄色い声援を受ける。

「三好兄弟は範長、之相という名だった、天下の覇者となった兄弟。信長公もその縁起にあやかられて、乳兄弟の息子に「之」の字を与えたのではないか?」

「成程、そうかもなあ」

まことしやかに、噂は独り歩きする。


「次は車輪の紋と、生駒家一門の生駒三吉一正殿だな」

「おー、あの生駒家かい」

「そうそう」

手広く商売をしている生駒家は、畿内では有名な武家商人だ。

「“一”という名といえば、織田家の武辺者:瀧川一益殿を思い浮かべまするのぅ」

「武功にあやかられたいという由緒か」

「池田に生駒と、摂津・河内に縁のある方が多いね」

「俺も故郷に錦を飾りたいなあ」


京都の都人に好き勝手なことを言われながら、若手の面々はこれからの摂津表の戦いを前に武者震いするのだった。


************

「「いざ、本能寺!」」


信長の寄宿地には、京都の大勢の者が面会を求めて押し寄せた。


元赤幌衆、信長馬廻壱番隊長にして岐阜都督の福富秀勝が、本能寺の内外の警備を担当し指図する。

同行した筆頭家老の林佐渡守、兄の織田信広、新御所の作事に関わっている村井貞勝、島田秀満の両奉行。坊主の朝山日乗、京都町衆の長谷川宗仁、清洲町衆の松井友閑、美濃の武井夕庵が相次いで来客を取り次いで信長に面会させる。

面会人が居並ぶ本能寺前は、その見物人たちも含めて大人数をなし、門前通りには出店が出る程に活況を呈していた。


信長は面会人達から、越前・若狭・丹後の情勢を確認。大和・山城・丹波・和泉の情勢を確認し、有益な情報を得ていた。

ただ一つ、心に引っかかること。

「中立で良いのだが、大坂の本願寺が邪魔よなあ」

とにかくいる場所が邪魔だ。今回の戦いでは戦場の一等地に石山本願寺がある。

西の玄関口となる要衝にあるからこそ、今の教団の繁栄があるのかもしれないが・・。


奇妙丸から信玄入道の言葉を聞いたが、

人から危険だと諭されるほど教団を率いる本願寺顕如の存在が気になって仕方がなくなる。意識しすぎて危険かどうか試してみたくなる性質だ。


「殿様、吉田兼和(のちの兼見)殿です」

将軍側近の吉田兼右の息子で、吉田神社の神職だ。信長は使者を派遣して、陰陽師として売り出し中の息子の方を呼び出していた。

「来たか兼和、お主を王城みやこ随一の陰陽師と見込んで話す・・」

信長が“陰陽師:吉田兼和”を見据え、本当に霊力があるのか値踏みする様に上から下まで見る。

「“楚葉矢の剣”について知っていることを聞きたい」

「近江の霊剣のことですか、あれは、朝廷内部の故事によれば、持ち出されれば世に災いをもたらすと我が家にて伝わっておりますが」

「そうか。私の知るところもそのようなところだ。お主は霊力があるのか、あれの霊威を抑えることができるか?」

「いきなりそのようなことを言われましても、実物を見て霊威に触れてみないと、なんとも」

「それはそうだな。ところで、この世に怨霊や、仏は、本当にいるのか?」

「私は、神は居ると思っています。そうでなければ、誰がこのような天地を造れましょうか」

「そうか。では、神仏を崇める坊主どもは神聖な神ともいえる人間か?」

「一般人に比べれば信心深い良心的な人間ではありますが、神ではありません」

「ならば、良心的ではない坊主を殺し、寺を焼いても、神は許されるか?」

「え!???? 確かにその坊主といえども我々と変わらぬ一個の人間であるので、それに寺も神社も人間が自然の材を加工して祈りの場として設けたものですし・・。人間が造ったものを人間が取り壊し破壊しようと“ばち”は当たらぬと言えなくもないですが・・。寺や神社を壊すとでも???」


「はっはっは。戯言だ」

平伏していた姿勢から信長を見上げる兼和。

織田家の先祖は、越前剣神社の神官家だったというが、信長公は何を信じ、何に怖れを抱くのだろうか。

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