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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
384/404

384部:甲斐

応援ありがとうございます。感謝。

近江国、6月29日。



「清水谷は目と鼻の先、奴らは昼も夜もなく攻め取りに来るだろう。油断せぬように」

信長が呼び出した面々をひとりひとり見渡す。

「墨俣での経験を活かせます。このような前線こそ私達のような野党あがりの真骨頂。それに、横山城主を拝命した面目もあります。ご天下の面目を失わぬよう努めます!」

秀吉は地面に額を擦り付けて、城主拝命をありがたがる。

「お主達に期待している!」


「「はい! お任せを!」」

平服する木下党の面々、彼らは美濃攻略の時は斎藤家、次は浅井家と死力の戦いを演じることになる。

(お殿様は、我らを捨て駒として見ているのではなく、最も信頼しているから我らに横山を託されたのだ!)

死地に立たされても、実績を買われたと前向きに、身分を超えるには窮地を越えてこそ出世の道が開けるのだと上向きに考える木下藤吉郎秀吉。

信長は、野党出身者たちの気持ちを理解しているからこそ、誰にも文句を言わせない実績を打ち出させ、天下の面目をほどこしたものに褒賞として地位を与える愛の鞭をふるう。あえて横山城に木下秀吉を在番として置き、すぐに磯野員昌が引き揚げた佐和山城に兵を進めた。


岐阜と京都間の街道の往来を確保すること、それが尾張を中心とする経済圏の利益を守ることが出来る。小谷城の攻略よりも経済の維持が優先事項だ。


佐和山を見据える小高い山に到着し、すぐさま、従軍の諸将に佐和山城の攻囲を命じる。


佐和山攻囲軍は、土豪:百々(佐々木)安信の居館を改築して、百々城として機能を一新。佐和山に対する拠点とし、丹羽五郎左衛門尉長秀をこの一帯を指揮する旗頭兼任の城主とした。


対浅井の司令官:長秀の与力として、佐和山の北山に市橋長利を旗頭とする美濃衆、南山に水野信元を旗頭とする知多衆、西方の彦根山(のちの彦根城)には川尻秀隆を配し、四方から城を取り囲む鹿垣柵を増設し、佐和山城の交通を遮断したのだった。


横山城にもしものことがあれば、長秀が主力を率いて後詰に出動する体制だ。蜂谷頼隆と木下秀吉は、旗頭:長秀の与力身分であることに変わりはない。


信長は諸将の相互の防衛体制を整備構築し命じていく、また、在陣しながらも戦後の政治的処理に集中し、祐筆に分担させて各地域の知り合いに野村姉川合戦の顛末を報告する。これは奇妙丸のいる同盟国甲斐・武田家にも送付された。


今回の戦では若狭武田家の庶流:武田彦五郎信方も戦死している。若狭武田家は蝦夷地に進出する程の日本海海賊衆として有名だ。北方交易に巨利をあげ、将軍に取り入って若狭国を一色家から奪取した雄族でもある。

山国の甲斐武田とは疎遠だが、同じ名を冠する一門としての付き合いは昔からある。安芸守護の武田家は既に没落し、若狭守護武田家も当主幼年により朝倉家に属する没落ぶりだったので、将軍家側では甲斐武田が現在の嫡流扱いとなっている。


現在、将軍側近:細川藤孝に送った信長の書簡が残る。その内容は、


「今日、巳時、越前衆ならびに浅井備前守、横山後詰めのため、野村と申す所まで執り出し、両所人数を備え候。越前衆一万五千ばかり。浅井衆五千もこれあるべく候。同刻、この方より切り懸け、両口一統に合戦を遂げ、大利を得候。首の事、さらに校量を知らず候間、注すにおよばず候。野も田畠も死骸ばかりに候。誠に天下のため大慶これに過ぎず候」

と、客観的な事実を述べている。


甲斐に居る奇妙丸の元にも、姉川合戦勝利の報告が届く。この吉報は、それぞれの身内衆からも身内宛に続々と連絡が入った。

織田方有利の戦勝報告ばかりだったが、のちほど奇妙丸は、甲賀伴ノ衆から織田方の武将の訃報も聞くことになる。


**********

甲州武田家。織田御料人新館。


奇妙丸改め「勘九郎信重」と名乗り、武田松姫との仮祝言が済んでいた。

信玄の弟:武田入道逍遥軒:信廉の主催にて、儀式は滞りなく済み、新館では盛大な宴が執り行われていた。

その宴の中も、織田対朝倉の野村姉川合戦の話題でもちきりだった。


「朗報ですな、流石、織田殿」

武田家の重臣たちの関心は畿内での天下分け目の大戦おおいくさについてだ。

「野村・姉川にて大合戦におよび浅井・朝倉の連合軍を打ち破り、横山城を陥落したそうだ」

情報通を自認する河窪信実が説明する。

「横山城目指して突撃した浅井長政に対して最初劣勢だったが、美濃三人衆の活躍で形勢が大逆転したそうです」

織田方の森一郎も知っていることを補足する。

「浅井軍の中では、先陣を務めた磯野が、信長殿の本陣まで迫ったそうです」

「磯野軍は噂通り強い」

武田家の中でも、浅井の猛将:磯野丹波守員昌は有名だ。

「遠藤直経という浅井方の武将が信長殿の本陣に忍び込んで、直接信長殿を狙ったそうです」

河窪信実は、織田本陣の様子までも知っている。

「なんと大胆な、浅井に遠藤ありと言われただけはあったな。天運が信長殿を守ったので御座ろう」

大将を直接狙う戦法に、川中島合戦の記憶が蘇る武田家重臣一同。


「信長殿の運の良さが際立ったということか、戦の神に愛されておるな」

譜代の老将:小幡が、信長の幸運をもてはやした。


「織田家が強いわけだ」

諏訪四郎勝頼がつぶやく。


(流石、父上だな)

戦況を思い浮かべて、改めて父を偉大だと思うが、長政のことを考えると喜ぶこともできない。複雑な胸中だ。


「神の加護か、武田家と縁を結んだ織田家には、きっと諏訪大明神のご加護も加わったのではないかな」

勝頼の横にいた跡部勝資が感想を述べる。

「うむ、きっとそうだ、諏訪の神の霊威よ!」

織田家が勝ったのは武田との同盟のお陰と無理やりでもこじつけたい一同が頷く。

勝頼を取り巻き、盛り上がる信濃衆に対して、甲斐の譜代衆が冷めた返事をする。

「諏訪大明神の加護など(笑。 武田が強いのは、御屋形様の采配と、甲州武者が優れているからだ。神頼みではないぞ」

と信玄を崇拝する若手の土屋惣藏昌続が酔い任せに反論した。

「なんだと、信濃衆は必要ないとでも言うのか」

これまた信濃衆の若手の小宮山丹後守昌友が噛みつく。

「おいおい、誰もそんなことは思っておらぬぞ」

一門衆の重鎮:一条右衛門大夫信龍が割って入る。

「先程の暴言、謝れ!」

双方の対立をみて、戸惑う織田家の一同。

(酔いも回って雲行きが怪しくなってきたな・・・)

ここで、松姫の護衛役:黒幌武者の川尻が手を叩いて自分に注目を集める。

「えー、皆さん。奇妙丸様の傍衆:白武者を率いる楽呂左衛門様のギターラの演奏を、ここで披露して下さるそうですぞ。静謐に、静謐に」

せっかくの酒席、場の雰囲気を変えようと、川尻が楽呂左衛門の余興を引っ張ってきた。


「「おおお、それは興味深い」」

武田の重臣たちが拍手する。

「「是非、聴かせてくだされ」」

「山科家の於結殿も演奏されますー」

白武者の副官・森一郎左衛門が、上機嫌に酔った勢いで於結姫の演奏も即す。

一条信龍は、小宮山と土屋を部屋の外へと促して立った。


「御一行様には、女性が紛れておりましたか、流石、先端を行く織田家じゃ」

台所奉行の河村が驚き、変な感心の声があがる。しかし、裏を返せば、武田衆には京都から遠いことで、織田家よりも情報が遅れているという自己認識と、嫉妬が心の内にあるという露呈の言葉でもあった。

「甲斐の山猿」

甲州武者に対して、この言葉は禁句だ。


演奏が始まり、ギターラに聴き入る一同。

奇妙丸と松姫のそばに、兄となった仁科五郎盛信がやってきた。

「勘九郎信重殿、仮祝言、おめでとうございます。これで我らは一門衆ですね!」

仁科盛信は心から嬉しそうにしている。

「有難うございます。信重の名を大事にしたいと改めて思いました」

「武田家にとって信繁のぶしげの名は、英雄の名ですから」

「あやかりたいものです」

「御屋形様は勘九郎殿を非常に気に入ったご様子です。武田家としては他の大名家にはあまり領内をみせたくないというのが心情だが、勘九郎ご一行は別です。これは御屋形様が両家の友好を考えて特別に取り計らってくれたことです」

「身に余る御厚遇に心から感謝です」


礼を述べたところで、信廉が勘九郎(奇妙丸)の杯に酒を注ぎに来た。

(信廉殿のようだが、信玄入道と入れ替わっているかもしれぬ。今はどちらだろう・・・)

まじまじとみて、違いを探す勘九郎。

「わが弟、信繁は色々なことを我慢し、武田家のために自ら犠牲となって散ることを本望とした。まだ若く、いろいろとヤリタイこともあっただろう。こうして音楽を聴く自分は、信繁のおかげで生かされている。信繁が我らに生きろと託した思いを、かみしめて生きておる。勘九郎殿も多くの人の思いを託されて生きることになる。しっかりと受け止めて、人生と向き合うのだぞ」


武田典厩信繁の部隊が、上杉軍に突撃した理由を思い浮かべ、それに従い共に散った兵士たちの心情を思い、胸が締め付けられて、自然に目頭が熱くなった。

「はい。お言葉、心に刻みます」


「うむ。それに織田家の戦勝おめでとうござる。半兵衛殿の采配が見事だったとの噂も聞く」

「半兵衛が、父上の陣に居たそうですね。ならば、緻密で手堅い作戦だったに違いありませんね」

「三万近い兵を手足のように動かす。なかなかできることではない。噂に違わぬ名軍師のようだな。それから、横山城の新城主となった、木下藤吉郎秀吉とは、いかような人物ですかな?」

「野党の業界にも通じ、あらゆることで目端の利く、優秀な人物です。その働きぶりにて父上から重用され、身分差を乗り越えて、重臣となりました」

「これまた、規格外の人物のようだ」

「伊勢早雲、斎藤道三、松永久秀に続くような立身出世を目指すと申しております」

「この時代の申し子のようだな。面白い人物が信長殿の下には居る」

「最近は明智十兵衛光秀殿も、父に気に入られていますが・・」

「明智か、噂を聞いている」

耳の速さに驚く奇妙丸。

「それは・・、なんと?」

「正体の掴めぬ男だとな」

信玄入道の両眼のひとり、武藤喜兵衛から寄せられた情報なのだろうか。喜兵衛は、奇妙丸のことをなんと報告しているのだろう・・。

「内々の話がある、岐阜に戻ったら、信長殿に直接伝えてほしいのだが・・」

「なんでしょう?」

「逢坂の石山本願寺を知っておるかな?」

「はい、見たことがありませんがお噂は、伊勢の長嶋御坊は壮麗で、それは見事なものです」

「その本願寺の力を、信長殿は甘くみておるようでな。武田家から忠告しておく、石山の地から立ち退く要求は取り下げるべきじゃ」

「そのような要求を?!」

「やはり奇妙丸殿は知らなんだか。 ・・、矢銭(軍資金)の要求は判らぬでもないが、御坊の立ち退きはいかん。教団の象徴である顕如上人はこの扶桑ノ国に絶大な力を持っている、対処を間違えれば後々禍根を残すとな」

「はい。父上の考えが判りませんが、事情を伺ってみます」

「うむ。入道が心配していると伝えてくれ、宜しく頼むぞ(笑」



とりあえず投稿。あとで、書き足すかもしれません。

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