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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
381/404

381部:戦死

******

姉川を渡河し終えた朝倉軍の先鋒大将・朝倉景紀は、家康与力の酒井忠次軍と遭遇し、戦火を交えていた。敦賀朝倉軍の面目にかけて、織田の端軍になど敗北するわけにはいかない。


忠次率いるのは、松平一族で占められた軍団だ。将軍を擁する信長の意向により、東海道は旗頭:家康の一強体制となり、没落の危機に瀕している松平党は、自分達の存在を誇示するため信長の戦場で奮戦し、予想外に防衛線を支えている。


続いて第二陣、大将・前波新八郎軍も渡河を終えて、小笠原長忠軍と対峙する。畿内初登場となる駿河勢:高天神小笠原軍の士気は高い。朝倉軍はここでも予想外の苦戦を強いられることとなる。


大将・朝倉景健は、三田村城からの出発が遅れ、まだ姉川の中洲に居り先鋒から本軍にかけての朝倉家の陣形は間延び気味だ。

しかしながら、朝倉軍・浅井軍はほぼ姉川の渡河を終えており、河原一帯が(竜ケ鼻の西方河原から、姉川の合流地点までの間)野村から姉川にかけての全てが、かつてないほど広大な戦場となっていた。


そこかしこで各軍各部隊の戦いが行われる中、池田勝九郎之助、生駒三吉一正、坂井久蔵尚恒の率いる三隊は、単騎にて戦場を爆走する森勝蔵長可を追って、朝倉軍の主力:前波新八郎軍の方へと向かっていた。


敵味方の集団戦の中を、単騎駆け抜けていく武者に家康が気付いた。

「誰かある、あの小笠原と酒井の間のど真ん中で、陣形を無視する阿呆を止めに行け! 集団戦の邪魔だ」

「私が!!」

家康旗本の双将のうち、榊原康政が馬廻を率いて目標に向かう。


朝倉前波軍、本陣。

大将:前波新八郎の傍衆の数人が、側面方向からこちら目掛けて向かってくる、十文字槍を振り回す武者に気付いた。

「織田軍にも命知らずがいるようだ。名を聞いてこい!」

傍衆が勝蔵に向かって走る。

「花槍の武将とみたー、名乗りを上げよー!」

大音声に織田武者に声掛けする。

「森勝蔵長可―! 兄の仇、千田采女に決闘を申し込む!!!!」


このやり取りの間に、やっと勝蔵に追いついた久蔵。

「その兄!坂井久蔵尚恒!!」

両武者の名を聞いて、ザワザワとざわつく前波本陣。

「森に坂井だと!? 織田の名門子弟ではないか、これは放ってはおけん。誰か手合わせをしてやれ!捉えて義景様に引き渡し、手柄とせよ!」

前波新八郎が興奮して命じる。

「「うおーーーー!」」

恩賞間違いない餌の登場に、盛り上がる越前一乗谷衆。


「殺す! 殺す! 殺す!」

勝蔵長可は、馬鹿にされ侮られているとみて、怒りで更に顔が紅潮する。

「俺は真柄直隆の弟、真柄十郎左衛門直澄! 受けてたとう!」

「真柄と言えば、朝倉家の勇士!」

久蔵が乗り出す。

「俺が行く!」

「まて、俺の相手だ!」

勝蔵が張り合って前に進み出る。


「二人同時に架かって参れ!」

勇士:十郎左衛門は若武者相手では臆することも無い。抜刀した大太刀をブンブンと音を立てて振り回し、二人に向かってずんずんと突き進む。

「うおおおおおおおー」

「うりゃーーーー」

十文字槍の勝蔵、鎌槍の久蔵、槍並みの長さを誇る大太刀を振り回す直澄。

三者が三つ巴となって火花を散らす。

華ある武者の対決に、戦場の誰もが一瞬見惚れ・・。


「森に坂井か・・」

火縄に点火し、狙いを定める武者一人。

直澄に槍を掴まれ、馬から落ちる勝蔵。

「危ない!」

直澄と勝蔵の間に割って入った久蔵。

(スドーーーーーーーーン!)

銃声が木霊し、久蔵が仰向けに落馬する。


「「うわああああああ」」

「尚恒ぇー!」

成り行きを見ていた池田隊、生駒隊が、窮地の二人を救おうと朝倉軍に突撃する。


一瞬気を取られた直澄を、勝蔵が居合抜きで斬りつけた。直澄が声も無く落馬する。

「どうして?!」

久蔵に駆け寄り、抱き起す勝蔵。

「馬鹿、野郎、俺はお前の義兄だぞ」

「俺が死ねばよかったのに」

「弟思いのあいつは、そうは思わない、だろうな」

二人に、森可隆の笑顔が脳裏をよぎる。

「お前ら兄弟は、本当に似ている。無鉄砲だな。ゴフッ」

「もう、しゃべるな、連れて帰るから、大丈夫だろ」

「フッ。そうだな。 まだまだ俺は戦え・・」

ゴフッ、

血を吐き、久蔵が静かに息を引き取った。


鎧を掴む手が震える。そっと地面に久蔵を置く。

「うぉぉぉおーーーーーーーーー!! これがお前らのやり方かぁー!!! 誰だ、今度は誰が殺ったぁー?!」

勝蔵が馬に飛び乗り、突進した。

「貴様かあーーー! 卑怯者、名を名乗れぃ!!」

銃を抱えて逃げる武者。

「教えてやろう 俺は、江北の侍大将、千田采女正!」

「千田采女正だとおぉ?!」

「金ケ崎の弟か?」

「見つけたぞ!仇ぃーーーー!!」

鬼の形相となって、千田を追う勝蔵。まさに鬼神が取り付いた様な働きで、本人もそれから先のことは、後になっても覚えていない。


********

坂井隊が、主:久蔵の遺体を死守して戦っている。

「くそっ、ガキ」

意識を取り戻した十郎左衛門直澄が、手探りで大太刀を探す。

「真柄!」

「誰だ!?」

「俺は、小笠原軍の侍大将:大須賀胤高。その首、貰い受ける」

胤高は、恐るべき素早さで直澄の兜首を挙げていた。

「大須賀殿―」

「おう、康政か。真柄は既に致命傷だった。俺の手柄ではない。我らの戦場にて、陣形を搔き乱し後先を考えぬ蛮勇。戦友の遺体を遺して、先に走っていった奴は、康政、お主の知り合いか?」

「違う!家康さまの命で、奴を止めに、加勢に来たのみ」

「家康の命か」

康政の視線を追い、朝倉軍の中で暴れまわる勝蔵を見つける。

「アッハッハッハッ! あの単騎で突っ込んでいく馬鹿武者の働きよ、面白い、久々に面白いぞ」

「戦局などは関係ない。まるで見えていない。というか見ていない」

康政があきれる。

「だが、あの狂武者が、戦場を単騎で混乱させる。戦局を変える男だが、長生きはしないだろうな」

胤高の言葉に同意する康政。

「俺はこの真柄の首と、若武者の遺体を本陣に届ける」

「では!これにて!」

榊原康政隊は、勝蔵を追って更に朝倉軍めがけて進んだ。



https://17453.mitemin.net/i471453/

 挿絵(By みてみん)

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