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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
380/404

380部:踏ん張り時

「あの竜の鼻先に信長が居る!  あそこを落とせば我らの勝利だ!」

浅井軍六千の大将:浅井長政も、姉川を渡河し眼前に迫った竜ケ鼻の砦を睨む。

「「おおおおおおおお!」」

馬廻衆の雄叫びが天地を震わせる。

先鋒を務めた磯野軍の奮闘により、浅井軍の士気はこれ以上ないほどに高い。


今なら山頂の尾根伝いに竜ケ鼻に攻撃を仕掛けられる。敗れた場合は横山城が落ちることになるが、敗北は考えていない。

この勢いで、信長を美濃まで追撃することもできよう!

「横山城からも、戦機をみて挟み撃ちにせよと、誰か横山城の三田村に伝令を!」

本陣馬廻衆に声を掛ける。

「私が行きましょう!」

古参の一人、弓削六郎左衛門が、前線まで長政の伝令を届ける役目をかい、愛馬に鞭を入れた。

「弓削だけでは心配です、私も行きます!」

続けて、弓削の同僚:今村掃部助も、既に飛び出していった弓削の後を追った。

(二人とも、頼んだぞ!!)

敵中突破に決死の覚悟を決めた二人。浅井軍の願いを託し、二人の勇者の背中を見送る。


*******

織田軍本陣。

「そろそろ頃合いのようだが、どうしたことだ、坂井は押されているな? 退却の合図を出せば、そのまま崩れそうな心配もある(まあ・・、政尚ならなんとかするだろうとは思うが・・)

信長は坂井右近尉政尚の武辺を信頼している。それに他の者が支えてくれるだろう、と信長にしては珍しく楽観した。浅井・朝倉連合軍に倍する大軍を擁している余裕もあったのだろう。


浅井軍六千、朝倉軍約1万、こちらは遠江・三河・尾張・美濃・南近江から動員した二万五千以上の大軍勢だ。負けるわけがない!


「撤退の太鼓を鳴らせ」

傍衆達が太鼓隊に合図する。ズシンと重く戦場に響き渡る殿軍太鼓の音。

「殿様の合図じゃー!」

坂井軍が、竜ケ鼻の方向に後退するが、先鋒の磯野・遠藤両将の追撃は凄まじい。

本陣前で、先頭の行方を見張っていた佐久間軍が、傷ついた坂井軍の収容を試みる。

続いて池田軍が野村城方面にじりじりと後退し、浅井先鋒軍に横山城への道を開ける。

その方向に備えていたのは丹羽・柴田軍だ。両軍は城を背にして、前後で攻撃を凌ぐことになる。


奮闘続ける磯野、勢いのある浅井玄蕃軍と戦っていた丹羽軍・柴田軍に対して。次に長政軍の猛攻は止まず、第三陣の阿閉軍、第四陣の新庄軍、第五陣の長政軍の波状突撃を仕掛ける。

丹羽・柴田軍は粘り強く攻撃を受け止め続けた。


********

横山城大手門。


銃声と喚声、鍔ぜり合う金属音で起きる耳鳴り。黒煙が立ち込め、遮られる視界。硝煙の匂い、口の中に広がる赤サビのような血の味と、かすり傷よりも酷い傷ながら、痛みを通り越してマヒした感覚。


銃弾が鎧兜に弾けて火花が飛び散る戦場の中を、騎馬で我武者羅に駆け抜けて、浅井家の勇士:弓削と今村が城門前に到着した。


「辿り着いた! 横山の衆よぉ―!!儂は弓削六郎じゃ、

 城から討って出よ! 信長を挟み撃ちにするぞー!」

「今村だ!!俺もいるぞ、疑うではない! 本当だぁー」

今村掃部が大手門に向かって手を振る。


「あ奴らは、長政様の側近の!」

城兵たちが、二人の伝令が織田方ではないことを確認する。


城門の将:野村直隆が「間違いない。これは信長の計略ではない。よし、討って出よ!」と配下一千の鉄砲衆に命じた。

「「おおー!!!」」

堅く閉じられていた大手門が開かれ、堰を切ったように城外に野村軍が飛び出してきた。五月雨に火縄銃を撃ちながら、柴田軍を追い立てる。

麓からよせる長政軍に応戦する柴田軍の背後に向かって突撃する。柴田軍は横山の傾斜地で前後に敵を迎え撃つ苦しい戦いだ。

尾根道を進む野村軍が勢いに乗って、柴田軍を東西に分断する。

「信長本陣は竜ケ鼻だ、急げ!!お味方も全員向かっている。信長の首を取るのだ!」

出撃してきた野村軍に合流し、更に士気を煽ったの者は、磯野と共に先鋒を務めた遠藤喜右衛門直経だ。

遠藤軍は乱戦の中でもはや陣形はバラバラの状態だが、直経の横には郎党:富田才八がぴたりと寄り添い、一際目立つ直経を護衛する。

「「おおお直経殿、ひさしいぞ! よし、信長を打ち取れぇ!」」

遠藤の檄を受けて、野村軍が下り坂を駆け出してゆく。


柴田軍との混戦の中で、満身創痍の直経を見つけて、姉川河原からの戦況の説明を聞いた直隆。

「直経殿はこれから何処へ?」

多数の傷を負った直経の身を案じる。先鋒と対峙した坂井軍もただやられていた訳ではなかった。


「三田村殿にも城を捨て、織田軍と戦うように伝えに行く。これ以上の籠城はない。全力で織田を破る」

「分りました。では私は信長本陣を目指します!」

「うむ、頼む」

直隆を見送った喜右衛門直経は、富田才八に支えられて、横山城の本丸に向かった。


********

本陣前の佐久間隊が、野村直隆の国友鉄砲隊と激しい銃撃戦を展開し始めた。

両軍入り乱れての銃声と怒号が、谷間に木霊する。


「半兵衛殿からの合図はまだか!?」

本陣の様子を気にかけつつ、陣形を突破してきた磯野軍と戦う長秀、勝家の両大将。


丹羽軍は搦手側、柴田軍が大手門前まで徐々に引き下がっている。予想していたことだが、城方からも攻勢があり、両軍ともに前後からの挟み撃ちにあい、危険な状況だ。


********

竜ケ鼻本陣。


横山城に向かい厳しい表情をしていた半兵衛が、「喝!」と叫ぶ。

「今だ、横山城を攻め取れ!!! 搦手の木下殿、我攻めを!」

「「ははっ!」」竹中党が一斉に威勢の良い返事をし、本陣から法螺貝が激しく吹かれた。


搦手門前まで退却していた丹羽・蜂屋・木下軍。

「半兵衛殿の合図じゃ、全面は丹羽殿に任せて、我らは城に掛かれぇー!」

秀吉与力の蜂須賀軍、前野軍がここぞとばかりに山の裾野に放火しながら、炎上する木々とともに城に攻め寄せる。

搦手門周辺の柵を破り、手薄となった城内にそこかしこから乱入する秀吉軍。


「負傷者にかまうな! 本丸を目指せ!! 放火は ほどほどになぁ~!」

蜂須賀党に声掛けする親分:蜂須賀小六。

「太手の柴田に負けるな! 我々が先に本丸にたどり着くんじゃ」

前野党に檄をとばす前野将右衛門。

「もの共、行けぇ―!」

秀吉配下の健脚の若者達が、傾斜の厳しい搦手側の難所を、ものともせずに駆けあがっていった。


***********

横山城の抑え美濃衆。

「半兵衛からの合図です!」

西美濃三人衆の稲葉入道一鉄良通が、鍛え上げられた稲葉家の馬廻衆を見渡す。

「もののふ達よ、よく聞け! 殿から三河衆を助け、朝倉軍の横腹に突っ込めと命がきた。稲葉家の底力、みせつけてくれようぞ!」

「「おおー!!」」

芸術家肌でもある一鉄入道は、戦場でも気品のある行動を良しとする。いかに振る舞い、いかに結果を残すか、それが重要だ。

戦場に汚名を残さず稲葉家の爪痕を残す。その拘りの部分が、信長とあい通じる性格の一部分だ。


同じく西美濃三人衆、横山城大手の東麓を守備する氏家入道卜全。寄り親の柴田勝家の動向を見守りながら慎重に野村軍を抑える。

「よいかぁー。我々の任務は浅井軍の背後に回って退路を断つことだ!」

「「おう!!」」

美濃衆随一の剛の者である入道卜全は、武を通して同じ気質の柴田勝家と一番相性が良かった。

勝家本隊と連動して、氏家軍はよく敵を撃退し、更に勝家の中で評価を高める。


同じく、三人衆の安藤日向入道道足(守就)、尚就(範俊)親子が法螺貝に反応する。

「半兵衛の合図が来た、横山城の見張りはもうよい。浅井軍の背後に回って、殿の前で戦功をたてるのだ!」

「半兵衛の稲葉山奪取の再現だ! 今度こそ、恩賞は凄いぞぉ!」

父に合わせて、尚就が兵士たちを煽る。

「「おおおおおおお!」」

安藤家は信長とは古い付き合いだ。ここで娘婿の半兵衛と共に戦功を挙げれば、美濃三人衆の中から一歩抜きんでることが出来るかもしれない。

「今が踏ん張り時だー!!」

尚就の掛け声が、全員の気持ちを表したものだった。

ネット環境に復帰できたので、ひさびさに投稿。

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