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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
377/404

377部:軍師 半兵衛

6月27日 横山城後詰の動きを見せる為、朝倉軍は大依山に登る。


「横山城は今日もよく持ちこたえているな」

織田軍に包囲されてから籠城七日目になる。連日の織田勢の攻撃を、城兵の三田村国定、野村直隆、高坂の三将は良く凌いでいる。虎の子の野村直隆部隊が、織田軍の接近を容易には許さない。

「大変です、更に増援が来ている様です」

伝令が、先鋒の景紀に報告する。

「あれは、三河の徳川か、ん?  小笠原の旗もあるな。それに丸に沢潟おもだかの紋は・・、水野か!」

遠江の小笠原長忠軍、三河の徳川家康軍、知多の水野信元軍が次々と到着する。

「瀧川はいるか?」

「丸に竪木瓜の紋はありません。伊勢衆はいない様子」

「そうか」(ふぅ・・)

伊勢衆が参陣していないと聞いて安心する景紀。これ以上、織田家の軍団の人数が膨れ上がれば、流石に朝倉・浅井の数を足しても不利になる。しかし、これから増援が来る可能性もある。決着は早めにつけなければならない。

自分が考えたことを城兵も同じように考え、織田の大軍の前に先に気持ちが挫けるかもしれない。

「出来るだけ多くの旗を、横山城に見えるように立てよ!」

城内の士気を高めるため、景健の到着を待たずに、景紀はいち早く周りの部下達に命令を飛ばした。


遠江国高天神城から来た小笠原長忠の軍団は、今川家が夢にまで見た上洛の気分を味わうようで士気が高い。これまでの今川家滅亡の経緯と、武田家の圧迫からの辛かった日々からの解放感で、長距離の移動にも関わらず士卒の表情は明るかった。遠江小笠原家は、今や徳川と同じ独立の小大名身分だ。


続いて、徳川一門の松平衆が先行し到着する。そして中軍の徳川軍の城持ち与力衆は、家康の両職家の酒井と石川が旗頭だ。

今回の遠征は酒井忠次が従い東三河衆を率い、酒井正親は留守番をする。石川家の方は、石川家成が旗頭を務め、西三河の城持衆を率いる、石川数正は信康の名代として岡崎衆を纏める。


後軍は徳川家康の本軍。徳川家の中では武闘派の大久保忠佐・忠世兄弟、榊原康政、本多忠勝が台頭し、最近では家康の旗本衆が、三河国内での権限を持つようになってきていた。

信長に倣い、家康も直参旗本衆を養成し、寄り合いの軍ではなく、個人の軍の軍事力の強化を実行していた。今や松平一門は、家康にとって戦力としてさほど重要な存在ではなくなってきていた。


身内が力を持ちすぎると本家・分家争いが起きる。それが松平家の暗黒の歴史だ。

家康としては一門の同列意識を無くし旗頭として権力を強化したかった。信長に認められ後援されてこそ旗頭の地位が安定する。

三河三奉行の高力清長、天野康景、本多重次は岡崎城に留守番として残して来ていた。


そして、到着の大軍に囲まれていて、その存在が目立たなかったが、奇妙丸与力の竹中党(46名)も菩提山城から出陣し、後詰勢に混じっていた。


**********

竜ケ鼻砦、信長本陣。


信長の前に、増援軍の諸将が並ぶ。

「家康殿、信元殿、長忠殿、他の皆も良く参陣してくれた。今、柴田と丹羽が大手・搦手から横山城を力攻めしている。その様子を見ていてくれ」

後詰の到着に安心し、信長の機嫌は悪くなかった。


「我ら、殿様のお力になるべく遥々やって参りました。手柄も上げずに故郷に帰れば笑いもの、それならば先陣を賜りたい」

小笠原長忠が興奮した気分のまま、勇ましい言葉を吐く。

「小笠原殿、これは頼もしい。しかし、長旅の疲労もあろう、一日しっかり休憩されて、その後の小谷城攻めにその武勇を発揮していただけまいか?」

「ならば、そうしようではないか長忠殿」

信長の古くからの同盟者:水野信元が、古参の風を吹かせて小笠原長忠を説得する。

「仰せのままに」

家康は長忠の返事を待たず信長に答えた。


到着した三河・遠江勢は、川の流れで幅狭い横山城の東側ではなく、土地に余裕のある城の西側付近に新陣地を置くこととなった。

https://17453.mitemin.net/i460301/

挿絵(By みてみん)


********

「大依山に浅井・朝倉軍が集結しているようだが、この大軍には及ばないだろう。さて、どうでるか」

本陣から、浅井・朝倉の動きを注視する信長。


一方で、織田軍の城攻めを見る徳川軍。

「武名とどろく両大将のお手並み拝見だな」

家康は、これからの織田軍は柴田・丹羽の両大将が双輪となって、天下を平らげて行くだろうと予想していた。信長配下には森・坂井・佐久間・滝川と綺羅星の将星がいるが、柴田・丹羽には一国の大名にもなれる器があると思う。次に来るのは自分か滝川、将来的に伸びそうなのは木下、佐々、前田、川尻、蜂屋あたりだろうか。


大手門を攻める柴田軍には、与力に蒲生賢秀・忠三郎親子、美濃衆の稲葉伊予守、氏家卜全入道、安藤伊賀守、不破河内守達西美濃衆の面々。


搦手門を攻める丹羽軍には、軍監:蜂屋頼隆、与力:木下秀吉、新参外様の近江衆:多賀常則、堀秀村、その軍監目付:堀秀政、樋口直房が従う。


大依山山頂の後詰の浅井・朝倉の旗を見て、士気の上がった横山城の守りは固く、織田軍は苦戦し攻めあぐねている様子だ。


**********

信長本陣。

「竹中半兵衛が殿様に、ご進言があるとのことです!」

「通せ!!」

信長は、奇妙丸からの旅の連絡を伝えに来たかと思う。しかし、それは伴ノ衆が請け負ってくれている。

「どうした半兵衛?」

「殿様、朝倉軍は三田村城に入り国友要塞を落とすつもりです。それを援護する形で浅井長政は恐らくこの本陣めがけて決戦を挑んでくるはず。しかし、この攻城戦の陣形では決死の浅井軍に突破される恐れがあります。」

油断していたつもりはないが、朝倉・浅井がどのような動きに出るか、大将は景鏡のままなのか、湖北方面の情報が不足していた。湖北に長くいた半兵衛の忠告は聞き入れる必要がある。


「ならば、国友村を守りつつ、迎え撃つ準備を・・か」

「はい」

「余もそれを考えていた。困難な多方面作戦になるが同時に進めて、上手く行くと予想するか?」

「幸い、新兵力が到着しました。殿様の圧倒的兵力がものを言います。戦の勝敗は兵の数です」

「うむ。であるな。では半兵衛に何か策はあるのか?」

「姉川を渡河する浅井・朝倉軍との戦いは信長様にお願いし、横山城攻めは私が総指揮を執ってよろしいでしょうか」

横山城を奪い、姉川以南の領地を確保出来れば、我らが勝利。勝利条件と戦の区切りを半兵衛は良く分かっている。

余の役割は、全面の浅井・朝倉を撃退し続け、横山城攻略の時間を稼ぐことか。


「よかろう、采配を預ける。勝利をもぎ取ってみよ」

「ははっ」

半兵衛流の攻城戦の手並みを拝見するか。


非公式ながら、織田信長軍の軍師:竹中半兵衛が誕生した。

********


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