376部:朝倉孫三郎景健
遅筆、ご容赦ください。
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6月25日
朝倉軍の援軍の先発隊が到来し、高月村(元延暦寺領:富永荘)を集合場所に据え、そこへ次々と後続が着陣する。
その数一万数千兵、恩賞に預かろうと、若狭国や近隣の土豪達も参戦し軍勢は増えている。
朝倉景紀の兵二千は、主城:金ヶ崎落城の汚名を雪がんと戦意高く、名将・宗滴の鍛えあげた軍の名残もあり、朝倉軍の中では最も尊厳が高く統率が取れ、軍団としての基礎能力が秀でている。
大将:朝倉孫三郎景健はこの一戦で勝利を得て、反りの合わない一門筆頭兼御名代:景鏡を引きずり下ろし、自分が一門衆の筆頭・御名代に躍り出ることを考える。織田軍に敗北するなどということは一切考えていない。
一乗谷朝倉家(本家)譜代家老衆の頭目兼軍目付の前波新八郎景則は、当主:義景の命を全うすべく、越前衆の尊厳にかけて全力で戦うつもりだ。
本家家臣の前波景則、黒坂備中守、山崎長門守、小林備中守、それに侍大将の真柄直隆、真柄直澄兄弟と、直隆息子の隆基、窪田九郎右衛門、印牧孫六右衛門など剛力の者達が居並んでいる。参軍名簿の面子を見ただけでも、朝倉主力軍の中核が来ていることは間違いなく。参陣した武門の苗字を見ただけでも勇気が出る。その他には、疋田家の生き残り疋田孫兵衛、若狭外様衆を率いる奉行:半田又九郎等がいる。
景鏡が連れ帰った大野衆や加賀衆など兵士の人数が減っていても、景健軍の士卒に戦に対する不安はなかった。
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6月26日小谷城、清水谷門前。
朝倉軍を出迎える浅井家の面々。湖北の東野、西野の両家。海津街道の豪族:熊谷大膳。湖北の名門井口(富永)家の越前守経親、田子、伊部、西山など親朝倉派の武将達は、まるで主家が朝倉家であるような大歓迎だ。
朝倉家本陣の陣幕内で、朝倉と浅井の代表による作戦会議が行われる。
浅井長政、浅井政之、浅井玄蕃頭政元兄弟の背後には、長政側近の遠藤喜右衛門直経、磯野員昌、新庄直頼兄弟。先日の戦で雲雀山砦を守りきり、名を上げた浅見大学助景親。追撃戦にてそれなりに成果を残した月ヶ瀬頼次。遠藤直経は坂田郡の与力だった堀家が公然と反旗を翻した為、面目を失い、家中での風当たりが厳しくなっていた。
浅井久政に従うのは一門の浅井亮親、丁野若狭守と中嶋宗左衛門直頼に、赤尾美作守清綱に東野左馬進政行、海北善右衛門綱親、雨森弥兵衛尉清貞、浅井玄番允政澄(高信が信長の「信」字を忌て改名)、弓削六郎左衛門家澄、河毛三河守清允、今村掃部助氏直、下坂四郎三郎といった武闘派の面々。湖北の西野等の面々も勢揃いしている。
「磯野、新庄、それに安養寺。お主等に織田家内通の疑いが持たれている、それに長政も恥ずかしいことに京極小法師の件で朝倉殿に忠義を疑われている。その結果、景鏡殿は引き上げてしまったが、景健殿・景紀殿は浅井家の窮地とみてこうして再び戦場に来ていただけた。
お主達には、朝倉殿に感謝し、獅子奮迅の働きを見せて貰わねばならぬのぅ」
「今此処に居る我らの、これまでの忠義を疑うと? そうおっしゃるのですか・・」
磯野家代々は戦奉行としてこれまで、常に死地にて身体を張って戦って来た。
「ふん、先祖の働きがどうであろうと、信用できぬ者はできぬ。信頼は一瞬で崩れる。崩れた信頼を回復するには、その何倍も尽くして命を懸ける働きで誠意を見せて貰わねばのぅ」
「恥辱・・」
磯野丹波守、新庄新三郎直頼、弟の蔵人直忠が怒りで顔を真っ赤にして、力の入った腕がワナワナ震えている。
「この期に至って時間を無駄にしたくない。久政殿もうよいではないか」
景健は、安居朝倉家の直臣である金子新丞と、山内源右衛門に地図を広げさせる。
「我ら朝倉軍は、織田家の鉄砲供給源となっている国友要害村を落とす、我らの前で中立や不戦などのたわ言をぬかす町人村人供は許せるものではない。
我らは大依山に一度登り、山上から織田勢を威嚇し、様子をみながら、国友村を目指し破壊する策でいこうと思う。良いな、久政殿・長政殿」
景健が、久政の身内いびりには付き合ってはいられない、と話を中断させて、作戦を展開する。朝倉本家でもよくあることで、景健は辟易としていた。
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朝倉家としては隣国の浅井家が富国強兵となることは面白くない。ここで浅井領内を戦争で荒らし、経済的に貧国となって朝倉家の援助なしでは生き残れない弱小大名になってくれた方が、今後更に御しやすい。
「これまで育て上げた国友鉄砲工場を失うのは損失でありますが、致し方ありません・・。村人は仕方ありませんが、鍛冶の技をもつ職人達だけは残していただけませんか?」
「その職人共が、織田びいきの信長よりなのが朝倉としては気に食わぬのだ。 従わぬ者は切る」
「致し方ありませんな・」
(親父・・民を見捨てるのか)唇を噛む長政。
久政は、浅井家の収入源であった、工場が立ち並ぶ特別工業地域である国友要塞村を一度潰す覚悟をした。
「我らは、信長の本陣、竜ケ鼻を目指し突撃し、横山城の囲みを破壊しようと思います。朝倉殿は我らの背後を横切り通って頂ければ安全に姉川を渡ることができるかと」
長政は、国友村が朝倉軍によって破壊される前に、横山城を解放し、織田軍を撤退させ、長比・刈安賀の地まで防衛線を押し戻すことが肝要だと考えた。そうでなければ民は守れない。
磯野、新庄、遠藤達も納得したように頷き合う。浅井方諸将はこれ以上の国土の破壊を望まない。この一戦にて織田軍をなんとかしなければならないという思いは強い。
長政の提案に対し、景健も利害的に悪くない話だと思う。
「ほう、前線を引き受けてくれるのか」
「皆さま、今回の我らの疑いを晴らす為、織田軍への先鋒は、この磯野丹波守員昌が引き受けまする!!」
「おおっ そうか!」
磯野が全力を尽くす気になったことで、久政が喜ぶ。
「織田軍を平らげてみせましょう」
先鋒:磯野軍の突撃に、遠藤達も続く決意だ。
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書き足しました。




