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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
365/404

365部:親子

小谷山城、清水谷館。


援軍の総大将・朝倉景鏡が上座に座り、朝倉一門衆・譜代家老衆・外様衆が居並ぶ。

広間の下座には浅井久政を先頭に、浅井家一門、浅井家譜代家老衆、浅井家外様衆が控える。北近江の守護である京極家の者は、久政の娘・京極於鞠御前(のちに京極マリア)が残るのみだ。


「若狭、敦賀、北近江、 軍勢2万を率いて来たは良いが、信長は生存しているという」

景鏡が憂えた表情で言う。

「今、美濃に攻め入り、岐阜城を囲むが得策かと・・」

久政が浅井家を代表して進言する。


「我等は準備不足のため兵糧が足りぬ。それに、本国の物資は、敦賀の湊の復興が大事と優先されておる。余力はないな」

景鏡の言葉に、失望の顔色を隠せない浅井家臣団。

浅井家は、今ここで勝負を決めなければ隣国の織田家の脅威を肌身に感じる生活が続くことになる。

しかし朝倉にとって、浅井は織田家への盾でしかないのだ。


「では、我等同盟軍が早急に上洛して将軍・足利義昭公を、信長の魔の手からお救いすることが重要かと・・」

浅井家の外様で、朝倉家中でも発言権を持つ、千田采女が同盟仲介者として発言する。金ヶ崎城の戦いでは、織田軍の森可隆を打ち取って軍功をあげた。


「越前から全軍を率いて来たが、義景殿が大軍を持った私が越前に対して謀反をおこすのではないかと、警戒して目付を置いている。このように」

と、目付の家老衆を指さす。

名指しされた家老衆は驚いて平伏する。

「勝手に京都に入っては、私が義経公のように追われる立場となる。千田殿、歴史はよく学ばねばならんぞ」


久政が景鏡にすりよる。

「景鏡様の難しいお立場も分かります。がしかし、景鏡殿のお力で一気に織田を叩きませんか、われら粉骨を・・、」

「ひつこいぞ!! 久政ぁ―!」

扇子を床に叩きつける景鏡。

景鏡は自分より身分が下の者に対しては、すぐに激高する性格だった。


「わっ、分りました。それでは一旦、越前へ御引き上げて頂いても大丈夫です」

久政は慌てて引き下がる。

景鏡が立ち上がり、浅井家臣団を見渡す。

「我らの要望は、浅井家の面々は小谷山の尾根に大至急、我が軍が逗留できる砦を構築してもらいたい。

そうだな・・、京極丸よりも上位に、朝倉の城を用意してもらわねば困るな。

それから、私も景恒が放棄した敦賀や、若狭の各湊に大事な用があるのだ。

丹後の一色も警戒せねばならぬので、こちらに回す人工はない。

浅井家で責任をもって築城してもらいたい。

織田に何か動きがあったら連絡をくれ。すぐに駆け付けよう」


「有難うございます」

久政は元気なく答える。

「久政殿、いずれ共に京都の将軍邸に駒を繋ごう」

「はい。その日がくるのを楽しみにしておきます」

「うむ。ではな!」

景鏡はじめ朝倉家の諸将の高圧的な態度に、苦い思いをする浅井家家臣団。しかし、もう後には引けない。織田と戦うには朝倉にすがるしかない。

当座の総大将となる朝倉景鏡は、野心の大きい武将のようだ。惣領の義景と、分家の景鏡の、家臣掌握の力の強さが、若狭の統治運営の方針次第では変わるかもしれない。


**********

「朝倉も一枚岩ではないようですね」

朝倉衆が退出し、今まで黙していた長政が口を開いた。

「浅井は、朝倉の盾として、織田家の攻撃の前にさらされるのではないですか?」

「うるさい」

「本当に領民の為になったのでしょうか?」

「うるさい! うるさい! 政治に口出しは許さぬ。お主は廃嫡だ!玄番政元に当主を継がせる」

「父上! 私は兄・長政を唯一無二の存在だと思っています。兄をこえて当主など。絶対に受けませんから」

「うぬう、お主もこの父に逆らうのか。もうよい、わしが新たに浅井を継ぐ子をつくる。 赤尾の娘を我が寝所に呼べ!」

「はっ・・」


************

次男・浅井玄番政元が、目を細くして、父の背中を見送る。

「・・・・」


三男・浅井政之が、兄・長政に小声で話しかける

「兄上、父はもう駄目だ。朝倉に身売りする気だ。 ・・・母上の御宣託は無いのだろうか」

長政が母・阿古御前の状況を話そうと決める。

「母は越前から戻られてからは、浅井姫の洞窟に籠られて、楚葉矢ノ剣を鎮める祈りをしておられる・・」

浅井家の者は、竹生島に収められた御神刀・楚葉矢ノ剣については幼少から聞かされている。

「その剣は、六角義治のもとに?」

「わからぬ、今、忍びの草たちに全力で情報取集させている」

「早く取り戻して竹生島に戻さねばなりませんね」

「そうだな。私にもし何かあった時は、お主が島に剣を納めてくれ」

「兄上、めったなことを・・。戦場では私が兄上の盾となりますから、茶々の為にもなんとしても生き延びてくだされ」

「すまぬ。弟よ」

政元と政之の兄弟は、長兄・長政の手を握る。

「信長に、我等兄弟の意地をみせてやりましょう」

「うむ。そうだな」

浅井兄弟は来たる信長との決戦に全てを懸ける決意をした。


**********

岐阜城、山頂御殿。


「父上、ご紹介したいのですが」

「うむ」

「明智光秀殿と山岸於貞御前の子、高賀ノお慶姫です。もうひとり、妹のお良姫は現在は郡上領主・遠藤盛枝(のちに慶隆)の人質となっております」

「ふむ」

「二人を私の養女としたいのです」

奇蝶御前、奇妙丸、桜、平八郎、その場の一同が姉妹の為に頭を下げる。


「良いだろう」

「実父・光秀殿へご相談は?」

「必要ない。儂が決める」

「はい」

信長は家族の前では寛ぎ、自分のことを余と言わず儂と答えた。


「それで、妹の件だが。遠藤盛枝とその一族。どうしてくれようか」

「次の近江攻めに必ず従軍させるべきかと」

奇妙丸が進言する。

「特に盛枝は我欲に固執しているようです。説教してください」

奇蝶御前が笑顔で怖いことを言う。


「そうだな、岐阜に姫を送りがてら寄れと、きつく言おう」

信長も奇蝶御前の気持ちを察して応える。

「はい。お願いします」


「長屋家に、高賀の僧兵供は、斎藤内蔵助利三が大半を叩いたのだな?」

奇妙丸に戦いの処理を確認する。

「はい、特に僧兵は壊滅状態かと・・・」

「やってくれるわ。織田が坊主どもを切り殺したと、都までも聞こえてきていた」

「申し訳ありません」

「まあよい。ところでお慶姫」

「はい」

「お主たち姉妹は不思議な力を秘めていると聞いた」

「ご存知でしたか!」

驚く奇妙丸。

「何ができる?」

「・・・・・・・・・・」

瞼をふせ、瞑想に入るお慶姫。


そして静かに話し始める。

「竹生島から盗まれた楚葉矢ノ剣の力が強まっています。浅井姫の化身・阿古御前殿は、ほぼ力を失い・・。於市姫のそのお腹の中と長女様、新たに三つの器が用意されようとしています」

「! ・・・」

「殿が楚葉矢ノ力と戦うお気持ちならば、白山高賀の神と伊勢の女護おのごろ島の神が、織田家を見守り守護するでしょう」

お慶姫が目を開いた。


信長には珍しく、自然にお慶姫の言葉を受け入れた。

「そうか・・・・。阿古御前の為に、余は長政との縁も切れ、かわいい姪にも迷惑をかけられることになったか」

「楚葉矢の荒魂が、阿古様の周囲を搔き乱そうとしたのでしょう」

「残念なことだ・・。此度、織田家は多くの命を失った。この穢れを落とすにはどうすれば良いか?」

「新たな命を育み、その命を慈しむことで、繁栄が築かれると・・」

「うむ。そうであるな。婚姻を奨励し、人を育てよう」

信長の言葉に、奇蝶も反応する。

「寺社に教育の一端を担って頂きましょう」

「葬儀ばかりが寺社の仕事ではないと。そうだな、民衆の金を還元せねば意味がない」


奇妙丸は伝え聞いた外国の様子を思い出した。

「呂左衛門の故郷でも、伴天連寺院が民を教育していると言っていました」

「儂も宣教師から聞いた。ちと信心が行き過ぎている感はあるが、功徳を民衆に施す心掛けは日本よりも優れている・・」

顎髭を撫でながら考え込む信長を、皆が見守った。


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