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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十一話(野村姉川の合戦編)『奇妙丸道中記』第五部
364/404

364部:帰還

岐阜城、山麓の御殿の千畳敷の間。

稲葉山山頂には、新たに織田家の天主閣が竣工し、奥御殿から山頂に信長家族の転居が始まっていた。

山頂尾根の敷地面積は、山麓の奥御殿がある屋敷地より広くはないが、その曲輪構造は地山の岩の露頭面や、傾斜を巧みに生かして、ひな壇のような石垣を造り、平らにした面を使った多段構成で、一階建ての平屋だが地下室を持つ二層構造や、外見は三階建てながら四層構造の櫓などがあり、すべての構造物が複雑で凝った造りで、それら建物が回廊と橋で繋がり、雨に濡れないで建物間の移動ができるようになっていた。


奇妙丸軍と共に織田家の主力軍は、佐和山城から中山道を東進し、奇妙丸は信長よりも先に岐阜城に帰着した。武田松姫も奇妙丸と共に岐阜城に入り、奇蝶御前から手厚い歓待を受けていた。


岐阜城に帰城した主力軍は、川尻・福富が軍を解散し、岐阜からはそれぞれの領地、尾張・三河・遠江に向かうもの、東美濃へと一旦帰還するものがあった。信長の旗元達は岐阜城下へと家族は移住済みなので、次の出撃に向けて家族のいる城下の武家屋敷町へと引き上げていったのだった。


信長は、五月二十一日に城戸等の襲撃を撃退してからは、桑名から出撃した滝川一益の迎えの軍や、道中の信長方豪族により守られて伊勢桑名城に入る。桑名湊から海路、服部氏の警護で津島を経由し、河川路を経て清洲に入り、尾張の宿老・林秀貞と共に尾張の新兵を率いて岐阜城に到着したのだった。

 新兵には、武田・徳川に従うことを良しとしない旧今川の家臣たちが、林や飯尾の勧誘に応じて多数加わっていた。


五月末、堺や京都、奈良町衆がいる巷には「信長死亡説、信長重傷説」が先に流れたが、伊勢からの信長健在の噂で死亡説は否定され、続いて、海路・河川路を滝川水軍に守られて、城主・信長が無事に帰還したと、美濃国中、更に織田領国内へと情報が広がっていた。


**********

山麓御殿、千畳敷の広間。


「此度は無事の御帰還誠に祝着至極に御座りまする」

奇蝶御前が、信長とその一行を出迎える。

「今回も小倉家に助けられたわ、特にお鍋に」

「お鍋?  ですか?」

「余は命の恩人、このお鍋を傍に置くこととする」

お鍋御前が、奇蝶御前に深々と頭を下げる。

「わかりました」

奇蝶は理由を詳しくは聞き返さなかった。夫・信長なりの事情があるのだろう。

蒲生家には、六角・斎藤の暗殺部隊から信長を救ったことで立場が危うくなった小倉実房(別称:実澄)の妻、未亡人になった小倉殿という二人の子持ちの婦人が居るということは冬姫からも聞いていた。

「よろしくおねがいします」

お鍋御前の手をとって、こちらにと案内する奇蝶御前。

実房の二人の遺児、甚五郎と松寿丸も大人しくついてくる。


「山頂御殿のことは、後でゆっくりご案内してお話しします」

夫を独占する思いよりも、夫のせいで可愛そうな境遇にある婦人や子供を、妻の自分が救うことが出来ればという情のほうが勝った。

傷ついた美しい鳥をほっては置けない”情”が信長と奇蝶の二人に共鳴する。


同席する奇妙丸と冬姫にとっても家族が増えることになった。

「それでは奇蝶、あとのことを頼んだぞ」

信長は、奇蝶の態度に満足気だ。


*******

「さて、浅井長政の言葉、しかと聞いた」

「殿様、如何対処なされますか」

川尻秀隆が、信長の作戦を伺う。

「長秀、秀吉の軍勢が先に楔として奇妙丸の抑えた菖蒲カ岳城を拠点に堀秀村の調略に出て居る。佐和山城には磯野員昌が残るが、横山城に居た浅井長政は国衆の三田村国貞、野村直隆、大野木秀俊に城を任せて清水谷に引き上げた様だ」

そこへ、川尻秀隆の嫡男・吉治が道中で収集した情報を報告する。

「朝倉方は五月十一日、大将・朝倉景鏡率いる2万の軍勢が小谷城まで来た様子。美濃を伺うつもりなのではないでしょうか」

「美濃に迫ることはあるまい」

(余が健在としれば美濃の国境を侵すことはないだろう・・・。朝倉も出張って来たとはいえ、やはり義景本人は腰が重い。今度は我が知略で朝倉・浅井の主力をねじ伏せてくれるわ!)

ニヤリと不敵に笑う信長。


「諸将に陣触れせよ、朝倉・浅井とは“六月決戦”だ!そのつもりで来いとな! 秀隆、そちは参陣諸将の名簿を作成し、必勝の陣立てを考案せよ、それから、奇妙丸に代わって岐阜軍を率いて出陣せよ。良いな!」

「ははっ」

重鎮・川尻秀隆が、全軍の統率を任された。


「殿様、旗元馬廻衆の各将の軍勢は、すでに岐阜城外に詰めかけております」

信長の本軍を形成する馬廻衆は、福富秀勝・原田直政が統率し、既に名簿を把握している。

「そうか。秀勝、直政。愛智川の戦いでの軍功、聞き及んでいる。これからの対浅井との働き次第で中川に負けぬ褒美をやろう」

「有難きお言葉!」

原田直政が逸早く反応する。前田・佐々は悔し気に原田を見る。


「さて、奇妙丸達」

「「ははっ」」

信長不在時に抜群の対応をした奇妙丸だが、独断専行ともいえる戦闘も行ったことは周知の事実だ。誰もが信長の気色を伺い、奇妙丸を心配して緊張する。

「廃嫡」などの言葉が出れば全力で阻止しようと在席の家臣達は決意した。


「森勝蔵!」

名前を呼ばれ、筋肉が緊張する於勝。

「余の名前から“長”の一字を与える。これからは長可と名乗れ」

「末代までの名誉、有難き幸せに御座います」

畳に頭をこすりつけ礼を言う於勝。

「森家の嫡男として、父・可成とともに織田家の為に働け」

「ははっ!」

森長可と名乗ることになった於勝は感動し武者震いしている。


「蒲生忠三郎、冬姫」

二人が前に進み出る。

「此度の働き、ご苦労だった。二人とも天主にてゆるりとしていけ」

「はい」

新造の天守閣の見学が許される。蒲生忠三郎は一門衆扱いの特別な待遇を受ける大変名誉なことだった。

冬姫の手を取り信長の後方に下がる忠三郎。

忠三郎と同世代の若手武将たちは、美貌の冬姫と並ぶ忠三郎に嫉妬心を掻き立てられていた。


「池田之助、生駒一正」

「「はいっ」」

「お主たちは、それぞれの父の下に戻り、いつでも家を継げる準備をせよ」

「「はい!?」」

「それぞれが力を付けた上で、今回のように奇妙丸を支えてやってくれ」

「「ははっ!!」」

信長に、自分達の働きが認められたと表情が明るくなる二人。


「そして奇妙丸」

「はい」

自分の番が来たと姿勢を正す。

「奇妙丸は初陣より先にやるべきことがある。 なぁ 松姫殿に、駒井昌直殿」

信長と松姫の目が合う。

「奇妙丸は甲州武田家へと松姫を送り届けに行くことが任務だ。堀家や磯野・新庄・安養寺との約定のことは長秀と秀吉に任せるがよかろう」

「ははっ」

「松姫殿もそれでよろしいですかな?」

「はい。ご配慮有難うございます」

「奇妙丸。 義父・入道信玄公の治める甲斐の国と、天下一の富士山を見てまいるが良い」

「ははっ!有難うございます!」

信長は、駒井の前に進み、駒井の肩に手を置き、

微笑んでからそっと掴む。

「昌直殿、奇妙丸の道案内を宜しく頼む」

信長の微笑みの圧力に思わず返事する昌直。

「はいっ」

昌直は信長の頼みに畏まって返事する。大事な嫡男・奇妙丸を信長から託されたという思いがよぎる。

織田家としては後顧の憂いを絶っておかなければならない。戦国の世いつ武田入道信玄の気持ちが変わるともいえない。ここは奇妙丸を甲斐に送り、松姫との婚姻で両国の親睦の気運を盛り上げ、織田と武田の和平を存続させることが優先だった。


「そして津田坊丸、奇妙丸と共に甲斐を見てまいれ」

傍衆に加わっていた津田坊丸を手招き、奇妙丸付きとして挨拶させる。森長可、池田之助、生駒一正が抜けた穴を坊丸に埋めさせるつもりだ。

「はい!」

朝倉家では当主・義景の代わりに陣代として分家の景鏡が大将となって軍を率いることもある。いずれ織田家もそのような体制が必要となる時が来るかもしれない。

信長は、弟・信勝(信行)の遺児・津田御坊丸と奇妙丸の間に、お互いを知る機会を与え、織田一門としての繋がりをより強固なものとして、次世代への布石を打っておきたかった。


「梶原平八郎に伴ノ桜。お主達は奇妙丸と共に行け」

「はい」

「それから、伴ノ一郎左衛門」

「はいっ」

「お主はこれから先代惣領”太郎左衛門”の名を継ぎ、忍び頭として、余の傍に仕えよ。奇妙丸も良いな」

「「はいっ」」

「奇妙丸には伴ノ二郎左衛門が付き添え」

「はい」

織田の忍び衆も、伊賀忍軍、甲賀忍軍に対処するため、一郎改め「太郎左衛門」の下に再編増強されていくことになった。


************


掲載おくれてすいません。

忙しくて中々進むことが出来ませんが、奇妙丸ファンの自分としては趣味として書き続けたいと思います。

気長に応援の程よろしくおねがいいたします。

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