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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
358/404

358部:交渉

伊賀音羽の、竹林の中の寂れた観音堂。


甲賀黒川衆の首領・黒川修理進が、伊賀に信長の暗殺を依頼しに来ていた。

「それは、確実な情報なのですか?」

信長の居場所について確認する音羽48人衆の頭・城戸弥左衛門。


「観音寺城に入城した織田主力軍の中に殿様はご不在だったとのこと、一方で丹羽長秀が和平交渉のために鯰江に赴いたという。信長は丹羽軍に紛れて日野入りし、負傷兵と共に鈴鹿を越えて伊勢にはいるつもりだろうという利三殿の読みだ」

「斎藤内蔵助殿は、六角と織田、一体どちらのお味方ですかな?」

「さあな」

どうでも良い事だと表情に出す黒川。


「黒川殿も織田に降られたはずでは?これは我ら伊賀衆を陥れる罠なのでは御座らぬか?」

「ふふふふっ。六角義賢殿からは伊賀音羽へ信長暗殺の依頼状を頂いている。儂は仲介業をしているだけで誰の味方でもない」

「そうはっきり断言されますと、流石としかいいようがありませぬ。甲賀惣中の頭衆は、黒川殿と同様の意思で御座いますか? 我らの仕事に対して立ちはだかる者がいるのでは?」

「伴ノ衆、それに蒲生配下の菅ノ衆、これらは黒川と同じ意思ではない」

「成程。ではそ奴らとの交戦があって、彼らを全滅させても甲賀惣中は感知しないと?」

「うむ。あくまで傭兵稼業の中での私闘として捉え、惣として仕事に介入することはないな」


「それならば安心です。甲賀衆に背後から襲われることを心配せずに信長を手にかけられます」

「それでは、義賢殿の頼みを引き受けてくれるのか」

「いえ、斎藤内蔵助利三殿のお願いとして引き受けましょう。その背後に誰がいるのかは、今はまだ問いませんが。成し遂げた暁には斎藤利三殿にもそれなりの報酬を請求させて頂きます」

「分かった。話しておこう」

「では、これにて」

ササササ、と摺り足で城戸は後ろに下がると同時に、両方から襖が閉じられた。


*******

六角氏拠点、鯰江城。


「これは丹羽殿、何の御用ですかな?」

和平交渉に単身乗り込んだ丹羽長秀が、客間で六角親子に面会を許されていた。


「六角義賢様と義治様に和平の交渉をしに参りました」

「和平ですか、今更? 織田軍が朝倉に敗北し、窮地に陥っていることは都の子供でもしっておること」

義治が高飛車に言い放つ。

「浅井殿の誤解により我等は若狭から撤退することになりましたが、敗北した訳では御座らぬ。長政殿は誤解があったのだと我らに理解を示し、再び織田と強固な同盟関係を結びたいと申されております」

「よくもぬけぬけと、大ウソを!」

「嘘では御座いません。六角家の皆さまとの和議がなったうえは、再び六角家を幕府の準管領家に迎えたうえ、近江半国を再び義治殿に納めて頂きたいと主・信長が申しておりました」

今まで黙って聞いていた義賢が、義治を制して話し始める。

「何を、甘言を、信長はよほど困っているのではないのか」


「我らとしましては、戦争は不本意。幕府に恭順して下さるなら、私が将軍・義昭公にお取り成しします。此度の六角殿の一揆も不問と致します。また、お望みの御料地も当方で用意いたしましょう」

「悪くはない話だが、あいにく織田信長はまったく信用できぬ」

「この五郎左衛門長秀が、責任をもって」


沈黙がしばし流れ、義賢が座している長秀を頭の上から膝下まで、じっくりとみて言う。

「長秀殿、お主こそ信長を見限ってこの六角家に仕えぬか?」

「身に余る光栄なお話で御座いますが、私は織田家の重臣として将軍・義昭公にお仕えする身。この立場から転じることは想像もできませぬ」

「ほっほっほ。意外に頭の固い長秀殿だな」

「私の長所は生真面目さだと義昭公にもおほめ頂きました」

「ふぅむ」


再び広間に沈黙が流れる。

「おいしい話だ、しばし考える時間を」

今度は義治が落ち着いた口調で長秀に言う。義治は昔、美濃国の斎藤義龍と同盟を結んだ前例があるように美味しい話には父の反対を押し切ってでも跳びつく性根がある。


「前向きなご検討を有難うございます。

分りました。

それでは私は大森城にて朗報をお待ちしていますので、ご連絡をください」

「わかった」

六角親子は、長秀の話を真面目に検討するつもりになっていた。


長秀は、使者の役目を終えて、無事に大森城に帰城した。

時間を稼ぐという目的は達したので、これからの和睦交渉が成功しても、破綻しても、長秀にはどちらでも良かった。

*******


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