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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
353/404

353部:近江日野

鯰江城、本丸御殿。


六角義治の下に、鯰江貞景、貞春親子。三雲定持・成持父子、山中兄弟を始めとする六角家家臣の面々が詰めかけている。

「この楚葉矢ノ剣の効力が、早速現れたのには驚いた。浅井家が織田方から離れるとはな。信長ざまあ~みろだ」

楚葉矢ノ剣を皆にみせ満足してから、神棚に大事に収める義治。


「誠にそうでありますな」

老将・三雲定持が剣の効力に同意する。


「浅井がこちらに従うであれば、心強い味方ですな」

息子の成持が、義治にささやく。

「剣とともに、信長の悪政に感謝だ。我等は、長年の仇敵だった三好や浅井、それに朝倉や若狭武田とまで同盟を組める」

「これに、伊賀・甲賀や伊勢の北畠一族が加わればすごい勢力になりますな」


「我らの力に応えて、足利将軍や、武田信玄公も信長を見限り、親六角派となった暁には、我ら六角は天下の覇者となれるのではないか?」

六角家臣団は、明るい未来に向けての妄想を膨らませて、それぞれが今や最高潮の気分だ。


「大変です、守山城の九里三郎左衛門が処刑されるとの立札を織田家が各地に立てて回っているそうです」

六角家の甲賀衆・美濃部が情報を持って広間に現れる。

「なにぃ」

守山の合戦に敗北した九里が、まだ生きていたことを知り驚く六角入道承禎義賢。

それに六角義治、六角義定兄弟が顔を見合わせる。


「九里は、我らの檄文に応えて挙兵した。我らは観音寺の斎藤利三に阻まれ、九里の後詰が出来なかった」

義賢の反省の弁に、

「助ける必要がありますね」

「織田方と捕虜交換はどうでしょう」

兄弟がそれぞれ思いを述べる。


「日野城の冬姫を奪取することができれば、信長も九里を解放するだろう」

「日野ですか・・・」


「あそこには蒲生の古だぬきがおるからな」

今や、織田方についた蒲生下野入道定秀親子は邪魔者でしかない。信長に取り入って孫の鶴千代は信長の娘婿にもなっている。

「日野に手を出せば、伊勢の関や神戸も加わってくるでしょう」

「やっかいな相手だ・・・」

後藤賢豊、蒲生定秀、家臣の顔色を見ながらの政権維持の苦労が、なんだったのかと眉間に皺寄せる義賢。


「佐和山から向こうの情報は入っているか」

鯰江の北、湖岸の方向の動きが気になる。

「いえ、高野瀬秀澄が箕作城を奪って、街道の交通を遮断しただけです」

「磯野員昌は、我らと結ぶ気はあるのか?」

「佐和山城の動きは読めません」

浅井の動きが遅いので苛立ちを覚える。反織田の決意をしたのなら、こちらに一言、謝罪の挨拶に来るのが筋ではないか。


「誰か使者となって、奴を懐柔いたせ!」

義賢の命に、義治が反応する。

「浅井方は、楚葉矢ノ剣を返せと言ってくるのではないですか」

義治は、剣のことがとにかく心配だ。

「これは元々、我が家に伝わるものだ。猿夜叉丸(長政)が盗んでいったのだ絶対に渡せぬ」


「員昌を取り込む条件ですかぁ・・、なかなか難しいですなあ」

三雲定持が、顎鬚を撫でながら知恵を絞る。


「我らに協力すれば美濃を与えるとか、適当に法螺を吹いてくれば良いのだ」

長年六角家と戦ってきた磯野員昌が、そのような嘘にのってくるであろうか・・と心の中で呟く。

「はぁ・・・」

鯰江城で行われる会議は、いつも中々話が進まなかった。


***********

近江、日野城。


「これは丹羽様、よくぞ参られました。」

「蒲生家の方々、皆さまのお力をお借りしたいのです」


「なんと。織田家の“張良(劉邦を支えた智将)”と呼ばれる貴方が、我等にそのように腰を曲げて」

蒲生定秀・賢秀親子が、長秀の慎ましい態度に驚く。


「我が主・信長と、織田の兵士たちを救って頂きたいのです」

「もとより、そのつもりで御座います」

老翁・入道定秀がにっこり笑う。

「ここにいる冬姫を守るため、我等一致団結しておりまするぞ」

冬姫がしずしずと進み出る。

冬姫の元気そうな顔をみて、安心する長秀。

冬姫は嫁入りしてから数か月で、蒲生家の皆に認められ、城中でしっかりと自分の居場所を作っていた。


「五郎左衛門様、兄・奇妙丸の動向はしりませんか」

「観音寺に居る利三は、奇妙丸殿は街道の確保のため佐和山城のすぐそばまでやって来ていると申しておりましたな」

「そうですか・・」

「信長様は今、守山城から永原城に移動されて、近江西南の仕置をされておられます」

「お父様もお元気そうで、良かった」

「これから先、おそらく浅井長政の軍が南下して、東山道を通ることは更に難しくなるでしょう。そこで、皆さまにご協力いただいて、伊勢へ抜ける裏街道を何本か教えてほしいのです。そこから負傷兵を織田領に帰したいと考えております」

「分りました、我等全力で伊勢へ送迎しましょう」

「忝い、詳細は江口伝次郎正吉から聞いてくだされ。私はこれから、鯰江城の六角親子に和平の交渉を行いに参ります」

「大丈夫なのですか?」

「いつものことです。それではお頼みしましたぞ!」

踵を返して颯爽と出て行く長秀。


「忙しい人だ・・」

「仕事が早いお方ですね」

長秀の感想を漏らす蒲生親子。


「織田家には良い武将が沢山いる。彼も天下の名馬じゃ、名馬の中に埋もれぬように、励めよ賢秀よ」

「まずは信長様の信認を得ることが肝要に御座います。今回の件は我らが踏ん張りどころ」

「うむ」


江口正吉が進み出る。

「蒲生殿、宜しいですか。申し上げにくいのですが、その・・」

江口の後ろから、編み笠を深く被った人物が、ずかずかと前に出てきた。

「こちらは?」

正吉に尋ねる賢秀。

紐をほどき、笠を外す男。


「余が、信長である!」


「「えええええええええええ!!」」

永原にいると説明されて信じていた蒲生親子は、突然の信長の登場に不意を突かれた。



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