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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
350/404

350部:主従

三人は陣幕を出て、反対側の二ノ丸に来た。


「於勝よ、可隆殿が亡くなったことは、俺も悲しい。俺も小さい頃から良くしてもらっていた。お前の気持ちは分かるし、残された弟達の悲しみも分かる。しかし、降伏した面々の前でお前がああ言っては、奇妙丸様が困るだろう」

「ふん。俺は本当のことを言ったまでだ」

「これから織田家に奉公すると言う面々は不安を抱えている。そこで、お前の様な態度で接されては、やはり織田家に出仕するのは間違いであったとなるのではないか。戦いのさなかに返り忠などされたら、奇妙丸様の命が危うくなるのだぞ」

「俺の進言を聞かぬ奇妙丸様が悪いのだ!」

於勝の言葉に、黙って様子を見ていた桜が怒る。

「あなたは、暗い気持ちをいつまでもひきずって、周りの人に気を使わせて、そのうえ周りをどれだけ傷つけるの?」

「俺は、理不尽がまかり通る世の中が憎いのだ!」

強い語気とともに、振り上げた槍を投げる。

“ガン”“

”カランカラン“

地面に叩きつけた槍が、反動で跳ね上がってころがる。


「殿様は、皆が安心して暮らせる世の中を作ると言っていた。戦をなくして見せると! だが戦はまだまだ続く!」

於勝は怒りのやり場がみつからない。

「そうだ、俺たちはその言葉を信じて戦っていくのだろう」

平八郎が於勝を落ち着かせようと肯定する。

「俺は兄の仇と戦いたいのだ。寝返るようなあんな奴等、最初から皆殺してしまえばよいではないか。奇妙丸様の傍に居ては俺は戦えない!」


於勝が違う道を模索している。

「おい! お主はなんのために生きている。俺たちは生涯、奇妙丸様にお仕えすると誓っただろう。それに、奇妙丸様、蒲生鶴千代(忠三郎)、俺とお前で、奇妙丸様の目指す世を作り、死ぬときは同じ時刻と決めたではないか!その奇妙丸様に向かって!」

「べつに・」

桜も、一緒に旅をしてきた於勝が、ただの復讐鬼になるのではないかと思えた。

「奇妙丸様にあたるなんて、どれだけ小さいのですか。いくら城を落としても、ぜんぜんかっこよくないですよ」

「おれは、あたっているつもりはない、本当のことを奇妙丸様に」

「本当ってなんですか? 貴方こそいいかげん目を覚ましたらどうですか。いい歳をして、いつまでも駄々をこねて。どれだけかまってちゃんなんですか? そんな貴方をお兄さんが望んでいると思うのですか!?」

「うるさい! 女に俺の気持ちが分かるかっ!」

「はぁ?」

桜が於勝の返答に顔色を変える。


「それに、その槍のことだ!」

桜に続いて、平八郎も地面に落ちた槍を指して言いたかったことを言う。

「そもそも兼定公の望む材料を手に入れてくれたのは誰だと思っているのだ?!」

「き、奇妙丸様・・」

「関へと送り出してくれたのは誰だ」

「き・・・・・」

「奇妙丸様が、どれほどお前に気を砕いてくださっているのか、わからんのか、この馬鹿野郎!」

“バキっ!!”

平八郎が、於勝を拳で殴った。於勝の口元から血が流れる。

続いて桜が前に出る。

「貴方に気を使ってくれている奇妙丸様に、貴方が気を使いなさい!」

“パシぃ“

於勝の反対側の頬に平手打ちを見舞った。

於勝が崩れ落ちて地面に両手をつく。

「おっ、俺は・・・」


手をあげるつもりは無かったのだが、気持ちが昂じてしまったと、拳の痛みで冷静になる。

「可隆殿が守りたかったものを、お主が代わりに守るのだな」

平八郎が言い残して去る。

「よく考えて」

桜も陣幕の内へと戻ってゆく。


「兄の守りたかったものを、俺が守る・・」

一人残された於勝は、小さな声でその言葉を繰り返していた。


******

菖蒲ケ岳城、三ノ丸。


一同を率いて山城を巡る奇妙丸。

於勝、それに桜や於八の帰りが遅い。

三人とも話し合いは出来たのだろうか。自分も代表である立場でなければ、じっくりと於勝と話し合う時間が欲しい。


奇妙丸は明るく振る舞い、城中の石垣や空堀の設備を確認し、壊れている物は復旧するように的確に指示して回る。

山田や楽は、無駄に命を粗末にするような於勝の戦いぶりを心配しているが、いろいろなことを抱える奇妙丸の心労も心配していた。


*******


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