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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
348/404

348部:勢多城

太尾山山頂、本丸。


「遅いぞ、お前たち!」

於勝が、奇妙丸の後に続いて登ってきた池田勝九郎之助と、生駒三吉一正の二人に向かって言い放つ。

「なんだとぉ」

弟のように思っていた於勝の生意気な言葉にイラッとくる勝九郎之助。

「奇妙丸様の許しを得ず、突撃したお前たちが軍令違反ではないのか!」

森軍・梶原軍の暴走を、正論で責める三吉一正。



「まあまあ、中嶋は最初から我らを攻撃するつもりだったと捕虜から聴いた。城が落ちたのだし文句はないのだが・・・。中嶋直頼は今もなお逃走中だ、ここで仲間割れをしても敵が利するのみだ。於勝、言葉を慎め」

険悪な雰囲気を断ち切ろうと奇妙丸が間に割って入った。

「・・・」

於勝に反省する素振りはない。

家臣達の中に重い空気が流れる。


「それに、中嶋軍が崩れたのは、平八郎が橋を吹き飛ばしたからだとも聞いたぞ」

生駒一正が、太尾山城の攻略は森軍だけの手柄ではないと指摘する。

「於八の奴、余計なことをっ」

「おい!」

池田之助が、於勝の暴言を叱責する。梶原軍は必死に森軍の尻拭いをしたのだ。

奇妙丸達と、於勝の間の空気に緊張感が漂う。


そこへ、森弥五八郎親子が進み出てきた。

「奇妙丸様、我々新参の森弥五八郎に御座います。我ら親子、勝法師様に続いて本丸まで一気に攻め落として御座います。何卒、我らに恩賞の方よろしくお願い申し上げまする、我等が顔を覚えておいてくださいませ」

父に続いて、息子も自分の軍功を申上し始める。性格もよく似た親子のようだ。

「恩賞か・・」


今回の戦は、街道の領域を確保するためのものだが、武者働きをすれば当然、対価となる褒賞を与えなければならない。それが主従の関係だ。ゆくゆくは、森家に割り当てた恩賞の内から、この親子にもそれ相応のものを配分せねばならないだろう。

織田家の領域を広げたわけではなく、父・信長も越前に攻め込みはしたものの、恩賞の土地を確保できた訳ではない。

父は、宿老達にどのような褒賞で報いるのだろうか・・・。これからの父の対応を、将来の自分ために学んでおく良い機会かもしれない。

土地が無ければ、金、官位、金に代わる名物、刀剣鉄砲などの武器・武具・茶道具・書物・名物と言われる価値ある一品、お香や、絵画、船、衣類、珍味などだろうか。


「そうだな、父に相談して、あとで割り当ててやる」

「ははぁー。何卒、信長様に宜しくお伝えお願い申し上げます」

新参・森親子の恩賞申し出などで空気がしらけ、仲間割れはお茶を濁す程度になったが、このままでは、於勝が皆から孤立するようで心配でもある。

ある意味、空気を読まない森親子のおかげで、この場は喧嘩にならなかった。


******

森・梶原軍の活躍で、太尾山城は落城し、奇妙丸軍が確保した。

於勝が、池田之助や生駒一正と揉めた件は、奇妙丸の傍衆達から於八の耳にも入っていた。


城内の状況を把握してから、本丸で軍議が行われる。

「我らは更に西を目指して、父の主力軍の帰還を迎える為に、佐和山筋の交通を確保せねばならない」

奇妙丸の言葉を受けて、生駒一正が進み出る。


「ここは私が引き受けます。これまでの街道を確保し、前線に物資を供給する。我軍の得意とするところです」

「そうだな、では生駒一正に太尾山城を任せる。宜しく頼む」

「奇妙丸様、来る途中の地頭山にも番所を置いて、北に備えていたほうが良いでしょう。そこはこの池田之助が!」

「うむ。任せたぞ」


戦力は少し減ずるが、奇妙丸本軍の楽呂左衛門の白武者衆、山田勝盛の黒武者衆は健在だ。

「よし、我々は菖蒲ヶ岳城に進もう!」

「「ははっ!」」

太尾山は生駒一正に任せ、奇妙丸軍は休む間もなく西へと進軍を始めた。


********

5月12日近江国瀬田。


信長は坂本を発し、安藤守就親子と氏家入道卜全親子が鎮圧に務めた瀬田表に向かった。

信長自身は、坂本湊から船を駆使して琵琶湖を東進し、その日のうちに、元六角家臣の山岡美作守景隆が守備する勢多山岡城に進駐する。


「信長様、ようこそおいで下さいました」

城門前にて信長を出迎える山岡美作守景隆とその一族。安藤に氏家も傍に控える。

景隆は信長よりも11歳年長の初老の武将だ。


「安藤、氏家、此度の働きご苦労。それに山岡、幕府への忠節、良い心掛けだ。ますます励むように」

「はいっ」

深々と頭を下げる景隆。

・・・山岡景隆は、足利義昭上洛の折は、六角家に義理立てし上洛軍に反抗するが、大軍の前に敗北し大和の柳生郷に落ち、義昭・信長方の松永久秀を介して、義昭と信長に詫びを入れて幕府に出仕し、信長から山岡城を返還されていた。

その経緯もあり、六角家に対しての先祖代々の忠義は果たしたものとして、ケジメをつけて、今度の六角親子の挙兵には従わなかった。


山岡家は古くから甲賀衆と深い関わりがある。今後は織田家にて重く用い、伴ノ衆のように甲賀の使える人材をこの景隆にまとめさせよう。


その場で、瀬田川を望むその立地を見渡す。

「今日はここを宿所とする。城内を案内致せ」

「ははっ!」

信長が立ち寄り、我が居城に宿泊するという信頼と栄誉を受けて、その信任に応えようと胸を熱くする景隆だ。

「それから、茶を所望する!」

「わかりました。早速お手配いたしまする!」


信長の勢多山岡城入城の連絡を受けて、陸路を移動してきた織田主力軍は、瀬田周辺に各大将が陣所を設け、ここで一泊することとなった。


*******

瀬田山岡城内、山岡館(信長仮宿所)。


山岡景隆から、厚い接待をうける信長。

「殿様、後陣の丹羽長秀殿からのご連絡があり、今夜は瀬田川の手前で陣を構えるとのことです」

大津伝十郎が、信長に上申する。

「そうか」

目の前の景隆に話をふる信長。

「我が軍は、今日中には橋を渡り切れなかったようだ。瀬田の橋幅をもっと広げないと、大軍の行動に支障が出るな」

「現在までに、瀬田橋は何度も流されましたが、その都度我が先祖が修復に関わっておりました。橋を架けるあの中州は、船を繋ぎとめる湊でもあり、積み荷を蓄積する場所でもあります」

「うむ。川湊の重要性はわかる。我が父の城、勝幡城も津島の湊を大事にしていた・・・・。景隆よ、お主の先祖代々の所領を安堵する。御所作事が終わり次第、人数をこちらに差し向ける。これから、棟梁と話し合って最新技術を取り入れて豪勢に橋を拡張する普請をしてくれ、それに今後も瀬田の唐橋の守りは任せたぞ」

「ははっ。一度は敵対したこの私に、すべての所領を返して下さるとは・・。このご恩情に感激で御座います。景隆、信長様に生涯の忠節を誓います。必ずや日乃本随一の橋をかけましょう」

「うむ。期待しているぞ」

信長は機嫌よく、琵琶湖の湖鮎料理を食した。


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