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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
345/404

345部:琵琶湖湖畔

5月10日近江、坂本


坂本湊から、琵琶湖の水平線を眺める信長。

傍には、万見仙千代、大津伝十郎、矢部善七郎、堀久太郎、菅屋御長、長谷川竹 達、信長が選抜した小姓衆が控える。


(近つ淡海とはよく言ったものだ・・・。

海のように波立っているが、海水のように塩辛くはない。

昔、五郎左と話していた唐国からくにの梁山泊とは、このような湖の畔なのかもしれないな・・)


幼少の頃、万千代と呼んでいた丹羽五郎左衛門長秀と、共に誓った天下泰平・平安楽土への思いを噛み締める。

二人が語り合った理想の国には、まだまだ道は遠いが、俺達は働き盛りだ。

『水滸伝』の英傑達のように、どんな逆境も乗り越えて見せよう。


「俺は、織田信長だ」

琵琶湖に向って名乗る信長。


そこへ、宿寺の守備隊隊長・福富平左衛門秀勝が声をかける。

「殿様、京都宿所の留守居衆から伝令で、幌衆の中川重政が参りました」

「通せ」

中庭に、部隊を率いて京都から坂本を駆け、関所問答無用の黒幌を背負ったままの中川重政が現れた。


・・・中川八郎右衛門重政は、信長の親衛隊・幌衆のひとりで、信長の遠縁の一族でもある。

出奔した信長の叔父、尾張守山城主・津田孫十郎信次の跡職を、信長の命で継承し織田駿河守を一時名乗った。


先の若狭国武藤攻めでは、疋田城攻略軍の軍監を務め、掃討戦にて疋田勢を壊滅させる手柄をあげた。

信長はその忠節と手腕を認め、現在の重政は、京都留守居の坂井好斎、島田秀順、村井貞勝の下で、京都の実務を執行する役割を与えられている。


「殿様、西の毛利家より任官御礼の使者が来ました。陣僧の安国寺の僧・恵瓊と、内衆の桂に児玉と申す者達です」

「そうか、返礼が予想よりも早かった・・・・・。使いは船で来たのだな。流石、毛利水軍だ」

中国地方の太守・毛利輝元は、義昭の上奏と信長の推薦により官位を得ることができたので、お礼の使者を送って来たのだ。陸路は反毛利の尼子勢等が蜂起しているので、連絡には時間がかかるだろうと考えていた。

失念していたが、毛利には”虎ノ子の水軍”があった。三好水軍も、今は毛利を阻止するどころではないのかもしれない。逆に、三好水軍が織田家の敗報を受けて、明石海峡の往来の検閲どころではないと、畿内に再び進出する為どこかに全軍を召集している可能性がある。


「ここに輝元殿の御文を預かって参りましたが、ご使者が、できれば直接お礼を申し述べたいとのこと、使者殿に、こちらまでご挨拶に来ていただきましょうか?」

信長は、輝元が任官に満足していることに安心する。山陰地方は現在、山中鹿ノ介幸隆が尼子牢人衆を率いて暴れまわっているので、あちらはそれを鎮圧することが優先で、いくら将軍・義昭が毛利の入洛を即しても、すぐに上洛を強行するとは考えなかった。


「それには及ばぬ」

しかし、この返礼の使者は上方の情勢を輝元に報告する役目を担っているのであろうし、織田家の畿内支配の揺らぎを、詳しく連絡させるわけにはいかない。

この使者を京都に引き留め、できるだけ安芸国への帰還を遅らせる必要がある。

「かの者達は、毎日、留守居衆が日替わりで順番に家に招待せよ。もてなす料理は贅を尽くせ」

「ははっ」


「それから、四国の三好が海路にて、逢坂のどこかに上陸する可能性がある。摂津池田、河内三好、和泉の畠山に沿岸の警備をせよと義昭から命じさせよ。・・・いや、光秀からでいい。手間が省ける」

京都留守居衆には、毛利家の使者を「もてなし漬け」にし、親織田派に篭絡する任務が与えられ、逢坂湾岸の大名達には、幕府官僚の光秀から周辺警護を申し付けさせる。


***********

東山道、太尾山の麓、太尾山番所の近く。


奇妙丸軍の先鋒を務めるのは於勝が率いる森軍だ。森軍は10名編成の騎馬偵察隊を繰り出し、周囲の動きを警戒しながら街道を行く。

「勝法師様、浅井軍が街道沿いまで出張ってきています。その数は五百程かと」

引き揚げてきた森家の物見が、於勝に街道の状況を伝達する。

「よしっ!ご苦労。 皆っ、俺に続け!」

「「え?!」」

於勝の言動が理解できない森家の面々。


「そいやっ!」

掛け声とともに、於勝が単騎、街道先の中嶋軍に向かって駆け出した!


「「えええええええええーーー?!」」

(普通、総大将の奇妙丸様に一報を入れに行く報告が一度入るだろう)

と誰もが一瞬思った・・・。


「若に続け! 遅れを取るな!」

於勝の出陣要請に応じ、兼山城から森軍を率いてきた老将・近松新五左衛門が、

遅れては一大事と、周囲を叱咤する。


「「ははっ!」」

戦場では、夜討ち朝駆け、先駆け陣借りは武士の常。

うちの大将は経験も浅い、遮二無二突撃するつもりだろうと、皆は悟る。


(嫡男・可隆様を失った今・・、

次男・勝法師様まで死なせては、可成様に見せる顔がない!)

慌てて、於勝に追いつこうと、森家の皆が必死に走り出したのだった。



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