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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
344/404

344部:地頭山、太尾山

地頭山(旧地頭山城)の麓。


「ここは東山道の分岐点になる。あちらが朝妻湊、こっちが観音寺の浜街道行きです」

桜が奇妙丸に、それぞれの道の行く先を教える。桜も甲賀出身とはいえ、数える程しかこの道は通ったことがないのだが、もうすぐ、琵琶湖の景色が見えるので、第二の故郷に帰ってきた気分だ。

修行は厳しかったが、近江の自然が心を癒してくれていた。


「かつて浅井久政軍が地頭山の戦いに敗北し、六角家に降伏したのだったな。

近江の天下分け目の地か・・」

この場所で、六角と浅井の激しいいくさがあったのだと、当時の様子を想像する。


その頃は、まだ鉄砲も無かったのではないだろうか・・。今の浅井家は、琵琶湖水軍の湖上の船戦ふないくさで、水軍に普及した鉄砲を大量に所持している。それらを動員すれば六角軍を上回る火力・戦闘力を有しているのではないだろうか。

おそらく、織田軍の火力にも引けを取らないはずだ。そのうえ、揺れる船の上で遠距離の敵を撃てるほどに鍛えられている。

鉄砲を扱う腕前は、伊勢水軍の瀧川軍を除いて一般の織田軍よりも上ではないだろうか・・。


「それ以来、六角軍が駐留していましたが、長政様が野良田合戦に勝利し、今は廃城扱いとなっているらしいです」

金森甚七郎が、父・長近から聞いた情報を補足する。甚七郎の姓は、元々は土岐、又は大桑姓なのだが、父の代から近江金森郷で暮らしていたことがあり金森を姓としている。

金森郷は本願寺の根拠地・金森御坊もあり、宗教都市として大変栄えていた。


「地頭山は浅井にとって縁起が悪いですからね・・」

新太郎の言葉に、同行する薬師の惟宗や、大島光成も頷く。

(浅井家は、縁起の悪いこの地よりも、南に押し出した場所にある鎌刃城や、佐和山城を重視する姿勢なのだろう)


そこへ、10騎ばかりの平装姿の武士団が、街道を織田軍に向って手を振りながらやってきた。織田軍に対して戦意はない様子だ。

「使者のようだな、どこの者だ?!」

列の先頭で、於勝が問いただす。

「我は、堀秀村で御座います! 奇妙丸殿はいずこに?!」

執事の樋口直房とともに、連絡を受けた鎌刃城の堀秀村が直接、奇妙丸に会いに来てくれたのだ。


於勝からの連絡を受け、列の後方にいた本隊の奇妙丸も慌てて、森軍の列の先頭まで行き、秀村に対面する。

「わざわざお越し下さり忝い、浅井家中でのお立場が悪くなるのでは? よろしいのですか?」

「堀家は、浅井家中では微妙な立場でして・・、常に離反を疑われており、同僚の今井氏などは、合戦に紛れて味方討ちされたほどです。我々、浅井家の外様は、あの事件から浅井に対して不信感が増しております。

朝妻の新庄殿も帰属を迷っておられるご様子・・・・・。

ただ、この先の中嶋には気を付けて下さい」

「中嶋? 街道の壁は、磯野だけではなかったのか・・」


「ええ、太尾山城の中嶋宗左衛門尉直頼は、浅井家の内衆。我ら外様に対しての軍監でもあります。必ずや織田家に対しても戦いを・・。

この先の中嶋軍に備えて、今は廃城となっている菖蒲しょうぶ岳城がたけじょうに一時入られるがよろしいかと」

「菖蒲ヶ岳城?」

漢字を思い出しながら街道の地図を頭に思い浮かべる。


「もとは味方討ちされた今井氏の拠点でした」

秀村の説明に続き、樋口が情報を補足する。

「古豪・今井家の家臣団は、磯野員昌が解体して、浅井家直属の者と、佐和山城の与力とに別れさせられてしまっています。今は廃城となっていますが、石垣などの機能はそのまま使えるはずです」

「そうでしたか・・。御忠告を有難う、秀村殿。借りができた」


「私は奇妙丸殿に年齢も近く、勝手に親近感を抱いているのですよ」

「私も秀村殿を兄弟のように思いましょう。今後、堀家を悪いようにはいたしませぬ」

「有難う奇妙丸殿、信じます。それでは我らは鎌刃城、長比城に引きこもりますので」

「わかりました」

こちらを気遣い、会いにまで来てくれた秀村の助言は信じても良い。

執事・樋口直房は、握手する両者をみて満足気だった。

一方、握手する手を鋭い目で睨む若武者がいた・・・。

兄の仇討ちに燃える森於勝である。


*********


太尾山山頂、太尾山城の本丸。


城主・中嶋宗左衛門が、物見櫓から織田軍の動きを注視している。

「堀家は戦の備えをしているが、先に織田軍が領内を通過するのを見過ごしている。ここは、久政様に忠誠をお見せして、ついでに織田方にも磯野に並ぶ中嶋あり、と衝撃を与えておかねばならないな・・」


斎藤利三が通過した時は、中嶋自身は未だ清水谷の会議に居たので、織田軍の通過に関わることは無かったが、後続が通るのであれば、断固阻止せねばならない。


自身が織田軍に刃を向ければ、周辺の小領主の新庄や堀も、中嶋に従って後援軍を送らねば立場をなくすだろう。中嶋は磯野が佐和山で前線に立っているが、その後ろ備えとして自分の方が重要な位置にあり、浅井当主から絶大な信頼を寄せられていると思っているので強気だ。


「出陣の準備をしろ、織田軍が下の東山道を通る時に、しかけるぞ!」

中嶋が配下の者たちを叱咤した。

叱咤された部下は、中嶋家譜代の家来衆と、浅井家から中嶋与力を申し付けられた、箕浦土着の身ながら身分が浅井家直属となった今井家旧臣の島、箕浦、岩脇、井戸村家の者達だった。


************


磯野に中嶋・・・

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