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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十九話(郡上編)
327/404

327部:那比新宮神社

那比新宮神社の山門。


ここに至るまでに、前回の出来事で用心深くなった奇妙丸達は、15人編成の強行型斥候部隊を派遣し、目的地に大規模な兵団がいないことを予め確認してある。


しかし、奇妙丸達が到着する頃には、郡上郡領主の西遠藤家当主・遠藤盛枝が、大規模な山津波の連絡を聞いて兵を差し向けてきていた。郡上の水源地での出来事でもあり、上流から濁った水が流れてきたことにより、既に城下町では大変な騒ぎとなっていた。


「待たれよ! 何者だ?!」

武装した警備兵が、既に新宮神社に到着している。


「我らは織田奇妙丸軍。故あって白山長滝神宮に詣でる途中だ。そちらは何者だ?」

武田衆に代わり、先陣となった黒武者衆の先鋒・山田弥太郎が、衝突を避けようと、挑発せず落ち着いて返答した。


「郡上の領主・遠藤家の者です」

相手の隊長も、無駄に織田家と事を構える必要はないので冷静に対応する。


「この先の本宮神社が山津波にあい、大変な被害にあっている。また、本宮の本尊や貴重な仏像をこちらに避難させようと持ってきた。我らは新宮神社に神仏の像を移したい。通らせてもらうぞ」


「いや! ここからは郡上の掟に従い、軍勢はこれよりは中に入らぬように願いたい」

「ここが、遠藤家の関所ということか?」


先頭の列が動かなくなったので、奇妙丸が直接、守備の隊長と交渉しようと前列までやってきた。更に、次々と幹部達までやってくる。


「私は織田家嫡男の奇妙丸。我々は白山長滝神宮に向かわねばならぬ。しばし、新宮神社にて休息を取らせてもらいたい。それに、白山は越前朝倉家との国境にも近いため、我が兵を連れぬ訳にはいかぬ」

「織田奇妙丸様ですか・・・。

私の一存では決めかねぬことです。それでは、ここで休息を取ってお待ち頂いて、本城に使者を送り、ご領主・盛枝様に直接お会いして許可を取って頂けませぬか?」


「私は竹中半兵衛、遠藤盛枝殿とは相婿。義兄弟の関係だ。私が盛枝殿の使者となろう」

半兵衛は、自分が行くことが、一番話が早いと分っているので率先して志願した。

「私は武田家家臣の武藤喜兵衛だが、私も半兵衛殿に同行する」

喜兵衛は、遠藤盛枝という人物が、武田家にとって利に足る人間かどうか、見極める良い機会だと感じた。


「竹中殿に、武田の武藤殿まで? では此処にて、しばしお待ちください。部下が直接報告してまいります」

隊長は慌てて、本城へ使者を走らせた。一方で、奇妙丸達の証言が本当か確かめるため、山津波の起きた本宮神宮の状況を確認する部隊を送った。


********

24日敦賀気比神宮、信長本陣。


「まだ、抜けぬのか! 池田、三好、松永の先陣衆は、命懸けの働きをしているのか?! 粟屋越中守が見ているのだぞ!!」

信長の怒声に畏まる池田・三好・松永の伝令。

粟屋越中守等の若狭の武者達は、佐分利石山城の留守居を務めている。降服退去した武藤の残党が、戦況を見て、反織田として再蜂起した時に備えての守備だ。


「森! 坂井! 生ぬるい上方の奴等に織田の城攻めを見せてやれ!」

「ははっ!」

「賜りました!」


織田家の重臣、森三左衛門可成とその息子・伝兵衛可隆。坂井政尚と、久蔵尚恒が立ち上がる。

可隆は指名されても恐怖で怯えることはなく、戦う覚悟を決めた表情をしている。四人は諸将に一礼し、本陣の帷幕から出ていく。


「信長様のお気に入り、森殿と坂井殿が出るぞ!」

「信長様の本気の城攻めが始まるぞ!」

本陣の作戦会議の様子を伺っていた、侍大将や足軽、小者に至るまで、親方たちの動きから、いよいよ織田家の主力部隊が動き出すと沸き立ったのだった。

「森殿は尾張に居た頃から柴田や佐々殿が離反した時も、信長様の無二の忠臣として、武者働きをしてこられたお方だ! 今や、京に一番近い街道の要衝・宇佐山の城主様だ」

「坂井殿は、東美濃攻めに一日で数城を落とす離れ業や、最近では但馬の雄・山名家の内紛を平定された輝かしい武勲を立てられている」

「尾張清州の宿老・森と坂井の姓を継ぐ、お二方の城攻めだ、これは見ものだぞ!」

従軍者の誰もが、森軍、坂井軍の軍旗の動きを目で追った。


可成と政尚の両者がサイコロを振り、森軍は手筒山の搦手を、坂井軍は大手を攻めることになる。

本陣から手筒山へと向かう道中のこと、

「父上、私が一番槍の功名を立てて見せまする!」

伝兵衛可隆は父・可成に決意を伝える。

「うむ。お主が日頃鍛錬に励んだ成果を、今こそ見せる時だ!」

「はいっ!於勝たちの為にも、私が森家の武名を引き継いで見せます」

そこへ、久蔵尚恒が馬を寄せる。

「手柄は独り占めさせないぞ」

伝兵衛に競争心を燃やす尚恒。しかし、以前ほど可隆に食って掛かる様子はない。

「久蔵、負けぬからな」

義理の兄弟となる久兵衛・尚恒と、拳を合わせる可隆。

「ぬかせ、次に会ったら武勇談を聞くのを楽しみにしている」

と返し、久蔵は坂井軍の下へ去っていった。


信長が、両家の縁を取り持ったおかげで、二人は良い義兄弟になれそうだ。

二人の若者のやりとりを見た可成は、

日頃、鬼とよばれる武将の顔ではなく、父親として我が子を見守る優しい男の顔になっていた。

今までは、何かと比較される森と坂井の両家ではあったが、これからは両家の新しい関係が始まり、織田軍団の双翼として可隆と尚恒が成長していくことを思い描く。


(政尚も同じ思いだろう。二人とも、死ぬなよ)

鬼三左は、この命に代えても、これからの若者達を守らねばと決意するのだった。

*********


フラグが、フラグがっ

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