317部:蓮華峯寺
高賀神社・蓮華峯寺の境内。
「これが西高賀山、 蓮華峯寺か・・」
広大な伽藍の壮麗さに圧倒される森一郎左衛門。
「篝火はそのままたかれているが、誰もいないようだな」
次に白武者衆を率いる楽呂左衛門と森九郎左衛門高次、そして黒武者衆の大将・山田勝盛が合流する。
「我らがついた時には、伽藍の中は“もぬけの殻”でございました」
状況を報告する森一郎左衛門。
「かなりあわてて、本拠地に撤収したようだな。ただ伏兵があるかもしれぬ、周囲の警戒を怠るな」
一郎左衛門は、楽呂左衛門に頷いて配下へ指示を出しに行く。
「さて、これから長屋軍を追いますか? それとも、奇妙丸様をお待ちしますか」
楽呂左衛門が、同僚の山田勝盛に聞く。
「斎藤内蔵助は麓の森で落ち武者狩りを好き勝手にやっているようすですな」
森高次が見解を添える。
「我々は長屋を滅ぼすことが目的ではない。ここは、奇妙丸様の下、全軍を高賀に集結させて仕置きを決めて、情勢の安定を図るべきだと思う」
山田勝盛が、自分の考えを提示する。
「同意」
「同意」
「うむ。それでは境内の状況をみて、それぞれの陣所の整備に入ろう」
広い境内の守備の範囲を割り振り、白黒各隊長が担当部署に兵を引き連れていった。
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三枝館。
「武藤様、お待たせしました」
「おお、来たか」
武藤喜兵衛の要請によって、関に駐留している武田若宮軍が援軍に来た。
喜兵衛の影・出浦出羽守が、手を回していたのだ。
援軍として到着した武田駐屯軍が加わり。三枝家の甲斐国色の強い軍団の陣容が整う。
「それでは、我らも出発いたしましょう」
三枝三郎右衛門が姉妹を案内する。
「武田衆も供奉いたしますので、ご安心を」
武藤喜兵衛が、用意した籠の前でかしずく。
「ありがとうございます」
武藤喜兵衛に丁寧に頭を下げるお慶姫。
姉妹はそれぞれの輿に乗り、これに竹中衆、三枝衆、武田若宮衆が従う。その数、あわせて二千。
軍勢は板取川に沿って高賀神社を目指した。
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山岸軍の駐留地。
奇妙丸を襲撃した木地衆を、山岸軍が出迎えていた。
首領の小椋雉六郎が、本陣に報告に現れる。
「雉六郎、ご苦労だった。奇妙丸の旗元衆は、なかなかに手強かったようだな」
山岸光信が労う。
「はい、若年のものばかりでしたが、良く訓練されていました。我らの先鋒に多くの負傷者が出たので、無理をせずに撤退して参りました」
雉六郎が、率直な感想を述べる。
「次代を担う選りすぐられた若者ばかりなのでしょう」
山岸光信の姉・お貞御前は、木地衆の働きに納得しているようだ。
「奇妙丸はいたのか?」
光信は、織田家の跡取りの実力が気になった。
「それが・・、我こそは奇妙丸と名乗りを上げるものが数名いたそうで、いずれも手強かったそうです」
「影武者か・・」
影武者は、主君の為に命を捨てる覚悟がなければ勤まらない。
「忠義の心もたいしたものだな」
奇妙丸の傍衆達の忠誠心に感心するのだった。
「奇妙丸には、山ノ民の存在を記憶に刻み込ませることができたのではないでしょうか。
それに、高賀社蓮華峯寺を占領していた長屋軍は引き上げたようですね」
お貞御前が、高賀山各地の戦況を分析する。
長屋と三枝を争わせたことで、長屋軍を排除することが出来たので、高賀神女の位の争奪戦は山岸と三枝の二派の争いに絞られた。
神器を手に入れるためには、これから三枝の動きを監視し、横取りすることが一番の早道だろう。
「山岸軍は高賀の北、那比本宮へと先回りすべし」
お貞御前は、次の行き先を決めた。
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