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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十七話(高賀山,前編)
310/404

310部:逆襲

*******

楽呂左衛門本陣・白武者衆陣所近く。


「あともう少しで館です。頑張って」

桜が周りを気にしながら、二人を励ます。

「はい」

息を切らせながらも健気に答えるお良姫。

お慶姫も疲れてはいるが、妹の前で弱音は吐かないと頑張っている。


背後にキラッと閃光が見え、桜が短刀を抜き、金属音を立てて弾き返す。

「おいついた!」

「澪!」

姉妹の前に立ち、盾となる桜。

「ここは私が、先に行って下さい」

「いえ、桜を置いて行くわけには」

黒川衆が、三人が抜けてきた草むらの中から続々と現れ、周囲を取り囲んでいこうとしている。

「ふふ、三人とも、逃げられると思っているの?」

「煩い!」

桜が澪を睨みつける。

自分が犠牲になっても、姉妹を必ず助ける!と唇を噛みしめて思う。


「桜ぁーーーーーー!」

草原の向こうの林の中から、騎馬武者が二騎飛び出してきた。

兜を深く被り、頬当てをつけているので一見誰か分からないが、聞きなれた声からは金森だとすぐに分かった。

「甚七郎さん!」

完全武装の騎馬武者の一騎は、金森甚七郎だった。

「もう大丈夫だ、桜!」

「新太郎さんも!」

もうひとりは、姉妹の護衛を任せられていた佐治新太郎だ。

二人とも黒川衆にあっさりと姉妹を攫われたことに責任を感じていて、抜け駆けして飛び出してきたのだった。

「今度は負けん!」

騎馬に乗った金森甚七郎が黒川衆に向かって叫ぶ。

佐治甚七郎も桜達と黒川衆の間に割って入る。

「逆襲する!!」

完全武装した二人が騎乗のまま黒川衆に突入する。


黒川衆が手裏剣を投げつけてくるが、槍ですべて払い落とし、2騎で集団の中に割って入り、問答無用に黒川衆を槍でなぎ倒していく。

黒川衆は、騎馬武者を止めようと騎馬を攻撃するが、馬鎧を装着しているので攻撃が通用しない。

「こいつら飛び乗ろうとするぞ」

「母衣をしょってきてよかったな。武者には武者の戦い方がある!」

槍が返り血で滑り始める。

二人同時に、眼前の隠密に槍を突き刺し、次に腰元の太刀を抜刀する。

「この金森家の来国次の銘にかけて、今度は後れを取らぬ」

甚七郎が気合を入れ直す。

「俺は、佐治家伝来の相州正宗にかけて、二度と負けん!」

新太郎と甚七郎の目が合った。

「いくぞ!新太郎。おりゃ!」

「おう!!」

再び、集団の中に乗り入れる二人。


「我らも加勢する!」

桜が、遠くから声がしたほうを振り向く。

「大島殿! お客人まで?」

奇妙丸一行の客将・客人である大島新八郎光成と惟宗が、先駆けして先行してしまった佐治と金森を心配して、後を追ってきたのだが、これも何かの縁とばかりに加勢に加わった。


「弓には自信があるのですよっ!」

凄まじい勢いで大島の放つ矢が飛んでくる。父・大島光義譲りの強弓使いだ。

大島光成の腕前に感嘆する惟宗。

「やりますね。私は商人あきんどですが、鉄砲ならばすこしたしなみが」

といって鉄砲を構え、素早く狙いをつけて発砲する。

そして、光成が弓をつがえる速度にやや遅れて、惟宗が発砲する。

早業はやわざで次々と連射する芸当は尋常ではない。

(火縄銃をここまで駆使できる者が、ただの商人であるわけがない)と隣の大島光成の脳裏をよぎったが、ここは心強い味方だと考えなおし、敵を射ることに集中する。

黒川衆は、乱戦の中で次々と射抜かれ、撃ち抜かれ、明らかに分が悪い。

「くそっ!退け!退けっー!」

「命拾いしたわね桜!」

「澪!」

ドン!という轟音とともに、煙幕が黒川衆の足元から各所で起き、あたり一面霧がかかった様になる。

風が吹いて、煙を流し去った時には、黒川衆の姿はまったく見えなくなっていた。


*****

三枝館を囲む長屋軍。  


三枝の館は、普通の武家屋敷といってよいほどのものだが、奇妙丸のそばにいる竹中半兵衛による的確な指示で防御は鉄壁のようだった。

半兵衛直属の50人が、半兵衛の指示を漏らさず前線の兵士たちに伝えていき、手足のように軍勢を動かしている。

「流石、半兵衛殿。見習うべきところが多い」

「実践の中でしか学べぬこともあります。よく敵味方の動きを見ていてください」

「わかった」

奇妙丸は大将として、腕組みをして腰掛けているだけだ。


「くそ、まったく近寄れぬ」

悔しさに采配を噛む長屋久内。

長屋軍は力押しに、館に攻め込もうと小川を越えて、空堀まで近づいたところで、織田軍の鉄砲の一斉掃射にあい、夥しい被害を出して元の陣場まで引き下がっている。

「久兵衛!法蓮坊に神輿を前面に出して突撃しろと伝えろ」

「はっ」

「一糸乱れぬ鉄砲隊の扱い。三枝に誰か助っ人がいるのか?」

「あのう、あの紫の旗なのですが」

「おう、あの旗が誰のものか分かるのか」

「岐阜城にいる、織田奇妙丸の旗、それに九枚笹は竹中半兵衛ではないかと」

「奇妙丸に竹中だと!!」

驚いて愕然となる久内。

「信長の嫡男が、どうして竹中と一緒に此処に・・・・」

信長は京都に居て、今が私闘をする絶好の機会と考えていた。

が、織田家の跡取りと一緒に竹中半兵衛が関与してくるとなると、後々に尾をひく面倒な問題にもなりそうだ。

竹中は又守護代の長江家の分流、岩手家から分かれた家だ。いわば長屋氏と同族でもある。

「しかし、もう戦ははじまっておる・・」

(長屋家をとり潰し、竹中を取り立てる可能性も・・・)突然、将来の不安に駆られる久内だった。


高賀法蓮坊の陣。

「お断り申しあげる。我らも先鋒組がほぼ全滅した状態。神輿にこれ以上の傷をつけるわけには参らぬ」

「しかし、あの鉄砲を黙らせるには、虚空蔵菩薩や十一面観音のご加護がなければ・・」

「元々は長屋家の戦。儂は神女姉妹のうちどちらかを室にできるという条件にて軍勢に加わったに過ぎぬ。本当に姉妹はいただけるのか?」

「それは景重様もご了承のことと」

(くそ坊主め!!)

心の中で悪態をつく久兵衛。

「そうだな、姉妹を二人とも室に迎えれるのであれば、神輿を出してもよいがな」

「持ち帰ります」

(色欲坊主め!)

久兵衛はもう一度心の中で悪態をついた。


******


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