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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十七話(高賀山,前編)
309/404

309部:飛翔

六角堂の屋根上。


「用意できました」

桜が竹を割って骨組みを作り、布を張って完成させた大凧を披露する。

「三人の体重ならばこの大きさで大丈夫なはずです」

お慶姫が頷く。

「それでは、風を呼びます!」

「お願いします」

姉妹二人が集中すると同時に、どうしたことか屋根に噴き上げてくる風が強力になり、三人の体が宙に浮き始める。

「いけそうです、飛びます!」

桜が短刀で凧を固定している綱を切る。

「「はい!」」

目いっぱいに風を受けて、三人を乗せた大凧が天空に舞い上がる。

乗せるといっても大凧をあやつる桜を中心に、姉妹二人はしっかりと凧に身体を括り付けられている。

「飛んでる!本当に飛んでるよ桜」

「ええ!飛んでます!」

「こんなに高く舞い上がるなんて!」

姉妹は二人とも、初めての体験に無邪気に興奮している。

「しっかりつかまって!」

桜は、凧の三人乗りは初めてなのだが、二人に怖い思いをさせてはならないと思い、両手で必死に舵を取って凧を操っている。幸い二人の能力のおかげで、安定して強力な風の援護を受けている。

「すごい忍術があるのね」

「はい、でも二人の力のおかげです!」

「うふふ、雨乞い以外にも私たちがお力になれることがあるのですね」

「はい。でも、無茶をさせてすいません。ちゃんと着地させてみせますから」

「はい、信じていますよ」

三人娘を乗せて、大凧は空を滑空してゆく。


*******

三枝の居館。


出陣の準備が整い、あとは奇妙丸が号令するだけになった時、

「奇妙丸様! 片知山の尾根にどこかの軍団が陣取っているようです」

黒武者の頭・山田三左衛門勝盛と、副官の山田弥太郎が鎧の金属音をたてながら、中庭に慌ただしく駆け込んできた。

「なにっ?」

壁向こうの山頂をみると、朝焼けの光とともに、山頂に確かに無数の幟が見える。

「奇妙丸様、あれは長屋衆の幟でございます」

半兵衛が進言する。

「お婆様の実家か?」

三枝が頷く。

「どうやら力技で神女を奪取しようと決めたようですな」

「う~む、ここに姉妹はおらぬが、説明しても聞き入れまい。迎撃態勢を整える、時間を稼ごうぞ!」

「おう!」

立ち上がる山田勝盛。

「お待ちください!」白武者の頭・楽呂左門が戻って来る。

「どうした、呂左衛門?」

「我ら別動隊として、邸外にて待機してもよろしいでしょうか」

「何か、策でもあるのか?」

「他からの援軍は望めませぬので、味方の退路の確保をしつつ、援軍の様に敵に見せる事も可能な位置に陣をかまえます」

「うーむ。敵の矛先が先にそちらに向えば全滅の可能性もあるぞ」

「そうなれば、徐々に引いて館から引き離しますゆえ、敵軍の後背をよいところで急襲して下さい」

「なるほど、兵糧の備えも少ない我らが館に籠城するよりも、短期決戦で決着をつけるべきか」

「はい」

「わかった、出よ」


こうして、館から一里ほど離れた谷あいに、楽呂左衛門率いる白武者が陣取る。

百人を鯰江ノ森高次と子息の兵吉と勘八が率い、五十人を鯰江一族の森一郎左衛門吉成、残りの五十人は呂左衛門が自ら率い、先・中・後陣の三組に纏められていた。


*************

三枝館。


「頼もう!私は長屋家家臣、長屋久兵衛と申す。三枝殿、開門されよ」

「三枝三郎右衛門だ」

三枝三郎が、門櫓の上から使者に答える。

「話がある!開門されよ」

「あそこの山で陣を張っている者達はなんだ。戦のつもりならば、門を開けるわけがないだろう」

伏兵が潜んでいて、門を開けると同時に乱入してくる可能性がある。常識的に三枝三郎は拒否した。

「ふん、話を聞く気がないと」

「長屋の爺に帰って伝えよ。我ら先祖代々お山を守る勤めのもの。お山をわがものとし高賀を再び戦場にするのならば、長屋に天誅が下るとな」

「ならば、お主がおとなしく姫達を差し出せ」

「神女は聖域だぞ、決して害してはいかん。忘れたのか?」

山の掟は、信者ならば誰もが知っていることだ。

「ならば三枝が占有するのはおかしいであろう」

「何を言う、占有などしておらん。姫達を守護するのはお山に仕える家の務めだ!」

「ならば、我ら長屋が預かる!」

「それはできぬ!」

「埒があかぬようだな・・」

「・・・」

三枝を睨みつけ、門に向かって唾を吐く長屋。

「首を洗って待つが良い!」

長屋が馬の手綱を引き反転させ、鞭を入れて引き返す。


「行ってしまった・・」

「奇妙丸様、巻き込んですみませぬ」

隣にいた奇妙丸に頭を下げる三枝三郎。

「私闘ではあるが、美濃の今後を左右する一大事。介入しないわけにはいかないだろう」

奇妙丸は長屋軍と戦うことになると腹を据えた。


******

佐ケ坂山砦


六角堂のある曲輪一帯を警備していた衛兵が、戸の隙間から明かりが入るように工夫しながら、暗いお堂の中を覗き込んでいる。

「何事だ? 姫様達が驚くではないか」

「それがその、大変なのです、姫様達が見当たりません」

「何?!」

駆け寄って、六角堂の鍵を慌ててあける藤田伝五。

「どこへ消えた、神隠しか?」

「わかりませぬ、が、屋根に手綱が結ばれているようなので、綱を伝って外へ逃げたかと・・」

「綱は切れているではないか、一体どうやって? ・・・しかし、外から何者かが手引きしたのかもしれぬな」

砦を警護する斎藤家の者たちは責任を感じ、上司からの折檻におびえる。

「あの、明智様は?」

とりあえず、首領の判断を仰ごうと藤田伝五に恐る恐る聞く。

「既に京に出立されている」

「もう?」

「お忙しい方なのだ。ここは我らで対処するしかあるまい」

そこへ、知らせを受けた斎藤利三がやってきた。

「どうなさいます利三殿」

「行く先は判っている。再び三枝の館に向かうのだ!」

「はっ!」

利三配下の斎藤衆が応える。

「待て、小競り合いになるやもしれぬ。全軍、合戦支度で出陣だ」

「「ははっ!」」

砦の物見櫓から、出陣を知らせる太鼓が鳴らされ、俄かに砦周辺は騒然となった。


*******

数刻後。

屋敷の屋根に上り、館の周囲を見渡す奇妙丸達。

伴ノ三郎が様子を伝える。

「長屋軍、館を取り囲む布陣を完了したようです」

武家造りの様式で、館の周囲に掘られた空堀や天然の小川の向こうに、山から麓に降りてきた長屋軍が整然と陣取る。

「なかなか壮観だな。三千近くの殺気立った軍兵に囲まれたのは初めてだな」

「高賀山の僧兵も加わっております」

「あそこの一軍だな・・」

僧兵たちは、虚空蔵菩薩や、十一面観音の描かれた幟や、仏教の経典から抜粋された呪文を書いた幟を持っている。

神聖な神輿をも戦場に担ぎ出している僧兵たちに対して、自分達が間違っているのかと疑問に思う兵士もいるかもしれない。

自分たちは間違っていないと言い聞かせる必要がある。


「彼らの行いは、神仏の道理に適っていると思うか!?」

奇妙丸が館全体に聞こえるように叫んだ。

「「思いません!」」

兵士たちが応える。

「ならば、討ち果たしても天罰を受けることはない! 皆の者、恐れるな! 鍛錬の結果を出せ!」

「「おうっ!!」」

館を囲む塀から、織田奇妙丸軍の鉄砲の銃口が一斉に敵に向けられた。


*******



yahooジオシティーズの閉鎖により、忍者にHP「天下侍魂」の移転を試みましたが、

データの変換に失敗して表示されなくなってしまいました。

少し動揺しています。

今後、どう復旧するかが悩みです。

仕組みが良く分からないので、このまま閉鎖かもしれません・・。


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