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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十六話(関・安桜山編)
292/404

292部:関鍛冶 七派

*****

関城下町、春日神社境内。


「若様、これからどこへ向かわれますか?」

金森甚七郎が奇妙丸に問う。

「私はこれから光成に神明神社へ案内してもらおうと思う。お主達は自由行動でいいぞ。関の城郭内では、泉神社の時の様に襲撃に会う事もないだろう」

横に居る伴ノ桜をちらりと見る。

(兄たちが周辺に控えているので大丈夫だと思います)と桜は目で返事する。

「私はお供します」

桜の進言に頷く奇妙丸。

「光成、案内してくれるか?」

「もちろんです!」

大島光成は嬉しそうに頷いた。


そこへ、於勝が奇妙丸の前に進み出て片膝をつく。

「若様、関の刀槍市を訪問してみても良いでしょうか?」

いつも必ずや奇妙丸の傍に控えている於勝にしては珍しい申し出だ。

「我が兄・可隆の為に、“天下無双の槍”を購入したいのです」

於勝の兄・可隆は、此の度の信長軍の一員として上洛している。

「うむ、それは良い。兄上殿も喜んでくれるのではないか」

於勝の自由行動を許す奇妙丸。

「兄には「槍林殿」と呼ばれる林新三郎にも負けぬ軍功を立てて、織田家の「槍ノ森」と名を立てて欲しいのです」

「南進する奥州北畠顕家軍を討ち破った”土岐千本槍”の発祥地だ、きっと良い槍があるだろう」

「はい!」

於勝は良い返事をして疾風のように駆け出して行った。

「あっ! 行ってしまった」と於八。

楽呂左衛門が、於勝と入れ違いにやってきた。

「何か、焦っているようだな・・」於勝を見て呟く呂左衛門。


「兄のために必死なのだ」奇妙丸が於勝を庇うように弁護した。

「では、私は街中の鍛冶場で披露している”相槌あいつち打ち”という鍛冶の様子を見てきます」

「わかった、楽呂左衛門はどうするのだ?」

呂左衛門は背後を指して、与力の鯰江ノ森高次親子を示す。

「私は森親子と実戦向きな”腰ノ物”をみつくろって参ります」

「うむ」

「私も連れて行ってください」と於九。楽呂左衛門の下に森一族が従う。

「「それでは!」」

奇妙丸は、それぞれの背中を見送った。



****

春日神社、門前町。


大手参道前には鍛造品を扱う刀剣屋や、鋳造品を扱う鋳物いもの屋の商店が軒を並べている。道路に面した屋敷が商売の場で、裏に屋敷地、搦め手道に面した建物は器材を保管する土倉が連なる。

商品を生産する場は、周辺の村落に分散し、鍛冶屋がここで直接的な鍛冶工場を行なっていることはない様子だ。


刀剣商・飛騨屋。

(ここが一番大きな店構えをしているな。よし、この店に決めた!)

「頼もう!!」

於勝が勢いよく門をくぐる。

「どうなさいました?」店番がいつもの客と同様に、於勝に対応する。

「関刀工の槍で、無双の名物はどれだ!?」

若侍の生意気な問いに内心ムッとする店番。

「うちの刀槍はどれも名刀です。それに刀一本は馬一頭と同じ値段がしますよ」

店内を見回して、槍の並べられた一角に向かう於勝。

柄の長さと刀身の形ごとに並べられた物の中から、十字槍を手に取り、おもむろに店の柱を一突きして刺す。

「貫通しないな。中途半端な名刀などいらぬ! 求めるのは至極の一槍だ」

とはいえ、於勝の刺した槍は十文字刃先の中程までは柱に食い込んでいる。


「こちらの商売品を中途半端とは、お主、生意気だな、どこの若造だ?」

柱を傷付けられ、店番はすっかり機嫌が悪くなり、声の調子も低くドスの効いた声色に代わる。


「織田家家臣、兼山城主・森三左衛門可成の次男、森勝法師だ!!」

「森の若造か!礼儀がなっていないな」

名前を聞いたところで、もう引き下がる気はない。

「そのような細腕で、我らの作った槍を使えるのか?!」


「何をぬかす!こうみえても織田奇妙丸様の傍衆では一番の武辺者だぞ!我の主も貶すのか?!」


「お主とは話にならぬ。売れる槍はない! とっとと出て行け! それでも欲しければ主と土下座しに出直して来い!」

「うぬぬぬ・・・」


「どうかしたのか?於勝」

そこへ刀商街を見て回っていた奇妙丸の傍衆、佐治新太郎達が現れる。

新太郎はたまたま店に入って来ただけなのだが、

客側の人数がふえたのを見て、劣勢となるのを心配したのか、刀商の店の奥から若手の店番達がぞろぞろと集まって来る。

さらに丁稚達が、通りの店々に触れ回って、各店舗から加勢が駆け付けてくる。こういう客との騒動の時の為に商人たちは提携を組んでいる。

刀商街は異様な緊張感に包まれ始めた。


「待てい、待てい!」

騒動を制するべく、重く引き締まった声が響く。

「これは、白江様」

加治田斎藤家の重臣・白江権左衛門が暖簾をあけて現れた。


・・・白江は、美濃加治田佐藤氏の旧臣で、城主・佐藤紀伊守忠能の率いる加治田衆の中でも勇士として名を知られている。現在は信長の命により新城主となった斎藤長龍の与力となっている。白江は長龍の命を受けて、関の代官・大島のところへ軍事物資の発注に来たところだった。


「森勝法師殿にも槍を手に入れたい理由があるのだ。私が立ち会うので、良い刀工の槍を見せてくれぬか?」

「白江様がそうおっしゃるなら・・」

加治田の豪傑でもある白江の名は、関の者ならば誰もが知っている。


「勝法師殿もそうカッカとならず、落ち着かれよ」と於勝の肩に静かに手を置いて諭す。

「うむ」

柴田勝家と同じ様な英雄の雰囲気を持つ人物の登場に、於勝の怒りはどこかに去ってしまった。


******

白江はじめ、於勝達は店番に案内されて、店の搦め手から出て路地を進み、広大な敷地を持つ屋敷へと案内された。


大広間に通された一行。そこへ、白覆面・白装束に身を包んだ七人が入室して来た。

中央に座す片目だけが開いている面を付けた人物が一声を発する。


「ここが、鍛冶座で御座る」


「関鍛冶七派とも、七流ともいう美濃刀匠の中心集団だ」

白江が於勝に解説する。

白江の監督の下、於勝は春日神社鍛冶座の七人頭衆と面談したのだった。

惣領・兼定派の屋敷が、春日神社氏子達の会合場所であり、鍛冶座の本拠地だ。

正面に座り、単眼の面で顔を隠した人物が、おそらく座主の兼吉なのだろう。


・・・・刀匠たちは、それぞれの流れによって、善定派(兼吉)、室屋派(兼在)、良賢派(兼行)、奈良派(兼常)、得永派(兼弘)、三阿弥派(兼則)、得印派(兼安)の七派を形成し、関周辺に鍛冶場を開いて割拠している。七派は鍛冶座を造り団結しながらもそれぞれの技を競った。これを「関七流」と呼んでいる。


「用件は分かりました。織田家の重臣の御子息ならば無下にも扱えますまい」

兼吉が手を叩くと、七本の槍が広間へと運ばれて来た。どれも見事な槍が於勝の前に次々と並べられる。

「ここにあるのが、七派が打ったそれぞれの槍に御座います」



「残念だが・・・・、俺の求めるものではない」

於勝の言葉に驚く新太郎に、白江。

槍武功を目指すものならば、誰もが一本は手元に置きたいほどの名槍揃いなのは一目で分かる。

「装飾が足りませぬか? 関の刀槍は、質実剛健な実用刀ですからね」

「違うのだ、私の求めるのは父の持つ兼定銘の様な十文字槍! 無いのであれば誰か特別に打ってくれぬか!」


(あぁ。兼定か)

という表情で、首を振る七派刀匠達。


「残念ですが、我らがご用意できるものはありませぬな」

七人衆は一斉に席を立ち、広間を退出して行ってしまった。


呆然と見送る於勝に新太郎。

於勝の一言が、刀匠たちの気分を害してしまった様子だった。


******


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