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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十六話(関・安桜山編)
288/404

288部:焼きもの

長良川の流れに沿って中山道を東へと進む奇妙丸一行。


前衛は山田勝盛の率いる黒武者500人。二陣は竹中重治の率いる50人。中央に奇妙丸本陣の傍衆50人。後陣は楽呂左衛門と森(鯰江)高次の白武者200人が固める。


奇妙丸の前後には於勝に於八。他に生駒三吉、森於九、池田正九郎、金森甚七郎、佐治新太郎が付き従う。それに男装した伴ノ桜も騎乗の人だ。

「若様、旅の道中、お傍から離れませんからね」

清洲城代から傍衆に復帰した生駒三吉が、奇妙丸の愛馬・大鹿毛に乗馬を寄せる。

「いつも、於勝ばかりずるう御座る」森於九(可成の弟、のちに可政)もその反対側に馬を寄せて、奇妙丸の両側を囲む。

「俺はいつも必死に奉公しているだけだ」

於勝が振り返り、一族の於九に対して抗議する。

於勝はしっかりと聞き耳を立てていた。

「何?俺が必死じゃないとでもいいたいのか?」

反論する於九。

「はっはっは、お主等の気持ち、分った、わかった。有難う!」

奇妙丸が二人を宥める。


今度は、佐治新太郎が奇妙丸と於九の間に馬を入れて割り込んできた。

「若、私も若の御前で活躍がしとうございます」

金森甚七郎が、生駒三吉と奇妙丸の間に馬を入れる。

「お主は、一条様との仲で活躍しているではないか」

「その言い方には棘があるな?」

「お主は、さきの海賊弥富党との戦いにもそこそこ活躍して、美濃に滞在されていた関白・一条様にも気に入られているからな」

「甚七郎は俺に嫉妬しているのか?」

「主を間違えるなよと言っているのだ」

「俺の忠誠を疑うのか? 私の主は、奇妙丸様だけだ!」

「丸毛家、稲葉家、三条西家、一条家の繋がりは我らから見れば異色そのものだ」

「土岐家庶流の金森にとっては、貴族との付き合いは鬼門だからだろう?」

「何を!」

甚七郎が気色ばむ。


「お主達の忠義心、よく分かった。これからも宜しく頼むぞ」

それぞれの家の系譜の事を持ち出すと話がややこしくなるので、奇妙丸が仲裁に入る。数世代前の先祖の所業は子孫にも重くのしかかる。


・・・・南北朝の始め、美濃源氏の惣領でありバサラ大名で有名だった土岐美濃守頼遠が、酒に酔った勢いで、京都の路上で光厳上皇の牛車に矢を射かける狼藉を働いてしまい、足利尊氏の有力な御家人ながら、切腹の命を受けてしまうことになった。土岐頼遠にとっては、京都朝廷の為に鎌倉幕府の討幕に多くの一門子弟を失いながらも働いた軍功を朝廷に認められず、足利源氏の下風に立った口惜しい思いが募っての結果だったのだろう。金森家は土岐家に養子に入った一色成頼からの流れだが、一色家も京都で度々私闘を演じ、都を混乱に陥れていた為、公家衆からは忌み嫌われていた。


「奇妙丸様が分かってくださるならば、私はそれでよいです」

互いを睨み合う於九に於勝、それに金森と佐治。

「若様は、慕われておられるのですね」

桜が皆の気持ちを評する。雲を見上げる奇妙丸。


「旅に出たばかりなのに先が思いやられるな」

後ろからひいて傍衆達の様子を眺める池田正九郎。



先鋒、黒武者衆を率いる山田三左衛門勝盛に、副官の山田弥太郎が従う。弥太郎は信長馬廻りから勝盛与力に新たに配属されて来た。

現在の信長馬廻りには山田左衛門尉が残り上洛戦に従っている。


黒武者衆は勝盛が抜擢した頭(指揮官)が四人に定まる。黒武者でも知勇に優れた浅野左近盛久、笹川兵庫頭、桜木伝七、山口半四郎の面々である。

勝盛に先の弥太郎と合わせて、弓三・銃三隊 かしら六人衆*と呼ばれるようになっていた。


更に、新参の竹中半兵衛重治とその郎党16人衆を中核とする50名の精鋭・槍衆。


隠密は、桜の兄・一郎左衛門が率いる甲賀・伴ノ衆が任務を遂行している。


後陣、白武者衆を率いる楽呂左衛門に従うのは、副官の森高次(その息子の重政・高政兄弟)親子と、その一族の森一郎左衛門(のちに森吉成、又の名を毛利勝信)率いる二百人。

彼らには、最新鋭の南蛮銃が支給され、呂左衛門がその指導に当たっている。

一郎左衛門は銃器に対して興味を持ち、呂左衛門へ特に師事を願いでて、火器、馬術、操船についても秘術を受け継ぐ。

(後に森(鯰江)家の武将達は、豊臣家の大陸侵攻に重大な役割を担う)


これに、今は志摩に残って軍船を製造している弥富服部党を率いる服部政友や、松姫の護衛兼、通信の使者の役を担う黒幌武者・川尻下野守吉治。信長に従い上洛し信長傍衆の中で小姓修行をしている高橋虎松に三宅与平次が加わった人数が、現時点での奇妙丸の傍衆の全容といったところだ。


*****

美濃の要衝・関城を目指して長良川を上流に向かう奇妙丸一行。


右手に清水山、左手に番場山が見られる。

番場山の傍らを抜けると、関城の監視域に入る。

東美濃攻略に大いに活躍した信長の義弟、丹羽五郎左衛門長秀が城主となっている。


「今回は、ハルニレ茶屋には寄れなかったな」

奇妙丸が一年前の旅の行程を思い出し、ハルニレ茶屋の

「確か看板娘のあの娘の名前は」

と記憶を辿る奇妙丸。


「秋さんです。お秋さん」と於勝が答える。

「確か、於八の熱烈な信奉者だったの」


「今年も私に期待してくれています」と於八はまんざらでもない。

「今年の福男は私がとる約束です」と於勝が宣言する。


「そう易々と譲り渡す訳にはいかぬな。というか誰と約束したのだ?」於八が於勝に聞き返す。

「お千代さんです」於勝が胸を張る。


「於台屋お千代さんは、その後どうなったのだ? 知っているか?」

奇妙丸が於勝に尋ねる。

「お千代さんとは文を交わしていますよ。女友達の一人としてですけど」

「於勝に女友達はそんなに沢山いるのか?」

「いっ!いますともーーーー!!!」

「例えば誰だ?」

「池田姉妹に、桜でしょ、お千代さんに、冬姫様ですよ」指折り数える於勝。


「フッ」

と鼻で笑う正九郎に三吉。

「笑うなー!!」

於勝が、拳を振り上げて二人を威嚇する。


「それはさておいて、於台屋は商売が軌道に乗ったかな?」と商いを心配する奇妙丸。

於勝がそれに気づいて説明する。

「於台屋は美濃では名称を変えて。これからは加木屋と名乗るそうです」

「それはどうしてだ、於台屋は老舗じゃないか?」

「美濃国で、美濃焼きが盛んになり、新たな瀬戸物が多く流通することになったため、対抗して伝統ある常滑焼きの本拠地の名を冠することにしたそうです」

・・・常滑は、律令の時代から尾張南部に栄えた陶器生産集団の本拠である。苅谷から熱田、羽豆崎のある知多半島一帯には多くの窯が造られ、その窯で焼き上げられた陶器が、伊勢湾の海商達によって日本全国の津々浦々へと運ばれた。


「もともと常滑焼きは、知多半島の加木屋郷の陶器物ということで、全国展開を考えて本場の地元色を売りにしようという戦略のようです」

武家商人・生駒家の一族として物資の流通販売に通じる生駒三吉が補足する。

「商人も生き残るために大変なのだな。常滑焼き、瀬戸焼き、美濃焼き、どれも素晴らしいので日本中に受け入れて貰いたいものだな」

「そうですね」と相槌を打つ知多水軍の佐治に、於勝。

知多の領主・水野家とともに、佐治家も常滑焼きには深く関わっている。


織田家の保護の下に「天下一の称号」を冠しても恥ずかしくない陶芸家が、尾張と美濃両国のどちらかに出現して欲しいと思う奇妙丸だった。


*****


*フィクションです。

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