279部:竹中半兵衛
パアーーーーン
奇妙丸達を囲む疋田勢の背後の森から一発の銃声が聞こえ、疋田勢の一人が倒れた。
森から、全身白い鎧兜で身を固めた新たな一軍が現れる。そして先頭の白武者が手を上げて叫ぶ。
「皆、伏せよ!!」
「呂左衛門!」
先頭に立つ、黄金の前立て兜の白武者は、奇妙丸達が良く見覚える人物だ。
「呂左衛門が伏せろと言っている、しゃがめー!」
奇妙丸が全員に向かって叫ぶ!
ドゴオオオオオオーーーーン!!
天空に鳴り響く銃声。
白武者衆、百丁の銃口が一斉に火を噴いたのだった。
銃声の後、改めて楽呂左衛門の率いる白い一団をみて驚く一行。
「白武者の人数が増えてる!」
更に街道からは、半田勢の背後から浅井家の軍勢が現れ、朝倉敦賀衆は前後からの挟み撃ちにあう。
浅井軍の中から赤い鎧で身を固めた一人の武者が躍り出て来た。
「街道で争っている不穏な軍勢が居ると聞いて参った! 浅井家南方軍監・遠藤喜右衛門直経である!!浅井領と知っての不届きか!!」
赤武者が、大音声で呼ばわる。
「遠藤だ!」
浅井家の中でも遠藤と言えば世に聞こえた勇者だ。
「いかん」
遠藤の姿を見て驚く朝倉軍。
「ひけっ!ひけぇー!」
半田又八郎は、一目散に北国脇街道を引き返す。
疋田右近勢も、半田を追いかけて撤収する。
「疋田、名の通り退くのが早い」
と武藤喜兵衛が敵の引き上げる様を皮肉る。
周囲の屍を見渡す於勝。
「敦賀衆の四分の一は倒したようだな」
「大国火矢の合図を偶然みて駆け付けました。奇妙丸様の危機に間に合ったようで、急いできた甲斐があったというものです」
「有難う、呂左衛門」
呂左衛門の傍らに立つ白髪の老将が気になる奇妙丸。
「こちらは?」
「彼は私の与力となった森高次殿です。殿(信長)様が派遣して下さいました」
「鯰江の森で候」老将が兜を脱ぎ奇妙丸に礼をする。
「なるほど! 少しだが父から事情を聞いていた」
「若様、お世話になります」
高次が再び頭を下げると、その後ろに居た白武者三人も同じく礼をする。
「これは、息子の森兵橘重政と森甚八友重(のち高政)と、一族の森一郎左衛門です」
「若様の御家中は森殿だらけになりましたな」と笑う呂左衛門。
「於勝の存在が薄まるやもしれぬ」
於八の発言に頷く桜だ。
「なにをー!森と言えば俺だろう!」と騒ぎ始める於勝を見て、於勝は於勝だなと思う一同。
周辺に人が集まる奇妙丸を首領と見て、遠藤喜右衛門直経がやって来た。
「襲われていた一行は貴様達のようだが、事情を聞かせて貰おうか。私は浅井家の南方方面軍監・遠藤直経だ。我等が領内で私闘は許しておらぬぞ!!!」
・・・・遠藤喜右衛門直経は、永禄11年(1568)年の足利義昭を奉じての信長の上洛戦の折は、浅井家に宿泊した信長に対して、暗殺計画を立てて長政に進言したが、長政が却下するにおよび、逆に織田信長と親交を深め、現在では朝倉家中でも隠れも無き親織田派の重臣となっている。
「孫作殿の父上で御座いますか?」
「我が愚息の知り合いとは?」
息子の名前を出され、態度がやや緩くなる遠藤。
「織田奇妙丸に御座います」
「これは、ご無礼の件お詫びいたします」
直経は急いで下馬する。
直経の傍に、進み出る奇妙丸。
「浅井家の英雄、直経殿に出会えて光栄に御座います。我らはこれから岐阜に戻るところ」
「奇妙丸殿を賊から守ることができ、我が主も喜んで居ましょう」
「本当に助かった」
奇妙丸から直経の手を取って、立ち上がらせる。
直経は奇妙丸をまじまじと見た。
(彼が信長の跡取りか・・・)
そこへ、
「織田家の一同に、助けられたな!」
武藤が悪びれず、奇妙丸の傍らにやって来た。竹中半兵衛も前に出て来て遠藤に一礼する。
「武藤殿も御無事で良かった」
「いやいや、大した火力だ。驚かされました」
織田勢の火力を褒める喜兵衛。
「有難うございます、皆様は御無事ですか? なんとか撃退できて本当に良かった」
(白武者衆に、浅井家の遠藤殿が来てくれてなければ、危なかったかもしれない。運が良かった)
戦いを振り返り、危ない乱闘だったと思う奇妙丸。伴ノ衆の大国火矢は良くも悪くも目立つということだ。泉神社で「お導きを」と願ったことで、早速、神様が願いを叶えてくれたのかもしれぬと、心の中で手を合わせるのだった。
「奇妙丸様は、ご帰還される途中ですか?」
遠藤が事情の聞き取りを始める。
「はい、休息がてら参拝したところ、武藤殿と竹中殿が、敦賀衆に追われて現れたという訳です」
「成程」
奇妙丸が武藤に話をふる。
「ところで武藤殿、竹中殿が御一緒ということは武藤殿の用事の方は達成されたのですか?」
「いや、半兵衛殿には見事にふられたで御座るよ」
「半兵衛殿は武田家に仕官せぬと?」
「そうで御座る」
遠藤が、武藤と竹中を交互に見る。
「武田の武藤殿は、竹中殿を勧誘に来られたところだったという訳ですね」
「はい」
「そこへ敦賀衆が現れて、竹中殿は庵を追われ、ここまで逃走してこられたと」
「はい」
その通りと返事する半兵衛。
「しかし、竹中殿の所在が敦賀衆に割れてしまった以上、ここに留まるのも無理が御座いますな」
「うむ」
困った事だと頷く。
「どうです、浅井家にご出仕されては如何でしょう?」
すかさず、竹中半兵衛に勧誘の手を差し伸べた遠藤だった。
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