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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十五話(竹生島編)
278/404

278部:泉神社

泉神社拝殿。


素戔嗚命と大国主命へ、参拝を終えて引き返そうとする一行の中で、桜が兄が上げた大国火矢に気付く。

「奇妙丸様、兄が異変を知らせています!」

「む、急いで勝盛の所に戻るか。下にも警戒するよう知らせを」

「はいっ」

桜も、石段下の連中に異変を知らせる為、大国火矢を空に放つ。

勝盛はそれに気づき、黒武者達に戦闘態勢を取らせた。


拝殿の背後にある竹林の向こうに続く森の中から、呼び声が聞こえた。

「おーーい! 助けてくれー!!」

「なにごと?」

森の木々の葉が擦れあう音や、木が倒れる音がする。

傍衆達は警戒しつつ、拝殿の裏側へと回ってみた。

そこへ神社の裏手から、見たことのある人物が、斜面を転がる様に現れた。


「あっ、あれは」と桜。

踏ん張って立ち上がった武藤喜兵衛が、数人の侍を伴いこちらに向かって走って来る。

「武藤殿!」

「伊吹山から一里程追いかけられております。本当にシツコイ奴らだ」

「何処の者達ですか?」

「疋田右近の手勢!!」

「敦賀の疋田です!」と傍らの武士が情報を補足する。

こちらの武士は?

と発言した武士の人相を凝視する奇妙丸。肌の色は白く、身体の線の細い青年だ。喜兵衛門が伊吹山山中に向かった時は供の者はついていなかったはずだ。

「こちらが、竹中半兵衛殿だ!」

「えええ?!」

まさかとは思ったが、驚く奇妙丸一行。天下に名を轟かす有名人が突然に現れたのだから無理もない。


・・・・竹中半兵衛はこの時、26歳。隠居するにはまだまだ早い年齢だ。武藤喜兵衛は23歳で、半兵衛の弟・久作の一歳年下である。武田家で鳴らす喜兵衛だが、三歳年下の彼から武田家への出仕を説得されるのは、半兵衛としては居心地が悪かった。


「朝倉の手の者が、竹中殿を拉致しに来たのだ」

「武藤殿、敵の数は?」

「疋田が百、半田が百の二百名程でしょうか」と半兵衛。

「迎え撃とう!」

「はいっ!!」

傍衆達も覚悟を決める。必要最低限の武装なので、鉄砲や弓の遠距離攻撃には弱い。

「竹林と拝殿を旨く使って、切り結ぼう」

「了解しました」

「はい、若様!」

武藤が奇妙丸の護衛が少ない事に気付く。

「黒武者衆達は?」

「階段下のあちらの鳥居前で」


見下ろした先では朝倉家の旗印が蠢いている。山田勝盛は休息中ながらも半田勢にしっかりと対処した様子で、騎馬武者の半田勢に対し荷駄者を並べ、防御線を構築している。流石、もと信長の弓衆達だ。まったく混乱は起きていない。

「先回りした敦賀勢に、すでに襲撃を受けている様子」

「あちらは敦賀の目付、半田又八郎の手勢だと思われます」

「くそっ、挟み撃ちか」

於勝が、どうしようもない状況に焦る。

「すまぬ!」

偶然ながら巻き込んでしまったので、罪悪感がある喜兵衛。

「拉致しようとする朝倉方がおかしいのです」

奇妙丸は、非道は朝倉敦賀勢にあると思う。

「忝い!!」

疋田勢が、斜面を懸け下ってきた。

「皆の者、迎え撃て!!!」

「「おうっ!」」

抜刀する一行。


「うおおおおお! 十連針兼定斬りさく!」

於勝が疋田勢の先鋒が竹林から広場へと抜ける前に突撃する。

大包平おおかねひら!たたっ斬る!」

正九郎も於勝に負けぬ速度で、疋田兵に斬ってかかる。

於八は国友銃槍を銃形態にして、火縄に点火する。

「国友銃槍!撃ち貫くぜ!!」

於勝と正九郎を援護し、竹林を抜けだそうとする先鋒を次々と狙い撃つ。於勝に続いて、武藤喜兵衛や竹中半兵衛、そして竹中の供の者達が疋田勢と戦う。

「太郎五郎。なかなかやるな!」

喜兵衛が隣の若武者の戦いぶりを褒める。

・・・・所太郎五郎は、半兵衛の4歳年少である。竹中家の遠い縁戚であるが半兵衛を尊敬して望んで隠居をしている半兵衛の世話をして仕えている。半兵衛の信頼する家来だ。


木々が邪魔となって、相手方は槍を振り回せないでいる。

「木を切るまでよ!」

疋田右近が中間を呼び寄せて、三人で持ち運ぶ大太刀を持ってこさせる。

「大太刀を使って来るぞ!」武藤が於勝に注意を即す。

疋田は相撲取りのような体躯だ。巨漢に存分に大太刀を振るわれれば性質が悪い。

「私に任せよ!」

といって、半兵衛は疋田の懐に素早く潜り込み、大太刀を握らせない。半兵衛は剣術の腕前も超一流の様子で、疋田の抜いた懐刀を軽く往なし攻撃を試みる。

半兵衛の剣技は安心して見ていられる。

しかし、体力的には体躯に優れる疋田が勝っているのは一目瞭然なので、竹中家郎党の左手首から先の無い喜多村きたむら十助が加勢に加わった。ほぼ片腕ながら喜多村十助は、半兵衛の体力と非力を補う。半兵衛と十助は二人で足りない部分を補い合う相棒のようだ。

・・・・喜多村十助は半兵衛より2歳年長の28歳、美濃不破郡の豪族・不破太郎兵衛重信の息子で、安藤守就(伊賀伊賀守いがいがのかみ)の娘婿となり、竹中半兵衛とは相婿で義理の兄弟だ。本来ならば「太郎」の名で不破家惣領職を相続しても可笑しくない血流だったが、永禄7年(1560)盟友・竹中半兵衛重虎の美濃稲葉山城(現・岐阜城)奪取の際に左手首から先を切り落とされ、それを恥じて家督相続を辞退した。現在は相棒・半兵衛と共に隠居暮らしをしていた。


拝殿に躍り出てくる疋田侍が現れ始めたが、それは桜と奇妙丸で上手く撃退している。森の中でも武藤配下の隠密衆が、疋田勢の後輩に回って後方をかき乱している。


先回りしてきた半田勢の騎馬隊に対しては伴ノ衆が煙幕で撹乱しながら、少しずつ片付けてはいるが、五分五分の戦いでこちらの加勢には来られない様子だ。半田勢は黒武者衆の後方にも回りこもうとしている。

「まずいな、分断される。それにこちらは圧倒的に数で押されている」

「石段を降りて、あちらと合流しましょう」

喜兵衛が奇妙丸の傍まで戻ってきた。

「うむ、皆、石段を降りるぞ!」

「「はいっ!」」

相手の攻勢を防ぎつつ、黒武者たちと合流するために少しずつ引き下がる。

一気に敵に背を向けて逃げようとすると、追手がより有利となり、後輩にも敵の攻撃を受ければ黒武者衆も崩れる可能性がある。

「大丈夫か?!」

「くそっ!」

次第に泉の周辺に追い込まれてゆく奇妙丸達。


*****


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