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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十三話(源氏長者編)
253/404

253部:森と坂井

岐阜城本丸御殿、廊下。


義兄上あにうえ、私も浅井家一万の軍勢を動員するため、先に領地に引き上げようかと思います」

「そうか、長政殿もあれをみて火が付いたのであるか」

「はい。私も先陣を勤めると名乗りを挙げたくなりましたよ。しかし、国許の諸将を先に束ねぬといけませんので」

「浅井家は湖北の雄、上洛参陣をお待ちしていますぞ。それから、余と共に京極家の方も共に参内して頂きたいのだが」

さらりと信長は言った。

・・・・浅井家にとって京極家を京都に手放すことは、京極家執事という浅井家の近江支配の正当性と名目を失いかねない問題だった。


「はっ、京極高吉殿に窺ってみます。ただ、小谷の京極丸で臥せっておられ、外に出られる状態ではありませんので参内はなかなか難しいと思われますが」

チラッと於市の表情も見る信長。

「うむ。高吉殿に一筆書くのでその書状を渡して下され」

「はい。承りました」

二人の会話のを見て、奇妙丸が声を掛ける。

「あの、お願いがあるのですが」

「どうした、奇妙丸?」

「私も叔父上や於市様について湖北の様子を見て参っても宜しいでしょうか?」

奇妙丸の発案に驚く二人。

「断る理由は御座いませぬが・・」

どうしたものか?と義兄あにを見る長政。織田家の嫡男が小谷城を訪れると浅井家中にも、反織田派がいるので暴走する輩が出るかもしれない危険がある。

「国境まで送る様に申し付けようと思っていたが、まあよい。小谷城まで行って参れ」

「有難うございます、父上!」

「良いかな長政殿?」

「はい」

一歩間違えれば、奇妙丸が浅井家の人質になるが、信長は義弟を「英雄」と信じている。卑怯な真似はするまい。

それに、浅井家の担ぐ神輿である京極家の当主を京都まで引きずり出すには、ここで織田家が先に誠意をみせて、嫡男・奇妙丸を小谷城に遣わし、その代価として京極家の主要人物を京都へと出してもらうことが出来るだろうと即座に判断した。その方が浅井家内部の反感も抑えられるだろうし、内部事情も読めるかもしれない。この発案は奇妙丸の手柄だ。


「それでは奇妙丸殿、出立は明日の早朝という事で」

長政も甥の言う事なので拒否する理由はなかった。浅井家に来てもらっては困るという後ろめたい事はなにもない。

「分かりました。宜しくお願い致します!」

奇蝶も、やや心配ではあるが納得する。武将には時に豪胆さが必要なものだ・・。

「では」一礼して踵を返す長政と於市御前、そして廊下に控えていた浅井家の家臣達も長政の後をついてゆく。

別館へと引き上げる長政達の後姿を、信長と奇妙丸は見送った。


*****

信長、奇蝶御前、奇妙丸が私室に戻り、

信長が傍衆の矢部善七郎康信に指示する。

「至急、岐阜城下に高札を立てて民衆に明日の奉納相撲を伝えよ」

そして小姓の菅屋於長を招きよせる。

「森と坂井は悉く対立するのう。まだ広間に居るだろう。ちょっと両者を呼んで参れ」

「ははっ!」

於長が、まだ退城していないだろう両者に、声掛けをしに駆けだしてゆく。

「来客の前であれでは、御所に参内する時でもあの二人は先を争いそうだ」

アッハッハッハ!

と傍衆達の笑いをとって、一緒に笑っている信長。


しばらくして森可成親子と、坂井政尚親子が信長の私室に入ってきた。

「お主達、何故にそこまでいがみ合うのだ?」

「こやつが何かにつけて我が息子と、自分の息子を比べるので」森可成が困った顔で報告する。可成の嫡男・可隆も迷惑そうだ。奇妙丸の傍衆として控えていた森於勝も兄の事なので心配だ。

坂井政尚が可成を見て、

「お主こそ、そのような言葉が気になるのは息子に入れ込み過ぎなのではないか?」と言い返した。

「何!」と政尚の一言が可成の沸点に近づいた様で、一気に場が殺気立つ。

「殿の御前ですぞ!」と太刀持ちの堀久太郎が両者を嗜める。

「お主達はどうしてすぐそのような喧嘩になるのだ」


「困ったものだな」と信長が溜息をつく。

「信長様、我らも宜しいですか?」

「おう」

そこへ、呼び出しに心配して廊下に控えていた信長の乳兄弟・池田恒興と、家老の川尻秀隆が入ってきた。両者とも東美濃攻略戦に目覚ましい軍功を挙げて、与えられた所領は森家と坂井家に隣接している。

これからの連携を考えていく上でも、両者のつまらない仲たがいは迷惑だ。

「両者、ご縁を結ばれてはどうか?」

池田恒興が二人に進言する。

「可成、お主の所には於高姫がいたの」

信長も良い案だと思い、恒興を後押しする。

「はっ、長沼家に嫁ぐことになっていましたが、先方の息子・藤次の戦死により独り身で御座います」

「生涯ひとりというのも寂しかろう、久蔵尚恒に嫁入りせよ」

「そして政尚、お主の娘を明知遠山景行(*1)の与力・小里光次(*2)の元へ嫁がせ、小里家からは森可隆に娘を嫁入りさせることにしよう。どうだ?」

「ええ」

「まあ」と互いを見合って歯切れの悪い二人だ。ここに居ない小里城主の小里光次は、知らないところで二人に巻き込まれた様な立場になっているが。

「余は、武田家の制度に倣って、お主達二人を弾正忠家の両職の様な地位に据えたいと思っているのだが」

「両職とは御栄達ではありませんか、羨ましい」

川尻秀隆が、できれば自分が成りたいくらいだという態度で両者を持ち上げる。

秀隆に諭されたように羨望される職名なのだと自覚する二人。

「「光栄に御座います。全ては織田家の為に」」

「うむ、判ればよい。婚礼は出来れば早い方が良いな」

(確かに各家で婚姻関係を結べば東美濃一帯は同族集団となり地域が安定する。池田殿に川尻殿も安心されるであろう)

「小里殿の主、遠山景玄殿は、我が小姓・三宅与平次とは一族。良い縁ですね」

奇妙丸も池田恒興の意見に同調した。

「そうか、お主の召し抱えた者は三宅与平次というか。もう一人も余に紹介せよ」

「高橋虎松と申します」

もちろん信長は虎松の出自も配下の忍びにより報告を受け知っている。

「うむ。その方ら相撲の器用であるらしいな。明日は、お主達の相撲が見れぬのが残念だ」

「奇妙が、長政殿に付いて行きますからね」と奇蝶御前も残念そうだ。

「そうであるなぁ、今から明日の前哨戦をやってみせよ!」

信長は奇蝶の喜ぶ顔が見たい。

「今すぐですか?」

「うむ。相撲は今すぐ出来るのが良いのだ。中庭に場所を作ろう」

ハッハッハッハ!

信長の勢いは止められない。虎松に与平次は相撲を見せる事になる。


*****



(*1)明知遠山氏。遠山景行(義兄弟・三宅高貞)→遠山景玄→遠山利景(1540~1614)

(*2)小里光忠→小里光次→小里光久(1582二条城戦死)

武田家と決別後の合戦で、坂井一族が明知遠山氏とともに多く討たれていることから。後詰に動く縁戚関係がある可能性を想定して、小説設定では縁を結ぶことにしました。


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