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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十二話(志摩鳥羽編)
242/404

242部:津田一安

伊勢 大湊。


伊勢神宮を参拝した織田奇妙丸と武田松姫一行が大湊にやって来た。

伊勢国司家に養子入りした北畠茶筅丸の、後見人兼伊勢大湊の奉行となった織田家家老・津田掃部助一安かもんのすけかずやすと、武田家駿河先方衆の朝比奈信良、水軍頭領の伊丹秀虎が出迎えた。


「松姫様、神宮参拝を終えられましたか?」

伊丹秀虎が松姫に声をかける。

「はい、皆様へもお札を頂いて参りましたよ」

「有難うございます」

その隣では奇妙丸のもとへ津田一安が挨拶に来た。一安の後ろには大湊の商人・長谷川一族が控えていた。

一安は、織田家の一門衆だったが現在は遠慮して津田姓を名乗っている。瀧川一益よりも少し若い。武田信玄入道にも高待遇を受けていただけあって、如才なく振る舞う事ができる武将のようだ。織田家にとっても貴重な伊勢経営戦力である。東海との窓口として重要な大湊の奉行を委任され、信長の武田外交への配慮が働いていることが判る人事だ。

「奇妙丸様、この度、湊奉行を賜った津田一安に御座います」

「うむ、聞いているぞ。茶筅丸の事を宜しく頼むな」

「はい、北畠親子も朝廷や将軍、武田家や徳川家とも協力関係になり養子縁組に納得されている様子ですので、次第に垣根も無くなりましょう」

「大湊は東海道沿岸湊の玄関口として重要だ。上手く管理してくれ」

「承知いたしました、若様」

奇妙丸の背後には、瀧川一益が後見人としてついているので、一安はすこし距離感を感じている様子で、話し方は丁寧だが奇妙丸の様子をうかがっている。

「武田家と織田家のつなぎ役としても頑張ってくれ、頼りにしている」

奇妙丸の後に、松姫も津田一安に挨拶する。

「私からも宜しくお願いいたします。武田の者達も変わりなく扱って下さい」

「松姫様にもお声をかけて頂き光栄で御座います。織田と武田両家の友好の為に、この一安、粉骨致しまする」

松姫の支援があれば、その婿となる奇妙丸ともこれから良好な関係を築いていけそうだと安心する。

奇妙丸の弟・茶筅丸もしっかりと貢献して、織田家と血のつながりがある重鎮として貢献して行こうと意思を固める一安だ。

カンカンカンカン!と

物見台の見張り兵が鐘を鳴らす。

「あれは武田家の船団ではありませんか?」

指さす先には武田菱の家紋を帆に付けた帆船が見える。

「そうですね、あの旗の家紋は甘利」

同僚の板垣が間違うはずもない甘利の紋だ。

甘利昌忠達が、南志摩の海賊達との交渉を終えて、丁度大湊にやって来たのだった。

湊で入港を待ち、甘利を迎える一行。

「松姫、お待たせしました」

甘利藤蔵昌忠は多少日焼けをしている。南志摩の天候も穏やかだったのだろう。

「奇妙丸様、南志摩の諸豪は武田家に協力して、相模北条家に備えてくれるそうです」

「そうか、良かったの」

「織田家が志摩の平穏を保って頂ければこそ、南志摩の海賊衆も向後の憂えなく駿河に渡って来られるというものです」

「うむ。平穏を維持する事に努めるので、武田家は安心して相模北条氏に備えてくれ」

「はいっ」

「武藤はどうした?」

武藤の行先を、朝比奈が答える。

「そうか、奴なら心配ない」

甘利と板垣が頷き合う。両者とも甲斐に戻る目途が立った様子だ。

「松姫様は、お伊勢参りの目的は達せられましたか」

甘利が松姫にきりだす。

「はい。伊勢ならではの御土産も沢山頂きましたし」

松姫が奇妙丸を見て、微笑む。

「それでは、お国元に帰りましょう」

仲の良い処申し訳ないがという表情で甘利が申告する。

「そうですね。お正月には韮崎館にいないと、父が寂しがりますね」

「「よろしくお願いします」」

松姫に頭を下げる両職。甲斐では信玄入道の嫡男・武田義信の切腹事件があってからは居館の雰囲気が暗く、艶やかに成長した松姫がいることで信玄入道の心は癒されているのだった。

「姫、この伊丹権大夫がお送りします」

水軍総大将の伊丹が駿河まで、松姫一行を搬送する。

「向井殿は残って、友野殿の商売に協力して下され」

板垣が、向井政重に伊勢志摩に残る事を命じる。北畠家旧臣の向井が、武田家の代官として小浜湊を根拠地とする、武田の出先機関を纏めるということだ。

「はは!」

政重は故郷に錦を飾る事が出来て嬉しくなったようだ。小浜湊は小浜景隆の根城であったが、九鬼家とも協力関係を築いていくならば、因縁のある景隆を前面に出すよりも政重が調整役として立つことが望ましいと判断したのだ。

当面の仕事は、駿河の友野と、大湊の長谷川からの依頼を海賊衆達に仲介することになるだろう。


松姫が奇妙丸の前に立つ。

「奇妙様、それでは」

「うむ、またふみを書くから」

「はい、私も書きます」

川尻吉治が松姫の後ろに立つ。

「では、若様。私も松姫とともに」

「おう、吉治。頼んだぞ」

「承知しました。若様」

松姫は奇妙丸達に笑顔を見せて、伊丹の安宅船に乗り込んで行った。

続いて板垣・甘利達が奇妙丸に一礼して次々と安宅船に乗り込んで行く。一斉に櫂が降ろされ漕ぎ手の太鼓が鳴り響く。

「お達者でー!」

松姫や、その侍女たちが船縁ふなべりに並んで手を振っている。

奇妙丸達も手を振って、松姫の乗る安宅船の姿が見えなくなるまで見送り続けた。


*****


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