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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十二話(志摩鳥羽編)
240/404

240部:南志摩

志摩の波切湊。

http://17453.mitemin.net/i224381/

挿絵(By みてみん)

武田家の船団が向かった南志摩には、かつて九鬼家もその一員だったが、英虞七人衆と呼ばれる有力な海賊達が居た。

ここは現在、英虞七人衆の後援で波切城主に復帰した川面氏が湊代官をしている。

波切湊には、多くの艦船が湊に停泊していた。

南志摩の海賊頭達が、ここに立ち寄った武田の智将・甘利昌忠の参集に応じて集まっていたのだ。



波切城、城館の大広間。

南志摩の一角ひとかどの海賊頭領達が所狭しとばかりに集っていた。

その中でも志摩の国衙を抑える国府の三浦内膳正と三浦新助、その一族の和田大学助、甲賀の武田雅楽助、浜島の小野田豊後守、和具の和具豊前守、越賀の越賀隼人、波切城主に復帰した川面源次郎が有力な頭領だ。

「伊勢国司家はもう駄目だな、船江城で織田に抵抗する北畠一揆衆を、主である北畠具房が解散させたそうだ」

「最後まで抵抗したものは処刑されたとか、彼らこそ北畠の忠臣なのにな」

「まったくだ。北畠親子は尻尾切りをして自分達は生き残る気でいるのだろう」

「世知辛い奴等だな」

最近の情報を交換し合う頭領達。

和具豊前守がしぶい表情で呟く。

「しかし、我らもこの前の戦いでは大打撃を受けてしまった」

「ダイダラボッチがでたとは、武田の者に言っても信じぬだろう」

力なく笑う越賀隼人。

「女護島の罰が当たったに違いない。もう一切手出しはせぬ」

海賊頭達の勢力は、どんぐりの背比べ状態でもある。誰もが一歩先んじる為に、東西交通の中心地にある女護島の姫と縁談を持って取り込み、島を我が領地としようと目論んだ結果だった。

「おお、そうだな」

頷き合う海賊衆達、海の男は意外に信心深い。古からの禁足地に手を出した事は失敗だったと後悔し祟りを怖れている。


広間の扉が開き、正装姿の甘利昌忠が数人を引き連れて入ってきた。

「甲斐武田家の家老を務めている甘利藤蔵昌忠と申します」

丁寧に挨拶する昌忠。

「「よろしくお願い致します」」

(この方が、武田家の両職甘利殿か・・)


向井伊兵衛政重が口を開く。

「集まってもらったのは他でもない。織田との戦はやめて我らの参加となり、駿河からの物資を堺に運んでもらいたい。また、武田家に仕官するものは高禄をもって抱えるので、小田原の北条水軍との戦いに参加してもらいたいのだ」

北畠家から出奔した向井のことは、志摩の海賊は皆知っている。

「武田殿の待遇は、我らが保障する」

小浜民部左衛門景隆が続けた。

小浜はもともと志摩13頭衆のひとりだった。頭領達にとっては長年同じ釜の飯を食べてきた仲間だ。

「良い話だぞ」

ともう一度繰り返す。


顔を見合わせる諸将。

さきのダイダラボッチ出現事件で打撃を受けた諸将は、意地を張って織田家といつまでも敵対することは、いずれ滅亡へと向かう事が分っている。それに長年商売敵として敵対してきた西の熊野水軍や、雑賀水軍に頭を下げ傘下に加わることは海の男としては割り切れない。ここは武田家から差し伸べられた手がとても良い条件に思えた。

「甲賀の武田雅楽助と申します。我ら甲斐武田家に御厄介になります」

武田雅楽助は若狭武田家の支流だが、遠い先祖は甲斐武田家とも同じだ。

「それでは、私も」と和具豊前守。

「私も」小野田豊後守。

関を切った様に、次々と武田家に恭順する頭領達。


「皆さまのご協力大変忝い。この甘利昌忠、皆さまのご忠義に必ず応えまするぞ、これで御屋形様も織田家に恩を売ることができます」

「しかし、我らは九鬼家が志摩国に戻る事は耐え難いのです」

九鬼嘉隆と仲の悪かった武田雅楽助が、甘利に嘉隆の性格の悪さを訴える。

「嘉隆の顔は見るのも嫌だな」

「うむ」

新英虞七人衆は皆、九鬼嘉隆が戻って来る事は面白くない。

甘利昌忠が口を開く。

「問題なのは九鬼嘉隆殿か。皆さんには織田家とも仲良くやって行って貰いたいのだが、九鬼家は織田の重臣・瀧川殿にびったり張り付いているようだ。瀧川殿は信長公の信頼が厚い。大湊奉行になった津田一安殿は我らとも昵懇だが、取り立てられたのは最近で、あくまでまだ新参の家老だ。後ろ盾として、もう少し地位の高い譜代家老の方との縁が必要であろうな」

三浦が、隣の和田の顔をチラリと見る。三浦・和田は祖先を同じくする親戚だ。

「私共は、織田の重臣・佐久間信盛殿につてがあります」

佐久間氏は三浦・和田とは先祖が同じだ。佐久間家は伊勢神宮の御師とも繋がりを持っていたので、志摩の三浦氏とも伊勢参拝の折には交流を持っていた。

「おお、佐久間殿といえば今売出し中の織田四天王の一角いっかく

「甲斐武田家からの連絡とあれば、佐久間殿も喜んで応じてくれるだろうと思いますが」

「そうだ、それは良い考えだ」

甘利昌忠が三浦の手を取る。

「それに、畿内で重職を担っている佐久間殿を通じて堺の町衆達とも連絡を取ることができるかもしれません」

三浦の言葉にニヤリと笑う昌忠。

「これは楽しみだ」

こうして、南志摩の豪族を通じて、甲斐武田家と佐久間信盛の繋がりが強化されていくのだった。


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