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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十二話(志摩鳥羽編)
238/404

238部:夫婦岩

*****

二見浦は、北畠氏の領内である。織田家と講和したとはいえ、それに不満を持つ北畠家臣達がいつ一揆を起こし襲撃して来るかもわからない。

松姫付きの武田衆や、伴ノ衆は、浜の四方に目を配り万が一に備えている。


夫婦岩は、大きい岩を男岩と呼ぶ。高さは9mあり海面から突き出ている。小さい方の女岩は高さが4mあり大岩に寄り添うように立っている。 両岩の間隔は9m程だ。その間は太い大注連縄おおしめなわで結ばれている。

砂浜を歩く奇妙丸と松姫。

「美しい景色ですね」

「かつて大和姫がこの地を訪れた時に、この景色に感動して二度振り返ったことから、二見浦とよばれているのだそうだ」

「確かに、素晴らしい景色」

ふと目が合って意見が同じ事もあり、微笑みあう。

「桜姉ちゃん、貝を拾おうよ!」

「魚の取り方を教えてよ!」

虎松に与平次が桜を海に誘う。

「私達たちはここに居るから自由にしていいぞ」

「では」

兄弟が外周で警備しているので安全だろうと判断し、奇妙丸の言葉に従う。

「貴方達も行っていいですよ」

松姫が、年の頃が同じくらいの侍女たちに声を掛ける。

「はいっ」

松姫の侍女たちも水遊びがしたかった様子だ。

「富士が遠いですね」

海の向こうに霞んで富士の山頂が見える。

「いつも姫は富士の近くに居るので、小さな富士は珍しいですか」

「はい。夫婦岩と並んで見える富士、ここにしかない景色ですね。この景色を一生忘れる事はないです」

私もこの時をずっと心に刻んでおきたいな。

浜に居る者達を見渡し、景色をもう一度見る。織田と武田の幟が仲良く並んでいる光景は喜ばしい。


「あの注連しめ縄は、将軍様の命でしめることになったらしいです」

「心憎い演出ですね」

「将軍家は跡継ぎが途絶える事がありましたからね」

「両家が末永く結ばれますようにお祈りをしましょう」

「そうですね」

磐の方向に向かって祈ってから眼を開けると、不思議な光景が入ってきた。

「あれ?岩が三つになった?」

先に松姫が景色の異変に気付いている。

「なんだ、あれは?」

眼をこらして、もう一度良く見る奇妙丸。

「岩が、動いている? 誰か、あの岩に追いかけられてないか?!」

「泳いでくる人がいますね」


「たぁすけてぇー」


顔を見合わせてから、もう一度じっくり波間に浮かぶ人を見る。

「あっ、於勝さん?!」


「助けてぇー」


沖から波の音にまぎれて於勝の叫び声が聞こえる。

夫婦岩の周りに次から次へと、岩の様な巨大なものが波間から出現する。

「一つではないぞ!」

浜で遊んでいた者達が、自分たちに向ってくる黒い物体に気付き焦る。

「逃げろぉー」

「きゃあああ!」

浜辺で遊んでいた松姫付きの侍女達の叫び声に、浜の周りの者達も異変に気付き浜に走る。

波打ち際にいた者は、一斉に内陸に向かって走り、浜辺は大混乱だ。

「於八、あれは?!」

「鯨です!」

奇妙丸の元へは於八が駆けつけていた。

「くじら?!」

於勝が、奇妙丸達の幟に向かって必死に助けを求めて泳いで来る。

「於勝についてきたぞ!」

「これは、撃退せねば」

於八が波打ち際に向かってかけ出し、少し手前で手にしていた銃槍を構える。先端には先の戦いで得た海賊衆の石火銛が装着されていた。

浅瀬に辿り着き、立ち上がって浜に走る於勝。

於勝に迫る鯨の口が大きく開く、口に向かって海水が吸引されてゆく。


「うわぁあああああ!」


於勝の叫び声が浜辺に響いた。


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